美崎 みさき(みさき みさき)

先生(さきお)さんって、
メガネが似合わないわよね

美崎 先生(みさき さきお)

ぶしつけに何だよ。
インテリメガネの俺様に向かって
失礼なやつだな

美崎 みさき(みさき みさき)

先生さんがインテリ?
ふふっ……ふふふふっ!

美崎 先生(みさき さきお)

ジョークだっての。
笑いすぎ

美崎 みさき(みさき みさき)

先生さんはメガネ外した方が
カッコイイと思うけどなぁ~?

美崎 先生(みさき さきお)

メガネ外したら何も見えねえだろ。
俺の近視を舐めるなよ

美崎 みさき(みさき みさき)

本土に行ったら
レーシックの手術したら?
ネットでいい病院見つけたの

美崎 先生(みさき さきお)

ゲッ。
レーシックって眼球えぐるんだろ?
想像するだけで身震いするぜ

美崎 みさき(みさき みさき)

眼球えぐるって……。
もう、大げさなんだから。
じゃあコンタクトレンズはどう?

美崎 先生(みさき さきお)

どうしてそこまでして俺から
メガネを外したがるんだあ?

美崎 みさき(みさき みさき)

だって先生さんのメガネを外した顔、
大好きなんだもん

廃墟島の2日目 《 前編 》

美崎 先生(みさき さきお)

(みさきの言葉がずっと耳に残っていて
本土に引っ越してから
コンタクトレンズにしたけど……)

美崎 先生(みさき さきお)

(みさきが見てくれないんじゃ、
意味ねえよなあ)

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴……。
まさか、あれからずっと起きてたのか?

美崎 先生(みさき さきお)

ん?
ああ……眠れなくてな

美崎 耀(みさき あかる)

体力温存しとけって
言ったのは誰だよ

美崎 先生(みさき さきお)

はは、俺だな

美崎 耀(みさき あかる)

ジジイなんだから、
あんまり無理すんなよ?

美崎 先生(みさき さきお)

ピッチピチの35歳に向かって
シジイとはなんだこのクソガキ!

美崎 耀(みさき あかる)

イテテッ!
やめろバカ!!
ヘッドロックはマジで苦しい!

佐伯 玲也(さえき れいや)

朝から元気だね、二人とも

美崎 先生(みさき さきお)

おう、起きたか玲也。
俺はな、こうやって毎日
このもやしっ子を鍛えてやってんだ

美崎 耀(みさき あかる)

ゲホッ、ウゲホッ!
なあ、玲也……。
これって家庭内暴力じゃないか?

佐伯 玲也(さえき れいや)

さあ……。
僕は民事には詳しくないから、
何とも言えないな

美崎 耀(みさき あかる)

逃げ方がうぜえ

佐伯 玲也(さえき れいや)

それはそうと、
先生(さきお)先生。
女性陣はどこへ?

美崎 耀(みさき あかる)

そういえば、
若葉も亜百合も千雪もいないな

美崎 先生(みさき さきお)

あの三人なら、
姫乃に供える花を摘みに行ったぞ

美崎 耀(みさき あかる)

ということは
千雪に教えたのか?
姫乃が死んだってこと……

美崎 先生(みさき さきお)

ああ……。
俺から話そうかと思っていたが、
若葉と亜百合が上手に話してくれた

佐伯 玲也(さえき れいや)

小学生にはかなり重い話ですよね。
ショックを受けて
いませんでしたか?

美崎 先生(みさき さきお)

いや、千雪はあの歳の割には
しっかりしてるからな。
落ち着いて聞いてたよ

美崎 耀(みさき あかる)

そうか……

佐伯 玲也(さえき れいや)

僕たちも、
宮ノ内さんに手を合わせに
行こうか?

美崎 耀(みさき あかる)

そうだな。
兄貴も行くか?

美崎 先生(みさき さきお)

俺は夜中に合掌した。
若葉たちが戻ってくるだろうし、
俺はここで待ってるよ

美崎 耀(みさき あかる)

はあ?
夜中に一人で行ったのか?
単独行動するなって言ったの兄貴だろ!

