角の生えた泣き虫

 (もともとは何と魔王らしい)と

  青い髪のあまのじゃく

 (お姫様のひーちゃん)も、

  僕らの旅に

  同行することになった。

にぎやかになっていいね


  剣闘士がそう言うと、

  魔王がはにかむように

  ふふっと笑う。

……何もよかねぇよ。やかましいだけだ


  ぷいっとそっぽを向く

  ひーちゃんは

  どこまでも素直じゃなかった。



  僕はみんなの様子を見ながら、

  なんとなく

  「いいな」と思う。



  こういう場所。

  こういう雰囲気。

  胸の奥がぽわんと

  あたたかくなるような、

  そんな信号の名前を

  僕は知らない。

…………


  ナヴィだけが、さっきから

  黙り込んでいる。

  何かを考え込んでいるような

  そぶりで、 

  心ここにあらずといった

  感じだった。

……どうかしたの?


  僕がそうやって尋ねても、

  ふるふると首を横に振るばかり。

いいんだ。
……おそらくは杞憂にすぎないから


  僕はナヴィから

  何かしらの情報を

  引き出すことを諦めた。

ねぇ、みんな……


  そう言って話の輪に

  加わろうとしたその時。


  鋭い何かが

  僕の頬を掠めて

  どこかに消えていった。


  僅かなデータを剥離させた

  凶器の正体は、

  一本の矢。

みんな、気をつけて!


  ナヴィの警告をうけて、

  僕らは恐る恐る、

  それぞれの武器をとった。

――貧弱すぎる


  そう言って姿をあらわしたのは

  一人の青年だった。

  その緑色の瞳は、

  真っ直ぐに僕のことを見つめ、

  そしてどこか

  嘲っているようでもある。

それで勇者? それで主人公?
ハッ! 笑わせるな!


  彼の言葉で、

  僕はその対象が

  僕自身であることを

  改めて認識した。


  背中に背負っている弓矢が

  恐らくは僕らを攻撃した凶器。


  そして今、彼の手には

  銀色に光る剣が握られている。


  僕は眉間に皺を寄せて、

  助けを求めるように

  ナヴィを見た。

――彼を恨むのはお門違いというものだよ、コード0001。


  落ち着き払ったナヴィの口調が、

  彼はどうも

  気に入らないようだった。

だったら俺は何を憎み、何を恨めばいい?
教えてくれよ案内人<ナビゲーター>!

――もっとも、お前はその答えを持ち合わせているはずなんてないけどな。


  ナヴィは彼の言葉に

  答えようとしない。

  僕は心配になって、

  ナヴィへ一つの質問をした。

――彼は、一体何者なんだ?


  少し考え込むような

  そぶりを見せた後、

  ナヴィは答えた。

彼は『コード0001』。

「リターナークエストⅡ」で、一番最初に主人公というポジションに据えられて……そして破棄されたプログラムだ。

君の元となった『勇者』のプロトタイプということになるね。

…………


  そういえば、目の前の

  青年の服装は

  どことなく

  僕のそれに似ている。



  僕達はもともと一つだった。



  そして今はどちらも、

  このままデータの塵となって

  消えゆく運命にある。

剣をとれよ、『勇者サマ』。
俺は証明しなくちゃならない。
お前みたいな腑抜けより、俺の方がよっぽど有用だってな!


  彼はそう言うなり、

  力強く僕に斬りかかってきた。


  鼓膜を引き裂くような

  高い音をたてて

  二本の剣がぶつかる。

  ぐぐぐ、と十数秒ほど

  せりあってから、

  彼がとびずさって

  その場を離れた。

……っ!


  その瞳に浮かんでいるのは、

  明らかな敵意。


  僕は呼吸を整えて、

  真っ直ぐに彼と向かいあった。


  少し離れたところから

  心配そうな視線を投げかける

  『仲間達』の存在に

  確かな勇気をもらいながら。

  

#5  ワーニング・ワーニング

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