アン、で結構ですよ……単刀直入に申し上げますと、私、アキ様がよければ、今すぐにでも結婚したと思っておりますの

 なんと。前言撤回。

 あっというまに結末にたどり着きそうだ。

光栄のいたりです

 俺がぺこりと頭を下げると、ふふ、とアン女王は笑った。

理由を聞かないのですね

……気になっては、いるのですが

そうですよね。では、ゆっくりお話をいたしましょう。

ごめんね、ルキ。少し、この場をまかせます

おまかせくださいませ

 ミンが頭を垂れたのを満足げに見届けたアン女王は、両手を静かにひろげると、ぱん、と手を叩いた。

 とても静かな音だったが、驚くほどの風が、音と一緒におきた。風が俺を包み込む。












 わっ、と俺が叫ぶと、わっ、と俺の真似をしたアン王女が、目の前で笑っていた。

あれ……え?

 いつのまにか、俺は別の空間に飛ばされていた。

 上も下もない、回りは青色の空間に、二人だけがぽつんといる。

どうぞ、腰かけてください

 と言われても、どこに腰かければいいのかわからない。

 この世界には、青色しかない。
 果てもなくただ、青があるだけ。

えっと……

ああ、座りたいと思えば座れますよ

 言って、アン王女は何もない場所にふわりと座った。

 座りたいと思えば、座れるだって!

 おそるおそる、俺は着席する。何もない空間に、ふわりと着席。

 不思議な感覚だ。透明な椅子に座る。

 ふわふわのソファのような感覚だ。
 そういえば、セイさんもこうやって何もない空間に座っていたっけ。

さて、本題に早速入りましょう。

お連れのかたは、いらっしゃらないのです?

な……!

 どこまで知っているのだ、この王女様。
 俺の心を読むように、アン王女は

ある程度までは、聞いております。

本当は、勇者様ではなく、旅人様なのでしょう。

時空をとんでいらっしゃると伺っております

 と微笑んだ。

えっと……それは、あの

セイ様という方から、伺いました。

この世界を救ってくださっている、と。

そのためには、私との婚約が必要不可欠だということでした

……その通り、ですが

 あまりに情報が多くて混乱するが、ひと呼吸置いて、俺も本題に切りこむ。

あなたは、それで納得されるのですか

運命、だと受け止める……なんてね

 アン王女は、いたずらっ子のように笑った。

そんなのは、建前です。

簡単に言えば、私と結婚してくださると、私にも都合がいいのですよ

 アン王女は、そこでふっと、遠くを見つめた。

簡単にお話ししますね……長話をしても意味がありません、私の不幸話です。

私は、夫を亡くしているのです

 突然の告白に、俺は言葉をなくす。

ああ、そんなに神妙な顔をなさらず

 微笑むアン王女は、どこか寂しげだった。

子どももいます。つまり、跡継ぎもいるのですよ。

だから、国としても問題はありません。

私一人で、息子を育てていく予定です。


しかし、困ったことに、形を大切にする人はたくさんいるのです。

お若いのに、ひとりではかわいそう、と、今まで何人のかたと見合いをさせられたか……疲れているのです。

その度に、むだなお金もかかります。

どんなにことわっても、ことわれないものもありまして……

なるほど、形式として、結婚をしておきたい、と

そういうことです。

あなたの情報はこちらでいくらでも、どうにでもなります。

ただ、結婚したという事実さえ作れればいいのです

なるほど。

俺にとっても、それは都合のよいことです

すべてを語らなくて結構ですよ。

私は、語りたくて語っています。

あなたには、語れない事情があると、セイ様から伺っております

 さくさくと進む、結婚話。

では、結婚してくださいまか

もちろんです、女王様

3 あなたに捧げるその花の意味は(24)

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