ベッドのそばにある机の引き出しから、ミンは何かを取り出した。
手に握られているのは、小さな箱だ。
木でできた箱の上に、白い花びらがひとつある。
どうやら本物の花のようで、押し花のそれは、ガラスの向こう側できらきらと輝いて見えた。
ベッドのそばにある机の引き出しから、ミンは何かを取り出した。
手に握られているのは、小さな箱だ。
木でできた箱の上に、白い花びらがひとつある。
どうやら本物の花のようで、押し花のそれは、ガラスの向こう側できらきらと輝いて見えた。
この町のさ、工芸品なんだ。小さな宝箱。
これなら邪魔にならないと思って……その花、見つけるのに苦労したんだよ。
村中の倉庫をひっかきまわしたら、あったんだ。これでも、私が作ったんだよ
これは……
サンザシだよ。よくお前、つぶやいてたから。
大切な花か、名前じゃないかって
俺は、彼女の優しさに心を打たれた。
嬉しい、以外の言葉で、この感情をうまく表すことができない。
ありがとう……凄く、嬉しいよ
女王様のとこにはさ、花、たくさんあるだろうけど
はい、と手渡されたそれを受けとるとき、ミンの指先に俺の指先が触れた。
ミンが、俺を、これ以上ないほどに覗き込んだ。
……ねえ、きらいじゃないなら……キスだけ、でも……だめかな
え、っと。
だめです!
俺の左側から、絶叫。叫んだのはサンザシだ。
つんざくようなその声に、思わず左に顔を向ける、そのとき、俺の右頬を電撃が走り抜けた。
その電撃は、ミンの鼻先にも当たったようだ。
わっ!
反射的に、ミンは飛び退いた。俺も、右頬を押さえる。
あ……
わなわなと震えるサンザシから、俺は目をそらすことができなかった。
アキ?
ミンが俺の名を呼ぶが、そちらに顔を向けられない。
サンザシから目をそらしたら、その瞬間、彼女は泣き出してしまうかもしれない。
それは、避けなければならない。
あと少しで、サンザシの名を呼んでしまうところだった。
すんでのところで現れたのは、セイさんだ。
音もなく、前触れもなく、前からそこにいたかのように、ふわりとその場に現れる。
あっと声をあげる前に、セイさんが俺に向かって手を伸ばしていた。
俺の声が喉につまる。声をあげることができない。
サンザシが倒れる。
セイさんの魔法によるものらしい。
セイさんが受け止める。
君は続けて。僕は、時間を止めることはできない
それだけ言うと、セイさんは消えた。
僕は時間を止めることができない?
――キ?
ミンの声に導かれるようにして、俺はミンの方に顔を向けた。
ミンは、怪訝そうな顔つきでこちらを見ている。
アキ、大丈夫かよ?
俺は、頬を押さえながら、なんとか笑顔を作った。
魔法かなって……前のこともあってか、少し疑心暗鬼になってるね
そりゃ、そうなるよな
ミンが肩をすくめる。
――時間とらせちまってごめん、戻ろう。
主役がいないって、みんなが怒ってるよ
ミンが、寂しそうに笑った。そうだね、と俺は言う。
立ち上がると同時に、背中を汗がつたった。
サポートがいないまま、物語は進んでいく。
それがこんなにも、心細いものだなんて。