光に包まれ、その中で目をつむり、深呼吸をした。


 ふわりと、甘い香りがする。


 目を開けると、そこは花畑だった。

 ありとあらゆる花、花、花。

 大きな花が絨毯のように敷き詰められている。その花畑を囲むようにして、大きな木がはえていた。

 その木に穴を掘って暮らしているようだ。

わあ……!

 花の国。俺は、その甘い香りをもう一度味わいたくて、いっぱいに息を吸う。

――素敵だね

よい国でございましょう。

アキ様、後ろをご覧ください

 振り返り、俺は息を飲んだ。


 大きな大きな木がそびえたち、その木には精密な彫刻が掘られていた。輝くような、宮殿だ。

女王様が、お待ちですわ

 大きな門を潜り抜け、俺は木の中に入っていった。




 




 木の宮殿の中は、しんと静まり返っていた。

 使用人は、みな遠目から俺を見ていた。歓迎されているわけでもなく、しかし、嫌悪されているようでもなかった。

 見物されているというか、うーん、動物園の中の動物の気分って、こんなものかもしれない。



 突き刺さるような視線を我慢しながら、城の奥の奥まで進んでいくと、大きな扉の前にたどりついた。


 そこには、俺を吹雪の村までふっとばした、あの騎士がいた。

げ、まじで来やがった……

……久しぶり

まさかこんな展開になるとはな……

無礼ですことよ、勇者様は未来の王様になられるかたかもしれませんのに

 騎士は、ルキの忠告を無視し、ぎろりとおれを睨み付ける。


 威嚇されているようなので、とりあえず威嚇し返す。ぎろり。

……無礼はするなよ

 騎士はそう言って、大きな扉をゆっくりと開けた。




 木の中のはずなのに、眩しすぎる光に、俺は思わず目を背ける。

ようこそ、勇者様

 透き通るような声に、俺の背筋はぴんとのびた。

 そんな俺を見て、その声の主はくすくすと笑っている。

そんなに緊張なさらなくてもよいのですよ。

ロト、ありがとう。さがりなさい

 ロトと呼ばれた騎士は、失礼致しますと頭を下げて、部屋を出ていった。ずいぶんと素直なものだ。


 大分目がなれてきたので、ゆっくりと、目を見開く。

 眩しさの正体は、窓から指す日光だった。木の端に、この部屋はあるようだ。

 
 王座の間、とでもいうのだろうか。だだっぴろいそこには、女王様専用の椅子がどんと置いてあるだけだ。

 殺風景な、それでも、威厳のある部屋だった。

勇者様、こちらへ

 ルキがそう言って、俺を女王様の真ん前までつれていく。どうすればいいのかわからなかったが、とりあえずひざまずいておく。


 正解だったらしく、女王様はにこりと微笑んだ。


 青く長い髪の毛に、透き通るようなはだ。花にはないような色に、なるほど、だから女王なのかもしれないと、ぼんやりと考えた。


 一国の王女が目の前にいる、不思議。

 それにしても、ずいぶんと若い女王様だ。

 結婚したがらないというから、もっと年がいっていると勝手に思っていた。

 とても若い、王女様といってもいいくらいだ。

さて……勇者様。アキレア、という名だと聞いております。

アキ、と呼んでも?

もちろんです、女王様

顔をあげてくださいな。

私はダイアンサス、どうぞ、アンと呼んでください

 これってつまり、女王様が俺を結婚対象として見てくれる、ということだ。

 この先の展開がわかっていても、緊張する。

 というか、ここでミスったらこの物語をクリアできないのだ。
 慎重に話をしなければ。

光栄です、アン女王様

3 あなたに捧げるその花の意味は(23)

facebook twitter
pagetop