アン女王はにこりと微笑んで、ぽん、と手を叩いた。

 開いたその手の中に、指輪がふたつ、現れる。

では、これを

 大きな方の指輪を、アン王女は手にとって、俺に渡した。

えっと、薬指で、いいんですよね

ええ、左手の……

 言いかけたアン王女は、そこで寂しそうに表情をくずすと、目を潤ませた。

いけませんね。

申し訳ありません、最後に、もう一度お別れを言わせてください

 愛したひとに、という意味だろう。俺は黙って、彼女に指輪を返した。


 その指輪に、アン王女はキスをした。頬を、ゆっくりと涙が伝う。

何度……別れを言ったか……

 俺は、目を伏せた。

 権力も、富も、人望も、すべてを持っていそうな女王様は、きっとずっと、死に別れた人を忘れられずに過ごしたのだろう。



 しかし、と思う。
 ここまでの魔力があるなら、と。



 言いかけるが、すんでのところで言葉をのみこむ。いろいろ、事情があるのだろう。俺にも、事情があるように。


 アン王女は、すみませんと笑って、指輪を俺に手渡した。

 俺は黙って受けとると、薬指にそれをはめた。

 銀の指輪は祝福するようにきらりと光ると、俺の指のサイズにぴたりとくっついた。アン王女も、指輪をつける。



 その指輪を見つめたまま、アン王女はゆっくりと頭を下げた。

ありがとうございます

 その肩は、震えていた。







 その後、再び突風にみまわれ、気がつくと花畑にとばされていた。目の前には大きな木がある。

 おそらく城の木だろうが、どこかはよくわからない。

 遠くに、ルキの姿が見える。
 ルキも俺を見つけたようで、手を降りながら駆けてきた。

アキ様! 無事ご結婚なさったのですね!

 左手を見ると、そこにはシンプルな指輪がひかっている。

そうみたい。ねえ、ここはどこ?

 気のない返事をすると、ふふ、とルキが微笑んだ。

裏庭です。事情があると、聞いておりますよ。

もう、旅立たれるのですよね。

旅立たれたあと、結婚のことが発表されますわ。きっとこの国は、てんやわんやです

なるほど……しかし、王女様も、いろいろあったんだね

ええ……でも、王女様もこれで、ずっとあの方と一緒です

 あの方、というのは、亡くなった王様のことだろう。
 そうだ、ルキになら、訊いてもいいかもしれない。

ねえ、ふと思ったんだけど、女王様ってすごい魔力、持ってる?

ええ、私も敵いません

だとしたら、たとえば……生き返らせるとか、偽物をつくるとか、そういうことって、できなかったのかなって、ふと思ったんだけど

 俺の発言に、ルキはきょとんとしていた。


 あれ、なんか変なこと言ったかな。


 俺もきょとんとすると、少し間があって、きゃらきゃらとルキは笑い始めた。

それじゃあ魔王様ではないですか、あはは!

3 あなたに捧げるその花の意味は(25)

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