美崎 先生(みさき さきお)

バーカ、俺は大人だから
いいんだよ。
ガキのお前らと違って
適切な判断ができるからな

美崎 耀(みさき あかる)

めちゃくちゃ言うなよ……

佐伯 玲也(さえき れいや)

とりあえず、
宮ノ内さんの所に行こうよ

美崎 耀(みさき あかる)

はあ……。
そうするか

美崎 耀(みさき あかる)

(こんなこと思っちゃ
いけねえのかもしんねえけど……。
やっぱり死体と対面するのは
緊張するな)

佐伯 玲也(さえき れいや)

どうした、美崎?
入らないの?

美崎 耀(みさき あかる)

あ、ああ

 ドアノブをひねり、ゆっくりと開ける。

日良 若葉(ひら わかば)

あっ、耀くんと玲也くん

 部屋の中央に横たわっている姫乃を
囲むように、
亜百合と千雪、そして若葉が座り込んでいた。

雲母 亜百合(きらら あゆり)

今ね、ひめちゃんの周りに
島に咲いてるお花を
お供えしてたの。
ちゆちゃんのアイディアなんだよ

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

姫乃おねぇを綺麗に飾ってあげます……

宮ノ内 姫乃(みやのうち ひめの)

 兄貴が姫乃の顔に被せた
ハンカチは横に置かれており、
口元や喉元から噴き出していた血が
嘘のように消えていた。

美崎 耀(みさき あかる)

姫乃の顔に血の跡が無い……?
それに、壁に飛び散っていた血も
綺麗になってるな

日良 若葉(ひら わかば)

千雪ちゃんに見せる前に、
私と亜百合ちゃんで拭いたの……。
千雪ちゃんにはちょっと
ショックなんじゃないかと思って

美崎 耀(みさき あかる)

それはご苦労様だったな。
姫乃もきっと喜んでるよ

美崎 耀(みさき あかる)

(だけど、服に付いた血はそのままだ。
なんだか痛々しいな)

佐伯 玲也(さえき れいや)

うーん……

美崎 耀(みさき あかる)

どうした?

佐伯 玲也(さえき れいや)

いや、何でもない。
弔いのムードを壊すのも悪いから、
余計な事を言うのはやめるよ

美崎 耀(みさき あかる)

は?
変な奴……

日良 若葉(ひら わかば)

姫乃ちゃん、綺麗だね

雲母 亜百合(きらら あゆり)

もともと美人さんだったからね

宮ノ内 姫乃(みやのうち ひめの)

 希島(のぞみじま)に咲いている
花々に囲まれた姫乃は、
真っ白な顔をして、
怖いくらいに綺麗だった。

佐伯 玲也(さえき れいや)

傷から想像するに、
とても痛くて辛かっただろうね。
それなのに綺麗な表情をしている。
笑っているようにすら見えるよ

美崎 耀(みさき あかる)

姫乃はさ……。
死ぬ直前に、
俺を見て笑ったんだよ。
すごく優しい顔で

日良 若葉(ひら わかば)

そうだったね……。
その前には、何かを伝えようとして
必死に口を動かしてた

佐伯 玲也(さえき れいや)

犯人の名前を
言おうとしていたのかもしれないね

日良 若葉(ひら わかば)

それもあると思うけど……。
それだけかな?

美崎 耀(みさき あかる)

え?

日良 若葉(ひら わかば)

女の子が死ぬ時に心残りなのって、
やっぱり好きな人のことだと思う。
だから、姫乃ちゃんは……

美崎 耀(みさき あかる)

好きな人?

日良 若葉(ひら わかば)

…………

日良 若葉(ひら わかば)

ううん、なんでもない

美崎 耀(みさき あかる)

なんなんだよ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

お兄ちゃんは、
人を好きになったことないの?

美崎 耀(みさき あかる)

あ、あるよそれくらい。
お前らも知ってるだろ?
俺の初恋はみさき先生だって

佐伯 玲也(さえき れいや)

へえ、それは初耳だな。
美崎は年上が好みなんだ?

