―ソーリヨイの街・中央街区―

ソーリヨイの街の人々は逞しい。

否、生きる人は皆強いとソートクは実感していた。

野盗の襲撃から二度目の朝を迎える頃には、人々の活気は十分戻っているのである。

西街区の被害は大きい。

しかし、前に進まなければならないことを知っている人々は、昨日一日をフルに使って瓦礫を撤去していた。

もちろん自分も手伝いには応じた。

自警団や諸々の軍の力を借りて、復興に尽くしていた。

ソートク

復興作業に尽力している姿を美少女に見せようとしたのだがな……

ソートク

瓦礫の撤去作業は屈強な男の仕事であったな

ソートク

力仕事に自信がある美少女がいれば、その筋肉美を堪能するのもまた一興だと思ったのだがな

瓦礫の撤去作業に、積極的に参加する女性は残念ながらいない。

炊き出し班として参加していたのかもしれないが、撤去作業に精を尽くしていたせいで探せなかった。

だが、帰り道に美少女と出会えたのは僥倖であった。

受付獣人嬢

あっ!
女たらしの勇者だニャ!!

ソートク

ああ、酒場のネコ娘か

ソートク

無事で何よりだ

受付獣人嬢

家は、西街区じゃなかったからニャ……

受付獣人嬢

店主は無事だったけど――

受付獣人嬢

お店は焼かれちゃってたニャ

ソートク

……

ソートク

命があるだけ良かったと言うのは、慰めにならんか……

ソートク

行くところが無ければ、俺と共に来ないか?

ソートク

お前の顔には、太鼓判を押しているのだ

受付獣人嬢

ニャ、ニャア……

受付獣人嬢

けれど、断るニャ……

受付獣人嬢

出稼ぎにこの街に来てもう十年近くニャ……

受付獣人嬢

一度故郷に戻って家族や仲間たちに顔を見せたいのニャ

ソートク

そうか。
遠くの家族を憂い、無事を伝え顔を見せる。
これを孝行と言わずして何と言うか。

ソートク

家族を想う獣人をどうして止められる

受付獣人嬢

そ、そんな大げさニャ……

受付獣人嬢

でも……里帰りが済んだら考えておくにゃ

ソートク

そうか。

ソートク

お前の言った通り、俺は少し変わっているらしい。騎士にも言われてしまった

受付獣人嬢

少し?

ソートク

だがそれ故に、噂には事欠かん。もし俺に侍る気があるのなら噂を頼りにすると良い

受付獣人嬢

わかったニャ!!

受付獣人嬢

それじゃ、またニャ!!

