タックはシーラの体を抱きあげていた。
その一方、
ミューリエは剣を構えたまま僕らの前方に立ち、
デリンの動きを警戒している。
タックはシーラの体を抱きあげていた。
その一方、
ミューリエは剣を構えたまま僕らの前方に立ち、
デリンの動きを警戒している。
大丈夫か、アレス~?
ぼ、僕よりもシーラをっ!
おうっ! 任せておけっ!
…………。
タックは空中に指で魔方陣を描き、
何かの呪文を唱えた。
魔方陣の中から美しい少女のような
人影が現れた。
彼女は体が透き通っていて、
淡い碧色の光に包まれながら浮遊している。
ゴーストのようにも見えるけど、
それにしては冷たい感じがしない。
むしろ神々しい雰囲気をまとっている感じだ。
シルフ、
シーラとアレスに癒しの奇跡をっ!
名前なのか種族名なのかは分からないけど、
どうやら彼女は『シルフ』というらしい。
シルフは返事をする代わりに
タックの周りをぐるりと1周飛び回ると、
シーラと僕のほぼ中間地点で動きを止めて
全身を輝かせた。
すると発せられた細やかな光の粒が霧状になり、
僕たちの体に向かって風のように吹いてくる。
あ……。
……無垢で爽やかな、
高原の涼風みたいな心地よさ。
痛みや疲れ、
体に有害なものがその風に溶け出して、
全身が浄化されていく感じ。
気力や体力も湧きだしてくる。
シーラの回復魔法とは感触が全然違うけど、
これはこれで気持ちいい。
程なく僕の受けた怪我は完全に回復し、
ゆっくりと立ち上がった。
どうやらシーラも傷が癒えたようで、
キョトンとしながら周囲を見回している。
サンキュー! シルフっ!
タックがそう声をかけると、
シルフは眩い光に包まれながら消えていった。
それを見届けると、
僕はタックとそのすぐ隣にいるシーラに
駆け寄る。
タック! シーラ!
アレス~♪
間に合って良かったぜ~!
あの……私は……
どうなったのでしょう?
タックが召喚獣を使って、
癒しの奇跡を施してくれたんだよ。
それにしても、
どうしてタックたちがここへ?
ウェンディのばっちゃんが、
教えてくれたんだ。
洞窟の中で異変が起きたって。
それでオイラとミューリエは
アレスを捜しに入ったってわけさ。
そういうことだったのか。
ウェンディさんはこの洞窟の審判者だから、
何かがあったってすぐに気がついたんだね。
おかげで助かった……。
ぐぬぅううううぅっ!
き、貴様っ、よくも私の腕をっ!
不意に憎しみに満ちたような
デリンの声が響いた。
そちらへ視線を向けてみると、
ヤツは目を血走らせて
ミューリエを睨み付けている。
それに対して、
ミューリエも剣を構えたまま
鋭い眼光で睨み返す。
視線の間で火花が激しく散っているみたいだ。
……アレス、大丈夫か?
う、うんっ!
それよりもミューリエ、
気をつけてっ!
そいつ、
魔王の四天王の1人らしい!
……ほぅ?
――タック、
アレスの護衛を頼むぞ!
任せろっ!
まっ、
もはや2度と手出しはさせんがな。
その前に葬ってやる。
調子に乗るなぁっ!
人間の分際でぇええええぇっ!
…………。
貴様ら全員、
木っ端微塵にしてくれるっ!
はぁあああああああぁっ!
デリンは左手を構え、
その握った拳に念を集中させ始めた。
するとそこにはバチバチと音を立てながら
小さなスパークが巻き起こり始める。
さらに淡い赤光が拳を包み始め、
どんどん大きくなっていく。
あれはまさかっ!
超絶大爆発魔法
(マキシマム・バースト)!?
なに、それ?
大爆発を引き起こす魔法ですっ!
小さな山なら吹き飛ばして
平地に変えられるくらい、
強力な魔法ですっ!
えぇっ!?
すぐに逃げないとッ!
安心しろよ。
オイラ、いつでも防御結界が張れる
状態にしてある。
それにこの場は
ミューリエに任せて、
どーんと構えていればいいっ♪
でもっ!
あいつはそんなに弱くないさっ!
そうだろ、アレス?
…………。
う、うん……。
でも心配だよ、僕……。
確かにミューリエは強い。
だけど相手は魔王の四天王のひとりだし、
あんなに強力な魔法を使おうとしている。
大丈夫なんだろうか……。
とはいえ、今はタックの言葉を信じ、
不安で胸がいっぱいになりつつも
見守るしかない。
はーっはっは!
この洞窟もろとも
消し去ってやるっ!
術者である私自身は
魔法障壁によって守られる。
死ぬのは貴様らだけだ。
……無粋だな。
見るに堪えかねん。
ミューリエは剣を鞘に収め、
右手の拳を握りしめて力を込め始める。
すると大きなスパークが発生し、
瞬時に光が膨れあがる。
まさかこれって、
デリンが使おうとしている魔法と同じっ!?
なっ!?
き、貴様っ、それはっ!
フッ……。
この程度の魔法、
私ならこうして一瞬で
練り上げられるぞ?
さっさと放ってこい。
暇で仕方がないぞ?
このノロマめ!
ぐぬぬぬっ!
死ねぇっ!
デリンは逆上しながら超絶大爆発魔法を放った。
轟音と閃光が上がり、
魔法力の塊は周りの空気を
激しく巻き込みながら向かってくる。
はぁっ!
それに少し遅れたタイミングで
ミューリエも魔法を開放した。
2つの魔法は真っ正面からぶつかり、
乾いた爆発音とともに
白い光が世界を眩く照らす。
僕は思わず目を瞑りつつ腕で塞ぎ、
吹き抜けてきた風が収まるのを待った。
――辺りを包む静寂。
薄目を開けてみると
砂埃が徐々に収まっていくのが見える。
そこに広がっていた光景は……。
次回へ続く!