美崎 耀(みさき あかる)

ゲッ!
あの時、教室に玲也は
いなかったっけ……。
言うんじゃなかった

佐伯 玲也(さえき れいや)

答えてよ。
美崎は年上が好みなんだろ?

美崎 耀(みさき あかる)

なんでそこに
食い下がってくるんだお前は

雲母 亜百合(きらら あゆり)

れいくん。
一つしか違わないくせに、
年上ぶっても駄目だからね?

佐伯 玲也(さえき れいや)

わかってないなあ雲母さんは。
高校2年生と3年生の間には、
厚い壁が存在するんだよ?

美崎 耀(みさき あかる)

はあ……。
お前らと付き合ってると
俺までアホになりそうだ

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ひどい!
私もアホ扱いなの!?

日良 若葉(ひら わかば)

みんな、静かにして……

美崎 耀(みさき あかる)

どうした?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ぐすっ……ううぅ……。
ううっ、ひっく……。
姫乃おねぇ……


 千雪は今までこらえていたものが
あふれ出したかのように、
姫乃の顔を見て泣いていた。


 その背中を、若葉が優しく撫でている。

美崎 耀(みさき あかる)

(島に着いてから日が落ちるまでは、
あんなに楽しい気分だったのに……。
どうしてこんな事になったんだ?)

美崎 先生(みさき さきお)

おーい、お前ら。
戻って来ねえと思ったら、
こっちに集まってたのか

日良 若葉(ひら わかば)

先生先生、千雪ちゃんが……

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ぐすんぐすん……

美崎 先生(みさき さきお)

なんだ?
泣いてんのか千雪ぃ!


 兄貴は千雪を抱き上げて、
その大きな手で背中をポンポンと叩いた。

美崎 先生(みさき さきお)

姫乃がいなくなって俺も悲しいよ。
こういう時は我慢すんじゃねーぞ。
いっぱい泣け、なっ?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ふえっ……ううっ……!
うわああーん!!


 兄貴の胸板に顔をうずめて
泣き叫ぶ千雪を見ている内に、
俺たちも瞳を潤ませていた。

日良 若葉(ひら わかば)

あれ?
おかしいな……。
今頃になって涙が……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

わかちゃんっ……


 亜百合が若葉を抱きしめると、
二人はただただ涙を流した。


 俺と玲也は男だから、
涙を隠すように顔をそむけることしか出来なかった。



 生まれた時から10年以上、同じ島で、
そして同じ学校で育った仲間が、
変わり果てた姿になったんだ。


 昨日は事態が飲み込めなくて
誰もが混乱するばかりだったが、
朝になって正気に戻った頃に
悲しみが込み上げてきたっておかしくない。



 俺たちは昨日流せなかった分まで、
涙を流し続けたのだった……。

 散々泣きはらした頃には、昼になっていた。


 昨晩から何も食べていなかった事を
思い出した俺たちは、
示しを合わせたように急に空腹感が湧いた。


 昨日の晩メシと、
そして今日の朝メシの分を取り戻すかのように、
缶詰などのレトルト食品を
食べあさっているのだった。

美崎 先生(みさき さきお)

おい、うまいぞこのカニ缶。
食べてみろよ

美崎 耀(みさき あかる)

俺、カニ嫌いなんだよ。
いつも言ってんだろ

美崎 先生(みさき さきお)

バカだなあ耀はっ。
こんな高級食材を、もったいない……!
カニ嫌いは義務教育と同時に
卒業しろって言っただろ?!

美崎 耀(みさき あかる)

カニと義務教育の関連性が
見つけられないのは俺だけか?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

私、まだ義務教育中だからわかんない☆

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ボクも義務教育中です……

美崎 耀(みさき あかる)

そういう事を聞いてるんじゃないっ

佐伯 玲也(さえき れいや)

みんな、ちょっといいかな?

日良 若葉(ひら わかば)

何?

佐伯 玲也(さえき れいや)

このマンションには、
宮ノ内さんを殺した犯人が
潜んでいるかもしれないんだよね?

美崎 耀(みさき あかる)

まあ、そうだな

佐伯 玲也(さえき れいや)

だったら丘の下のマンションに
移動した方がいいんじゃないかな?

