砂埃の向こう側には、
笑みを浮かべるミューリエ。
そしてワナワナと唇を震わせ、
明らかに動揺の色を見せている
デリンの姿があった。
砂埃の向こう側には、
笑みを浮かべるミューリエ。
そしてワナワナと唇を震わせ、
明らかに動揺の色を見せている
デリンの姿があった。
……バ、バカな。
人間ごときが
俺の魔法を相殺するなど……。
貴様は何も知らんのだな?
私よりも強力な魔法を使う
人間くらい、
世の中にゴロゴロいるぞ?
所詮、貴様は井の中の蛙、
お山の大将というわけだ。
くそぉっ!
こんなことがっ!
こんなことがあってたまるかぁ!
デリンは我を忘れ、
ミューリエに突進しつつ殴りかかった。
だが、
ミューリエはそれを見透かしていたかのように
ヒラリとかわして居合抜きの一閃。
彼の左腕は切り落とされ、地面へと落ちた。
そのまま彼自身もバランスを崩して倒れ込み、
もがき苦しんでいる。
ぐはぁっ!
あぁああああああぁっ!
……貴様は罪を犯しすぎた。
アレスの心と身体を傷付け、
私にさえ敵意を向けた。
ひっ!
初めて怯えの色を見せ、
必死に体を動かして逃げ延びようとするデリン。
だが、思うように動けない様子だ。
それをミューリエは冷たい瞳で見下ろしている。
……死ね。
ミューリエは剣を振り上げた。
その切っ先はデリンの心臓へ向けられている。
きっとトドメを刺すつもりだ!
ダメだよ、ミューリエっ!
アレス?
もう抵抗はできないんだ。
トドメを刺す必要はないよ。
っ!?
アレスはこんなヤツにまで
情けをかけるつもりかっ?
あと少しでお前は
殺されるところだったんだぞっ?
……そりゃ、
そいつのやってきたことは
許せない。
怒りだってあるよ。
でも命を奪ったら、
やっていることは
デリンと同じになっちゃうよ。
…………。
アレス様……。
さすがアレスだなっ☆
ふはははははっ!
甘い、甘すぎるぞ、
勇者アレス!
ここで俺にトドメを刺さなければ、
必ずまた貴様の命を狙ってやる!
……アレス、これでも
こいつの命を助けるというのか?
放置するのは危険すぎるぞ?
憎しみに満ちた目でデリンは僕を
睨み付けている。
でも僕はその中に
微かな戸惑いが混じっていることに
気がついていた。
つまり今はまだ敵対意識が
あるかもしれないけど、
いつか悔い改めてくれる可能性は
ゼロじゃないってことだと思う。
だったら命を助け、
罪を償う機会を与えることも無意味じゃない。
『情けは人の為ならず』って言葉もあるしね。
もちろん、それでもダメだった時は
僕も決断しなきゃいけないかも
しれないけど……。
今回は助ける。
なっ!?
……分かった。
アレスがそう言うのなら
そうしよう。
貴様、
アレスの慈悲に感謝するんだな。
ふんっ!
後悔することになるぞ?
この腕も時間さえ経てば再生する。
次に会った時こそ
確実に貴様ら全員を殺してやる!
……そうはさせん。
ミューリエは剣の鞘で、
デリンを囲むように地面へ魔方陣を描いた。
そして何かの呪文を唱えると、
その内部が光の膜に包まれる。
これは?
封じの結界だ。
内側からの魔法や
物理攻撃の全てが
外部や結界に対して無力化される。
もはやこいつには何もできん。
私がこの結界を
解放しない限りはな。
アレス、
これならばいいだろう?
お前の安全を考えれば、
これは譲れん。
……分かった。
でも彼が心を入れ替えてくれたら、
その時は解放してあげてね。
それはありえん!
俺はいつまでも俺だ!
勇者アレス、
貴様の命を狙い続けてやる!
……でも僕は信じてるよ。
いつか心を入れ替えてくれるって。
そして罪を償ってくれるって。
…………。
さすがアレス様ですっ!
やっぱ、アレスは伝説の勇者の血を
ひいてるんだなぁ。
オイラ、あらためて確信したよ~☆
……かもな。ふふっ。
タックたちは自然と頬が緩んでいた。
中でも特に、
ミューリエはいつになく嬉しそうだったのが
すごく印象的だった。
でも、ミューリエってすごいね!
魔王の四天王が相手でも
あんなに簡単に
倒しちゃうんだから!
っ!?
…………。
……まぁな。
それなりに修羅場をくぐり抜けて
きているからな。
そんなことよりも、
さっさと試練を済ませてしまえ。
私たちは洞窟の外で待っている。
行くぞ、タック。
あいよ~♪
んじゃ、アレス。
またあとでな!
うんっ!
その後、
僕は洞窟内に残っていた宝箱を全て開けた。
でも中に入っていたのは
相変わらずガラクタばかり。
勇者の証らしきものは見当たらない。
もしかして隠し部屋みたいなものがあって、
その中にあるのかな?
ねぇ、シーラ。
宝箱はこれで全部?
そうだと思いますが。
つまり今までに開けた宝箱の中に
入っていたもののどれかが
勇者の証っていうことに
なるんだよね?
おそらくは。
実は私も
どれが勇者の証なのかまでは
知りませんので。
ふーん、そうなんだ……。
でもどれもガラクタばかりなんだよなぁ。
つまり見た目では
判断できないってことか……。
とりあえず、
全てウェンディさんに見せてみよう。
何度チャレンジしてもいいって
言われてるんだし、
どれかが勇者の証には違いないんだから。
それにしても、勇者の証ってどれなのかなぁ?
洞窟を出て小屋に戻った僕は、
ウエンディさんのところへ『勇者の証』を
示しに行った。
宝箱の中から見つけたものは
全てまとめてあるので
それを順番に見せていくつもりだ。
――まずは適当に、このスプーンでいいや。
ウェンディさん、
判断をお願いします。
勇者様はなぜこれが勇者の証だと
お思いになったのです?
えっと……
実は当てずっぽうなんです。
というのも、
洞窟内の宝箱を全て開けたので、
順番に提示していけば
いつか当たるんじゃないかなって。
そのやり方、ダメですかね?
全ての宝箱をっ!?
あれだけたくさん
あったというのに!
シーラ、それは本当かい?
はい、間違いありません。
……なるほど、
まさか全ての宝箱を開けるとはね。
私の想定外だよ。
やっぱり、
このやり方はダメですか?
いいえ、問題ありません。
では、勇者アレス様、
あなたにこれを差し上げます。
そう言って、
ウェンディさんは懐から指輪を取り出した。
それを僕の手に握らせてくる。
これこそ私が授けている
『勇者の証』です。
持ち主の任意の能力を
高めてくれます。
えっ?
私があなたを勇者様と認めた。
ゆえに勇者の証を授けるのです。
っ?
僕にはウェンディさんの言っている意味が
分からなかった。
これはいったい、どういうことなのだろう?
次回へ続く……。