昨日、日没まで行った撤去作業の労も、あの獣人と出会えたことで報われたと思うのだ。

最後に獣人の名前だけ聞いたが、いつかまた彼女の名を呼びたいと思い別れた。

惜しい人材であるが、事情が事情だ。

あの場での無理強いは、自分の美学に反する。


ソートク

それに、今の俺には……

思い出すのは、一昨日。

野盗の魔物どもを共に蹴散らした三人の美少女だ。

騎士然の美少女に、剣闘士の美少女に、魔法使いの美少女。

彼女たちのパーティは理想的な編成であった。

ソートク

編成も何もない一騎当千ぶりだったがな……

剣闘士は、その職名に冠されているのに、腰に携えた剣を使わなかった。

背中に背負った大斧も使わず、片手に持った少し大きめの手斧(戦斧とも呼ぶ)を振り回していたところを見るに、まだ本気ではないのだろう。


魔法使いも、後方から無尽蔵に魔法を繰り出していた。

魔法自体はどれも初級レベルのものしか使っていない。

しかし、並の魔法使いでは話す事すら出来ないと言われている、守護精霊を使役している魔法使いだ。弱いわけがない。

治療された左腕も完治していないと聞いていたが、左腕が支障をきたすことは微塵も無かったということは、一昨日の時点で快復していたのだろう。



騎士然の女性が直に戦う姿は見ていない。だが、女性でありながら百の魔物を相手に怯むどころか、立派な啖呵を切っていた。

不屈の闘志が見て取れる。あの場は剣しか持っていなかったが、槍術にも長けていると言っていた。

ああいった強さの中に気品を忍ばせる人間は、自分の実力に嘘はつかない。期待していいだろう。

やはりあの三人は(多少騎士は劣るものの)、相当な実力者であることが伺える

ソートク

だが、そんなことは二の次よ……

普通、同行する旅の仲間の判断基準は、その実力の強弱が何よりも優先される。

そう考えると、あの三人は規格外の強さを持っていると言ってもいい。

しかし、ソートクにとっては あの三人がどれほど強かろうと、仲間にする判断材料にはならなかった。

早い話が、あの三人が、理性の無いスライム相手に勝てないくらい弱くてもいいのだ。

村人A的存在であってもいいのだ。

ソートクが提示する条件は強弱ではない。

ソートク

美少女であればいい!!

それが、ソートクにとって唯一の、そして絶対の条件であった。

あの三人は相当な美貌を持っている。

それでいて、身体つきもいい。

総じて申し分ない美少女だ。

ソートク

俺の序章を飾る華にしては、いささか過剰だ。

贅沢である。

美少女のハーレムがこれで完遂している可能性もある。

だが、まだだ。

ソートクの目指す先は二、三人の美少女を侍らすことではない。

ソートク

俺は、百単位の美少女を手中に収める!!

それこそが、ソートクの揺るぎない野望であり、生き様であった。

その第一歩として、あの三人は実に優秀である。

自分には間違いなく、手に余る逸材であろう。

それが大した労も無く、仲間となってくれるのだから、幸先のよいスタートを切ったと言えよう。

ソートク

無論、魔物の討伐も行うがな

ソートクとて、この世を憂えている一人だ。

美少女ハーレムなど、勇者でなくとも出来る。

だが、自分は勇者だ。

魔物を討伐することで、世界に平和が訪れるというのであればやらない理由は無いのだ。

それぐらいの使命感も持っている。

あの騎士は、どうもそこを勘違いしているように思えた。

あくまで優先順位の問題であった。

美少女ハーレム>世界平和なだけだ。

ソートク

さて……待ち合わせはこの辺りだったかな

日差しが丁度真上から照らされる頃。

中央街区と北街区の半ばにある宿が連なった通り。

ソーリヨイの街が栄えているのを象徴するかのように、宿泊客が多くいる。

宿の主人と値段交渉をしている声――

宿泊客に歩み寄り、商品を売りつけようとする商人の声――

宿に備え付けられている厩舎からは頻繁に馬の嘶き――。

中々に賑わっており、待ち合わせ場所には不向きであった。

とある宿の前であの美少女三人は待っているとのことだったのだが――

ソートク

宿の目印を聞いておけばよかったか……?


意外にも多く連なっている宿。

彼女たちから宿泊先の目印も聞いていなかったのを思い出す。

これでは探すのに時間が掛かるかと思っていた。



しかし、目的の人物は直ぐに見つかった。

ソートク

おや……

ゼリィ

だろ、そーだろ!!
このご時世に斧を敢えて選んでるんだよオレはよ!!

斧使うやつぁ少なくなっちまったからなぁ。
にしてもでかいなぁ……

ゼリィ

だろぉ?
重さはデーモンコング三匹分はあるんだぜ?

はっはっは。
そんなの持てるわけねぇだろ、からかうんじゃねぇよ

ゼリィ

なら試しに持ってみるか?
急性腰椎捻挫は避けられねぇぜ?

ゼリィ

あと刃には触んなよ?
上物の皮革の布でカバーしてっけど刺さるぜ

シューの守護精霊

ヌゥ……ワレヲ……ミツメルナ!!