日良 若葉(ひら わかば)

そんなっ……!
ひめちゃんを置き去りにするの?

佐伯 玲也(さえき れいや)

置き去りだなんてひどいな。
いつかは宮ノ内さんを埋葬しなきゃ
いけないんだよ?
一生側にいるのは不可能な話だ

日良 若葉(ひら わかば)

だけど……

佐伯 玲也(さえき れいや)

それに、現場保全の観点から考えても、
宮ノ内さんの遺体からは
遠ざかったほうが良いよ

美崎 先生(みさき さきお)

玲也、それは……

佐伯 玲也(さえき れいや)

先生先生だって、そう思いましたよね?
後で警察が現場を調べるにあたって、
犯人の手がかりを消してはまずい

佐伯 玲也(さえき れいや)

でも、宮ノ内さんの血は綺麗に
拭き取られてしまった。
あの分だと指紋も一緒に
拭き取られたんじゃないかな

佐伯 玲也(さえき れいや)

それに、
遺体の周囲を花で飾るというのも
本当はあまり良くないよね

雲母 亜百合(きらら あゆり)

私、いけない事をしちゃったの?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ボクもお花を飾ってしまいました……

日良 若葉(ひら わかば)

ううん、二人は悪くない。
私が余計な提案したんだもん……

美崎 耀(みさき あかる)

なあ、玲也

佐伯 玲也(さえき れいや)

なんだい?

美崎 耀(みさき あかる)

お前の言ってる事は
正しいかもしんねえけどさ、
少しは若葉たちの気持ちも考えてやれよ

佐伯 玲也(さえき れいや)

みんなの気持ちを尊重するなら、
それこそ真犯人を
見つけるべきだろ?
僕らが警察の邪魔をして
どうするんだ

美崎 耀(みさき あかる)

あのなあ、お前……

日良 若葉(ひら わかば)

ごめんなさい……

美崎 耀(みさき あかる)

若葉は謝らなくていい!

美崎 先生(みさき さきお)

そうだ、若葉は謝らなくてもいい

美崎 耀(みさき あかる)

やっぱり兄貴も
玲也がおかしいって思うよな!?

美崎 先生(みさき さきお)

いや、玲也の言ってる事は
間違っちゃいない。
悪いのは俺だ

美崎 耀(みさき あかる)

は?
何言ってんだよ

美崎 先生(みさき さきお)

亜百合たちが花を取りに行くと
言った時、
俺も玲也と同じ事を考えた。
現場をそのままにした方がいいってな

美崎 先生(みさき さきお)

だが、つい『姫乃を想っての事なんだ』
っつう甘い考えが浮かんでさ。
花を供えるのを許しちまったんだよ

美崎 耀(みさき あかる)

玲也も兄貴も馬鹿じゃないのか?
なんで若葉たちを追い詰めるようなこと
言うんだよ!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

言わせてもらうよ。
馬鹿なのは美崎、キミの方だ

美崎 耀(みさき あかる)

俺が?

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎は日良さんと過ごす時間が
長かったせいか、
日良さんが少しでも責められると
過剰に反応する傾向があるね

美崎 耀(みさき あかる)

なっ……!

佐伯 玲也(さえき れいや)

人間が一人、殺されているんだよ?
それなのにどうして美崎は
感情論で動こうとするんだ?

美崎 耀(みさき あかる)

若葉は関係ねえ!
お前が人の気持ちを
踏みにじってるから怒ってんだ!
言い方ってもんがあるだろ!

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ケンカはやめて下さい……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

そうだよ、やめなよ。
れいくん、おかしいよ?
わざとお兄ちゃんを怒らせるようなコト
ばっかり言ってる

佐伯 玲也(さえき れいや)

雲母さんも、僕が悪いと思うのかい?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

当たり前だよ!
れいくんが余計な事を言わなきゃ
ケンカにならなかったんだから!

美崎 先生(みさき さきお)

亜百合、それは違う

雲母 亜百合(きらら あゆり)

でもっ!

美崎 先生(みさき さきお)

この話は一旦やめよう。
お互いに意見は出し合った。
話の続きは少し時間を置いて、
冷静になってからにしようぜ

美崎 耀(みさき あかる)

お互いに意見は出し合った
って……。
それで片付ける気なのか、兄貴?

