ファイナの教室。
いつもの座学のはずが、先日の3人に加え
何故かアステリアが並んで腰を下ろしている。
さて、今日は魔力の解説と、アルマちゃんが持つ魔力の性質を調査するわ。
はーい。
……。
……。
……。
ファイナの教室。
いつもの座学のはずが、先日の3人に加え
何故かアステリアが並んで腰を下ろしている。
なにしてるんですか、アステリアさん。
なにって、
私もファイナの講義を聞きに来たんだよ。
たまには知識を深めるのもいいと思ってね。
アルマちゃんの力が気になるだけでしょ?
まぁね。
はぁ……。
それじゃ、先にアルマちゃんの性質調査からしましょうか。
お、流石ファイナ。
我慢できなさそうですからね。
それじゃあアルマちゃん、ちょっと前に来てもらえるかしら。
はい。
ファイナは机の上に道具を並べ始めた。
ボール、ブロック、巻藁……。
まず、このボール。
このボールを浮かせることができる?
魔力を使ってボールを押し上げるのよ。
ファイナは説明しながら手袋を取り出し
それを自分の手にはめた。
よっ……と。
ファイナが手をかざすと、ボールが少しずつ浮き上がり
ファイナの胸の前で静止した。
こんなところね。
ファイナさんは今、魔力の操作を補助する手袋をはめてるけど、俺たちには必要ないよ。
ニケがボールに向かって手をかざすと
ボールはファイナの元を離れ、ニケの前へ飛んできた。
ニケはそのまま、ボールを浮き上がらせたり
自分の周囲をくるくると回らせて見せた。
と、このように魔力を持つ人間とそうでない人間じゃ、圧倒的な差があるわ。
自分で言うのもなんだけれど、私の魔力操作は優秀な方なの。
それでもニケくんには遠く及ばないわ。
私なんて動かすこともできないよ。
アステリアさんは全然練習してないからでしょう……。
私は短所を克服するより長所を伸ばす方なのさ。
そうですか。
いや、悪いことではないと思いますけどね。
さて、それじゃアルマ。やってみて。
やり方は上手く説明できないけど、君も魔力を持っているなら、自分の魔力が見えるはずだよ。
それを動かしてみて。
ニケが軽く手で示すと
ボールは滑るようにアルマの前へ動いた。
魔力を使うんですか……?
ええ。
必要なことだから。お願いね。
……わかりました。
離すよー。
……!
ニケの言葉を合図にボールが一瞬落ちそうになったが、
すぐにフラフラと浮き始め、踏みとどまった。
やや不安定な感じがするが、一先ず浮いてはいる。
ふむふむ。
流石、上々ね。
お、やるね。
初期の俺よりも上手いよ。
へー。
やっぱりできるもんだねぇ。
どんどん行くわ。
次はこのブロックね。
魔力を弾かせて、ブロックを破壊してみて。
ファイナが両手でブロックを挟み、意識を集中させた。
すると、1つ、2つとブロックに亀裂が入っていく。
こんなところね。
イメージとしては、ブロックの内側で魔力を拡散させる感じかしら?
はい。やってみて。
……はい。
……。
アルマが同じようにブロックを挟む。
彼女が少し意識を集中させると
一瞬のうちに無数の亀裂が入り、破片が飛び散った。
破片の一部が壁に突き刺さるほど、
激しく崩れていく。
ん?
……え……。
!!
……ッ!
亀裂の入り方はますます激しくなり
ついに小さな爆発を起こした。
衝撃でブロックの破片が周囲に飛散……する直前、
ブロックを覆うように出現した水色の球形に阻まれ
爆発は抑えこまれた。
あ、あぶね……。
す、凄い破壊力ね。
ありがとうニケくん。
抑えてくれて。
いえいえ。
力を抑えた状態でこの破壊力か……。
しかし本当に凄いよ。
前も言ったけど、俺の力は守りに向いてるんだ。
だから戦闘じゃ攻撃面が不安だったんだけど、アルマが居れば安心だよ。
……。
……。
力を上手く扱えないのは仕方ないさ。
まだ始まったばかりなんだ。
これから慣れていこう。
……。
やっぱり、アルマちゃんの力は破壊に向いているようね……。
それじゃあ気を取り直して、次はこの巻藁だけど――。
あ、あの。
今日はもう、ちょっと……。
調子が優れないようなので……。
……無理にやらせるのは、良くないわね。
おおよその性質はわかったから、
今日はこの辺にしておきましょうか。
そう?
それじゃ、調査の続きはまた今度にしましょうね。
……ごめんなさい。
気にしないで。
それでは講義に移りますけど、
アステリアさんはどうしますか?
ん?
どうするって何が?
いえ、本当に聞いていくんですか?
そうだよ。
最初に言ったじゃないか。
大丈夫かしら……。
えー、まず……。
魔力はどこにでも存在しているエネルギーで、この部屋にも溢れているわ。
酸素みたいなものですね。
全然違うけれど、感覚的にはそんな感じの方がわかりやすいかしらね。
現時点で魔力の種類は大きく分けて2つ。
さっきも言ったように、空間中に溢れている、空間の魔力が1つ。
普通の人間が扱えるのはこれね。
さっき私が使った魔力も空間から取り出したものよ。
次に、ニケくんやアルマちゃんが持っているような、固有の魔力が2つめ。
こちらは細かく分け始めると、魔力を持つ者の数だけ増えていくから、固有の魔力として一括りにしてあるわ。
俺とアルマとで見ても全然違いますからね。
魔力の濃度が高い区域は多くの魔族が住んでいたことから、魔力は魔族が活動するために不可欠なものだったと考えられているわ。
魔族や魔物が魔力を生み出すことも、
あったみたい。
zzZ
あ、寝たな……。
……。
ニケくんを通してわかったことだけれど、
固有の魔力を持っている人は、
自身の魔力を放出しきると活動できなくなってしまうわ。
これは、魔族達と同じ性質ね。
元々は魔族の力みたいですしね。
その辺も、彼らの影響を受けてるんでしょう。
そうね。
貴方達に魔力が備わっている理由は、空間の魔力が影響しているわ。
近年、空間の魔力濃度が上昇しているせいで、その強い魔力が人の体に影響を与えているようね。
空間の魔力は魔族にとっても重要なもの、魔族と魔力を持つ人は本質的に無関係では無いのかもしれないわ。
ちなみに、魔力が備わるかどうかは先天的なものみたいだから、魔力の濃度が高まった後に生まれた、貴方達のように若い世代にしか魔力を持つ人は居ないのよ。
後天的に魔力を備える方法は今のところ無いようだから、魔族たちと戦うとしたら実質的に俺たちしかいないですよね。
オーゼさんに何度も謝られたよ。
「君たちにばかり背負わせてしまってすまない。私が代わってやれたら――」
ってずっと言ってくるんだもん。
別にいいよって何度も言ってるんだけどね。
オーゼさんはそういう人だから……。
……。
さて、今日はこの辺にしましょうか。
はーい。お疲れ様でした!
……。
それじゃあ、今日は解散ね。
ニケくん。
ちゃんと復習やっておくのよ。
わかってますって。
……っは……。
あれ? 誰もいない……。