すげぇな!!
本物の妖精じゃねぇか!!

シュー

正確には精霊さんですよぉ

シューの守護精霊

主……ワレ……ハズカシイ!!

シュー

もう少しぃ、人に慣れなさい〜

ソートク

しばらく。
と言っても一昨日会ったか

ゼリィ

おう、ソートク!
はえーじゃねぇか

シュー

今日から宜しくお願いしますねぇ〜

ソートク

既に準備を終えている人間が何を言うか。
待たせてしまったのは俺だ。

ソートク

しかし……

ゼリィ

あん?

ソートク

宿の目印は建物に無く、宿泊客にあり――。
だな。

ソートク

美少女が宿泊しているだけで名物になりそうだな

ゼリィ

お、おう……

シュー

相変わらずストレートですねぇ

ソートク

どんなに言葉を垂れ流しても美少女の良さは語り尽くせないのだ。
褒め言葉とは、そんなやるせない男の精一杯の抵抗だ。

ソートク

無論、人を選んで言うぞ?

ソートク

もう一人は抵抗を強く示しているようだからな。

シュー

パッフさんですかぁ?

ゼリィ

アイツは真面目だからな。
浮ついたセリフにゃあ慣れてないんだよ

ソートク

浮ついたセリフでは無い。
地に足付く確かな事実だ。

ゼリィ

それでも、あんたの野望には、最後まで渋っていたぜ?

ソートク

……

ソートク

だから姿が見えないのか……?

シュー

どうでしょうねぇ……

シュー

仲間ではありますがぁ、最後の決断はぁ、個々の自由に任せておりますのでぇ

ソートク

意外にドライなのだな……

ゼリィ

このご時世だからなぁ

ゼリィ

それに仲間っていっても一週間程度の関係なんだなコレが

ソートク

そうか……
意外に短い付き合いだったのだな

ゼリィ

出会いと別れが毎日のように繰り返される世の中だからな。別段不思議じゃねぇよ

シュー

むしろぉ、勇者不在のメンバーではぁ、一週間の付き合いは長い方かもしれませんねぇ

シュー

『深緑の地』であればぁ、キャラバンでも歩けますしぃ……。野盗は例外ですけどねぇ

ソートク

なるほど……

ソートク

で、あればあの騎士はここでお別れか……

パッフ

『元』騎士です

ソートク

おおっ、びっくりした

ゼリィ

確かに短い付き合いだけどよ……

シュー

この程度で違える仲ではありませんよぉ〜?

パッフ

と、言うわけです。
御身には命を助けて頂いた礼もあります。

ゼリィ

パッフ〜?
それは胸触らせてチャラにしたろ?

ソートク

俺もそれで、帳尻を合わせたのだと思ったが?

パッフ

触らせたわけではありません!!

シュー

ならぁ、恩返しで仲間になるのは違いますよねぇ?

パッフ

……

パッフ

私は、御身の野望を認めません

ソートク

……

パッフ

勇者がハーレムを作りたいなど言語道断です

パッフ

勇者が世界平和を二の次に、己の欲求を満たそうとするなど……!!

パッフ

……

パッフ

そう考えてましたし、その考えは変わりません。

ソートク

変わらないのか

ゼリィ

変わんねぇのか

シュー

変わらないんですねぇ

パッフ

ですが、ある女性に「肩の力を抜け」と言われました

パッフ

「肩の力を抜く」。
言葉の意味は解ります。

パッフ

しかし、具体的にどうすればいいのか、悩みました。

シュー

そういうことを考えないのがぁ、肩の力を抜くことなんですけどねぇ

パッフ

とりあえず、無心になって御身について考えました……

ゼリィ

考えてんなら無心じゃねぇよな……?