美崎 先生(みさき さきお)

だったらどうやって結論を出す?
殴り合うか?
力の強さで正邪を決めるのか?

美崎 耀(みさき あかる)

な、殴るなんて言ってないだろ

美崎 先生(みさき さきお)

昨日のお前の様子なら
やりかねなかったぞ

美崎 耀(みさき あかる)

…………

日良 若葉(ひら わかば)

みんな、ごめんね。
私が姫乃ちゃんや壁の血を拭こう
って言ったから、
こうなったんだよね

美崎 耀(みさき あかる)

若葉……。
俺が言ったことって、
余計なお世話だったのか?

日良 若葉(ひら わかば)

ううん、そんなことないよ。
だって嬉しかったもん。
ありがとう、耀くん

美崎 耀(みさき あかる)

…………

美崎 先生(みさき さきお)

じゃあ、さっきの話に戻すぞ。
玲也が言っていた
丘の下のマンションに
移動するという件、
俺も賛成だ

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ボクも賛成です……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

ちょっと待って。
それよりも学校に移動した方が
いいんじゃないかな?

佐伯 玲也(さえき れいや)

どうして?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

だって学校のほうが温泉が近いでしょ?

美崎 先生(みさき さきお)

なるほど。
そりゃそうだな

日良 若葉(ひら わかば)

そういえば昨日は色々あって、
お風呂に入るの忘れてたよね

美崎 耀(みさき あかる)

学校に荷物を置いたら
入りに行くか?

雲母 亜百合(きらら あゆり)

うん!
お兄ちゃんと私で混浴だね?

美崎 耀(みさき あかる)

ち、違う!

佐伯 玲也(さえき れいや)

男同士で入るんだよね、美崎?

美崎 耀(みさき あかる)

そうだけど、
お前が言うと別の意味に聞こえる

美崎 先生(みさき さきお)

よーしっ!
みんな、学校へ移動すっぞ。
その後は風呂だ風呂!

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

はい、です……

雲母 亜百合(きらら あゆり)

はーい!

 みんなで寝袋などの荷物をまとめ始める。


 温泉に入るという目的ができて、
みんなの表情はいくらか
明るくなったように見えた
……が。

美崎 耀(みさき あかる)

どうした若葉?
浮かない顔してんな

日良 若葉(ひら わかば)

うん……。
学校に行っても犯人が
ついて来るんじゃないかと思って……

美崎 耀(みさき あかる)

その可能性はあるけどさ、
ここよりはマシじゃねえか?
犯人がここを根城にしてる
っていうなら、
凶器も蓄えてるかもしんねーしさ

日良 若葉(ひら わかば)

そうだね……

美崎 耀(みさき あかる)

(あんなに明るくて
脳天気だった若葉が、
人が変わったみたいに
臆病で暗くなっちまった)

美崎 耀(みさき あかる)

(早く元気にしてやりてえな。
温泉に入ったら少しは
リラックスするといいんだが……)

美崎 先生(みさき さきお)

おーい、お前ら。
準備は終わったか?
忘れ物がないか、
周りは確認したか?

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

準備は終わりました……。
周りも確認しました……

美崎 先生(みさき さきお)

それじゃあ、
最後に姫乃に挨拶をしてから行くぞ

美崎 耀(みさき あかる)

わかった……


 俺達はもう一度隣りの部屋へ行き、
姫乃の死体に向かって静かに手を合わせた。

日良 若葉(ひら わかば)

…………

美崎 耀(みさき あかる)

(若葉……)

 それから学校へ着くまでの間、
ずっと沈痛な面持ちでいた若葉が心配になった。



 でも……。
その反面で、こう思ってもいた。



 本当は、若葉の反応が正常なんじゃないか?
みんなと笑顔で話している俺の方が、
異常なんじゃないか……と。



 俺はたぶん、
昼間の明るさに安心していたのかもしれない。


 頭のどこかで、犯人が動き出すのは夜だと
思い込んでいたのかもしれない……。








廃墟島の2日目《 前編 》

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