大爆笑。そこまで笑わなくてもというくらい、彼女は笑い転げている。

アキ様は、本当に魔法のことをご存じじゃないのですね……うふふ! 

魔法使いの間では、死人を生き返らせることや、それに近いことをすることは、禁断中の禁断なのです! 

思いつく人もいないくらい、してはいけないことですのよ! 

思わず笑ってしまいまして、失礼いたしました……うふふ!

し、知らなかった……でもまあそうか

 生き返らせ放題だったら、世界は大変なことになるだろう。

なにも知らないんだ……俺、本当に。

魔王様になるって、禁忌をおかすと悪いやつになるとか、そんなかんじ?

いえ、魔王様というのは、おとぎ話ですわ

 おとぎ話の中のおとぎ話! 俺の興味がそそられる。

どんな話?

魔法使いなら誰でも知っているお話ですわ。

人を生き返らせてはいけないっていう教訓があるお話ですの

 俺は、そんな物語を知らない! 

 わくわくしてきて、俺は身を乗り出した。

よければ聞かせてよ

いいですわ……って、あれ

 ルキは首をかしげる。

どんな物語だったか、忘れてしまいましたわ

 がくっとこけると、えへっとルキが照れたように目をそらした。

ずいぶんと小さな頃に聞いたお話でしたから。

また魔法使いに会う機会があれば、きいてみてください。

きっと、魔法使いならだれでも知っていますわ

そうするよ

 旅の楽しみがひとつふえたところで、さーてと伸びをする。

 この旅も、もう終わりだ。

 爽やかな風が吹く。

そろそろ行くよ

 どうやって行くのかはわからないけれど、たぶんセイさんが見てくれているはずだ。

お気をつけて……と言いたいのですが、その前にひとつだけ

ん?

お守りですわ

 はい、と差し出されたのは、花びらでできた栞だ。

魔法使いから渡されたからって、期待しないでくださいませ。

これは、私の趣味ですの。

お花の占いをしたと、出会ったときにお話ししましたこと、覚えていらっしゃいますか?

もちろん

 偶然だが、その話が、結果として物語を解く鍵となったのだ。

その花は、私の名前と同じ花でした。

ピンクの、蘭の花でしたの

 あんな大きな花をぶちぶちとしていたのか。

 というか、蘭をちぎるって、蘭の花びらってあまりないだろうに……想像すると、よけい可愛らしくて、思わず頬が緩む。

……花言葉の話も、いたしましたね

したね、蘭には、たくさんの花言葉があるって

いつか、調べてください。

色によって、変わるのです。

それは、ピンク色の、胡蝶蘭ですの

 真剣な眼差しで、ルキは言った。

 その目には、涙が浮かんでいる。

……必ず調べるよ。

ルキ、ありがとう。

短い間だったけど、楽しかった

ほんとう、ですの?

もちろん! ルキと出会えてよかった

わたくしも……わたくしもです! 

アキ様はとても優しくて、明るくて、おもしろくって、それでいて芯が通っていらっしゃいました……運命の出会いという占いの結果は、本当に、本当でした。

出会えて、嬉しかったです

 アキは、俺の手を取り、微笑んだ。目に一杯の涙が、ひとつぶだけ、こぼれる。

どうぞ、ご無事で

 きらきらと、俺の周りが光っていく。

ありがとう、ルキ

 手の、暖かな感覚が消えていく。

 辺りが、白く光っていく。

 







おかえり

 セイさんが、いつもの部屋でにこりと微笑んでいた。

見るかい?

 手にしているのは、一冊の本だ。表紙には、花言葉辞典、と書いてある。


 俺は、静かにそれを受け取り、蘭のページを探した。


 ピンク色の、きれいな胡蝶蘭の写真の下に、花言葉が記されていた。

……運命って、そういう運命だったのか

 俺は、本をぎゅっと握りしめた。


 ミンは、まっすぐに伝えてきた。
 ルキは、対照的だ。きっと最後まで、忠誠心をとったのだろう。

彼女こそ、芯が通っている


 俺は、静かに本を閉じた。

親指姫のつばめは、親指姫が困っているところに、迎えに来ましたね

そうだね

 セイさんが目を伏せる。

つばめは、親指姫を愛していたのかもしれない……語られていない部分を、考えたことなんてなかったけど



 俺も、目を伏せた。
 まぶたの裏には、まだ、残っていた。



 ピンク色の胡蝶蘭。



 花言葉は、あなたを愛しています。
 

3 あなたに捧げるその花の意味は(26)

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