パッフ

その過程で、私は一つのことに気づきました。

パッフ

私は散々、御身が勇者であること認めないと言っていましたが……

パッフ

その実、勇者とは なんなのかを知らないと

パッフ

流言、他聞に任せて目の前の勇者を知ろうともしなかったのではないか、と。

ソートク

……

パッフ

この人と魔が争う混迷たる世を救えるのは誰か。
腕に名のある武人か――。
博識たる魔法使いか――。
豪傑の集まる強国か――。
それらを凌駕するエルエット大教会か――。

パッフ

あるいは勇者なのか――。

パッフ

そもそも勇者とは一体なんなのか

パッフ

勇者も一人の人間であるなら、そもそも勇者とはいなくても良いのではないか。

パッフ

『元』騎士である私は知りたい――

パッフ

今まで仕えてきた国家では成し得なかったことを、成し得る勇者という存在を――

パッフ

私は知りたいのです

パッフ

そのために……

パッフ

御身に同行いたします

ソートク

……

ゼリィ

パッフ、お前……

シュー

パッフさん……

パッフ

そして私は勇者であるこの方に――

ゼリィ

なげぇよ!!

シュー

ですぅ……

パッフ

は、はい?

ゼリィ

聞く身にもなれよ。
ただただ、なげぇよ!!
なげぇの一言に尽きるぜ!!

パッフ

で、ですがっ。一日考えたんですよっ!?
動機や道理を判明させないと、今後の旅に支障が――

シュー

すでに支障が出てますよぉ……

シュー

それにぃ、話の長い人ってぇ、大抵 大した話をしてないんですよぉ?

パッフ

え?
そういう形で全否定されちゃいます私!?

ソートク

まぁ、二人とも。
確かに話は長いが、言いたいことは理解できた。

ソートク

なんとなく……

パッフ

何となくでは困るのです!!

ゼリィ

だぁ!!
まどろっこしいなぁ!!

ゼリィ

パッフ!!
行くのか、行かないのか!?

ゼリィ

一秒で!!

パッフ

え? 一秒……

パッフ

い、行きます行きます!!

ゼリィ

なら、話は決まった!!

ゼリィ

ソートク、決めてくれ!!

ソートク

良し!!
『ならば契りむすばん』

パッフ

それって、『竜滅乙女戦記』のアレですか?

シュー

懐かしいですねぇ、子供の頃よく読んでましたぁ

ゼリィ

でもアレ、女児向けの幻想譚だよな?

ソートク

呼んでいたとも――

ソートク

美少女が出ていたからな!!

ゼリィ

あー(納得)

シュー

あー(合点)

パッフ

あー(理解)

ゼリィ

ま、お前さんらしいか

シュー

ですねぇ

パッフ

了承とは ほど遠いですがね……

ソートク

行くぞ――

ソートク

勇者、ソートク!!

ゼリィ

剣闘士、パッフ!!

シュー

魔法使い、シュー。

パッフ

も、元騎士、パッフ!!

ソートク

所詮、この世は一期一会!!
明日に離れ、その道 違えることがあっても――

ゼリィ

例え、恨み傷付けあうことがあっても、ともに過ごす時は――

シュー

互いを父のように頼り、母のように甘え〜

パッフ

血は通わずとも、不滅の絆で結ばれん!!

パッフ

でしたっけ……? で、この後、どうするんでしたっけ?

ゼリィ

利き腕を突き出すんだよ!!

突き出された利き腕は、右腕が四本。

本来武器を持つ利き手

それを惜しげなく見せ、ぶつかり合わす。

そして、己の武を分かち、託す。

一蓮托生の意がそこに込められるのだ。

ソートク

今ここに、永久の誼を誓わん!!

衝突した拳同士の鈍いながらも、良く響く快音と。


これまた良く響く勇者の高らかな声。


この二つの音が重なり。


ソートクの旅の始まりを祝福する鐘となる。


心地よいとは言い難い恩恵の音色。


だが、ソートクの顔は晴れ晴れとしていた

……――

13、 勇者 美少女三人と契りを交わす

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