スサノオの無茶ぶり試練の翌朝。
オオナムチが帰らなかったので、スセリビメは泣きながら葬儀の支度を整えていた。
昨日から愛娘に無視され続け、スサノオは肩身狭そうに草原を眺めている。
スサノオの無茶ぶり試練の翌朝。
オオナムチが帰らなかったので、スセリビメは泣きながら葬儀の支度を整えていた。
昨日から愛娘に無視され続け、スサノオは肩身狭そうに草原を眺めている。
ったく ・ ・ ・ ・ メソメソすんなよ。あの程度で死ぬようじゃ、お前を幸せにできる器じゃなかったってことだろ??
ギロッ・・・・
ハハ。さすが俺の娘。いい睨み効かすな。どうしよう。久しぶりに泣きそう。
・ ・ ・ ・ いや、泣かねぇけど。
はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
俺の見込み違いだったんかなぁ ・ ・ ・ ・
パパ ・ ・ ・ ・
すると、草原からいないはずの人間の声がした。
くすくすっ ・ ・ ・ ・ スサノオ様が僕を見込んでくださっていたとはね、驚きです。
お陰様で死にかけましたよ。
この声はオオナムチ!?
スサノオはビクッと跳ね上がった。
うわっっ!
化けたかっっ!?
いやいや。そんなに驚かないでくださいよ ・ ・ ・ ・ 。死んだはずの主人公のお約束じゃないですか。
本当だ。足がついてる。
どうやらまだ生きていたらしい。
オオナムチ!?あぁ!よかった!
よかったぁ!!!
スサノオが口をぽかんと空けていると、横からスセリビメが泣きながらオオナムチに抱きついた。
キャッ!
しかし、すぐスサノオに首根っこを掴まれ剥がされる。
テメェ、俺の娘に
何さらしとんじゃ!?
えぇ?僕??
今の僕が悪いのっ!?
当ったり前だコラァ!!
それより、矢は取って来れたんだろうなぁ??火に怯えてヒィヒィ逃げてきたんじゃねぇのか?オィ??
いえいえ、ちゃんと見つけてきましたってば。まったく、本当に死ぬところだったんですからね??スサノオ様も人が悪い。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はい、これ。鏑矢です。 ・ ・ ・ ・ ・羽はもげてしまいましたが。
・ ・ ・ ・ ・ ・ おぉ、見つけられたのか。
オオナムチは矢を渡すと声を低くし、スサノオにだけ聞こえるよう耳元で話した。
ところで、スサノオ様、例の約束の件なんですけど ・ ・ ・
約束?
ほら、娘さんと、僕との結婚を考えても良いとかなんとか ・ ・ ・
あぁ??
んなもんした覚えはねぇ。
えぇ~~ ・ ・ ・
オオナムチは緊張感の無い子供が駄々を捏ねる様な声を上げた。
あぁん??
しかしまたすぐにいつもの調子に戻る。
いや ・ ・ ・ ・ ・ ・ そうですか。
・ ・ ・ うん、そうですね。そういえば、僕の聞き間違いだったかも。失礼しました。
そうだ。テメェの勘違いだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
そんなことより、ナヨいの。
テメェ、シラミ潰しはしたことあるか?
シラミ潰しですか?あぁ、懐かしい。子供の頃はよく父のをやらされましたよ。
シャンプーがこの世に現れるまで、シラミは一般的だった。しかし、この『シラミ潰し』は慣用句として大抜擢される程の面倒な作業で、子供達の中では長い間やりたくないお手伝いNo.1として輝いていた。
逃がすと他の人に移ってしまうので、しっかり潰さないと怒られるのだ。あのプチッって感覚がとっても気持ち悪い。
今日は俺のシラミを潰してくれ。
そう言うとスサノオは、さっさと家に入って行ってしまった。オオナムチも後に続こうとすると、スセリビメが慌てて引き止める。
・ ・ ・ ちょ ・ ・ ・ オオナムチ ・ ・ ・ ・ ・ ・ これ、持って行って。きっと役に立つから。パパにバレないようにね!
スセリビメに渡されたものは、椋の実と、赤土だった。何に役立つのかサッパリだったが、流れから察するに、ただのシラミでは無いのだろう。とりあえず袖の中に忍ばせた。
家に入ると、大広間でスサノオが不機嫌そうに待っていた。部屋を見渡すと、よく日の当たる場所に、いい感じの柱が立っている。
・ ・ ・ あそこがいいや。
スサノオ様、お待たせしました。
・ ・ ・ あの柱の近くが明るくて良さそうですね。そこでやりましょ?
オゥ。
スサノオは柱の前であぐらをかいた。
さーてと!
っと頭を覗き込んだオオナムチはそのまま硬直する。
・・・・・
そこにいたのは、シラミとはサイズもキモさも何倍も違うムカデだったのだ。
あぁ?どうした??
いえ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
何でもないです。
いやいやいやいや!!『どうした??』じゃないだろ。何をどうしたら頭の中でムカデが飼えるんだよっっ??何?おととい室屋に居たやつペットだったの??
あぁー、手じゃ潰せないし噛むしかないか。でもそしたら毒にやられる・・・何か他の・・・他の何か・・・
・ ・ ・ ・ ・ 木の実っっ!!!
試しにオオナムチは、先ほどスセリビメからもらった椋の実を噛み赤土と一緒に吐いてみた。
カリッ ・ ・ ・ ペッ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
スサノオは、前を向いたまま動かない。
・ ・ ・ よし。気づいてない!!とりあえず実が無くなるまでやりきろう ・ ・ ・
カリッ ・ ・ ・ ペッ!
・ ・ ・ カリッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ペッ!
なんだ。ムカデを噛み砕くくらいの力はあんのか。可愛いとこあんじゃねーか。
最初は頼りなかったが、少しは使えるようになったかな ・ ・ ・ 。
スサノオはオオナムチの成長を感じ、少し安心した。
別に、スサノオはオオナムチを虐めたいと思って試練を与えている訳ではなかった。兄たちとのいざこざを自分が助けたところで、根本的な解決 にはならない。オオナムチ自身が解決するしかないのだ。
そのための試練だったのだが ・ ・ ・ 正直、スセリビメにばかり目が行ってるオオナムチを出雲に返す気にはなれなかった。
人の上に立つ才能はあんだから、あと少しの自信と、俺に反抗するくらいの勢いがありゃー完璧なんだけどなぁ。
そんなことを考えながらも、心地よい日差しに当てられたのと、髪を触られて気持ちよくなったのとで、スサノオはだんだん眠くなってきた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ グゥ ・ ・ ・ グゥ ・ ・ ・ ・ ・ ・
カリッ ・ ・ ・ ペッ!!
・ ・ ・ カリッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
あれれ?寝ちゃった??
くすくすっ ・ ・ ・ スサノオ様ってば、こーゆうところ憎めないないんだよねぇ。
ペっ。
オオナムチは、スサノオが深く寝入った事を確認すると、スサノオの髪の毛をゆっくりととかし、近くの柱にキツーく結びつけた。