結局、その日、サンザシが帰ってくることはなかった。


 代わりに現れたのは、セイさんだ。

 どんちゃんさわぎがほぼ徹夜で続き、みんなが酔いつぶれて寝てしまった時間帯に、彼は現れた。

 俺は、一人で昇ってくる朝日を眺めているところだった。



 セイさんは音もなく現れたけれど、今度はもう、驚かなかった。

サンザシは

 目の前に彼が現れた瞬間、俺はそういってセイさんに歩み寄っていた。

 いつもは変なほどに明るいセイさんも、今回は表情が固い。

今、寝かせてる。

少し辛そうだからね。

もうクリア条件もきいたろ、特にサポートはいらないはずだ。

まあ一応、僕も常に監視するようにはするよ、困ったときにはこうやって現れるようにする

 まったく、めんどうだ、とでも言いそうな態度だ。

……すみません、なんか

ああ、ごめん、表に出てたかな。

君にじゃなくて、サンザシにね……少し彼女は、感情を抑えるのが苦手のようだ

焼きもちやきです

 言うと、セイさんは俺を見てふっと笑った。

 彼の背中の後ろから太陽の光が見えて、やけに神々しい。


 俺は、目を細めた。

この物語が終わったら、彼女について少しだけ話そう。

ゆっくり、あの部屋で話したほうがよさそうだ

彼女と、俺の関係ですか? 

過去に何かあったことは知っています。俺はそれが知りたい

 セイさんは、うっすらと微笑んだままだ。

過去に、何か、ね。ないほうがおかしいだろう。

そろそろ君も、気がつきはじめている。

君は、大きな大きな物語を生きてる。

ゲームは単体ではなく、すべてが繋がっている

……また、わけのわからない、伏線ですか

違うよ。ひとりごとさ。

とにかく、物語の終焉までかけぬけてくれ

 ばいばい、とセイさんは朝焼けの方に顔を向ける。

複雑なんだ、君らは

 セイさんは、言って、消えた。朝焼けが眩しくて、俺は顔を背けた。




 太陽が昇りきったころ、ルキが現れた。

 セイさんとは違い、彼女は光と共に、姿を見せた。

 リビングに転がる人の山にぎょっとしていて、思わず笑う。

昨日、盛大なお別れパーティーをね

……幸せそうな寝顔ですわ

 さて、とルキが俺を見据える。

どう、なさいますか?

行くよ。昨日、みんなにお別れも言った。

何も言わずに、行きたい

そうですか……しかし、彼女はそれを許してくれなさそうですわ

 ルキは困ったように笑って、俺の後ろを指差した。

 振り替えると、ミンが仁王立ちをしている。
 なぜ。

やっぱりな、何も言わずにいなくなっちまいそうだもん、お前

だって、寂しいじゃないか

ばかやろう、寂しいからこそ、さよならはきちんというもんだろ

 ミンが、にかっと太陽のように明るく微笑む。

ばいばい、楽しかったよ。

楽しくやれよ。

また、会えたらいいな

……そうだな

 差し出された手を、俺はしっかりと握った。優しい、小さな手だった。

ありがとう。楽しかった

十分だ。

元気でやれよな……じゃ、私が目をつむっている間にいなくなってくれよ。

さーん、にー

 突然のカウントダウンに、あらあらとルキが笑う。


 ミンのいち、というカウントと、ルキの、いつもの声が重なる。

そーれい!






 俺は、光に包まれる。
 その中で、確かに、ミンの声を聞いた。

ありがとう、ばいばい

 俺は、しっかりと答えたけれど、彼女に届いていただろうか。

ありがとう、ばいばい

3 あなたに捧げるその花の意味は(22)

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