―ソーリヨイの街・中央街区―

シュー

ですからぁ……

シュー

魔物たちは、西街区で少し暴れてぇ、あとは勝手に帰ったんですぅ

国王軍・兵士

そんなわけあるまいっ。
魔物の死体がたくさんいたぞ!?

シュー

魔族のみ感染する疫病でも流行ってたんじゃないですかぁ

ツイていない。

国王軍にしろ、連合軍にしろ、再発を防止するために、昨夜起きた出来事を調査するのは当然である。

手当たり次第に人混みを見つけては、昨日のことを聞きまわっているのだ。

なんというか、当日は何一つ間に合っていないくせに、全てが終わった次の日に闇雲に情報を得ようとする姿は何とも滑稽である。

確かに自分に声が掛かるのはわかる。

今、安い料金で魔法による治療を施している。

ただでさえ、直接的な治療が出来る回復魔法が行える魔法使いは昨今少なくなってきている。

それを無償に近い金額で実施しているのだから人が集まらないわけがないのだ。

軍からしてみれば、この人だかりは昨夜の出来事を吟遊詩人が即興で民衆に伝えているように見えたのだろう。

吟遊詩人の英雄譚は、大仰な脚色を除けば事実の列挙である。

だから、自分を吟遊詩人と勘違いして接触してきたのだ。

そこまではいい。勘違いなら誰にだってある。

だが、面倒なことに、魔法使いと分かっていても、彼らは詰問を止めようとはしなかった。

シュー

まぁ、それで正解なんですけどねぇ……

シュー

何せ当事者ですからぁ

国王軍・兵士

何が起き、魔物が全滅したのかを聞いておるのだ!!

シュー

救助活動以外の功績が欲しいんですかねぇ

シュー

『昨日、こんなことがあって魔物が全滅しました!
この情報仕入れた俺 仕事したでしょ!?』

シュー

ってところでしょうかぁ

連合軍・兵士

こちらとしても、ぜひその話をお伺いしたい

シュー

面倒なのは、連合軍にも見つかっちゃったことですかねぇ……

国軍と連合軍。

同じく鎧に身を包んだ者であるが、明確な違いがある。

至極簡単に説明すると――。

国に所属しているのが国軍。

国同士が魔物に対抗するために、結託し合い作り上げたのが連合軍。

――である。

両者の志は似ているようで少し異なる。

例えば、国軍が動ける範囲はその国の領土のみである。

比べて、連合軍は全大陸、全国を活動の場としている。

例えば、連合軍は魔物の討伐を第一に考える。

比べて、国王軍は国民の安全を第一に考える。

だから、二つの軍には、大なり小なり、軋轢が生じるものだが、今は協力しているように見える。

その理由は自分だ。

連合軍・兵士

その高度な魔法からするに、昨日の魔物撃退に大きく関係しているのではないのかね?

国王軍・兵士

うむ。それで間違いないだろう。話を聞かせてるんだ

シュー

しつこいですねぇ……

シュー

信用に足る人間であれば、自然と口が開いてますよぅ

国王軍・兵士

何!?

連合軍・兵士

信用できないと言われるか!?

シュー

少なくともぉ、治療を待っている人たちのぉ、妨げとなってる人は信用できません〜

シューの守護精霊

ナオレ……!!

おお!
治った!!
ありがてぇ、ありがてぇ

国王軍・兵士

っち……

連合軍・兵士

だが、待つとしてもこちらも急ぎの身

連合軍・兵士

すぐ終わるのだが……。
こちらを優先していただきたい

シュー

だからぁ、私は関係ありません〜

シュー

調べられるから名前も出しちゃいけないんですけどぉ……

シュー

完全にマークされちゃってますねぇ

国王軍、連合軍の話をいなしながらも治療を続ける。

そして、最後の一人の傷を治した。

詠唱を心の中に並べることで精霊に事細かに、魔法の種類を伝達する。

喋るのが苦手な精霊だが、自分との相性は抜群だ。

大した怪我人も来ず、そこまで時間を要するものではなかったが、二人の軍人の表情は、怒りから熱を帯びていた。

ありがとねぇ

シュー

いえいえ〜。気を付けてお帰り下さいねぇ

国王軍・兵士

やっと終わったか!?

連合軍・兵士

さ、話してもらおうか。
昨晩、君が何をしたのかを

連合軍・兵士

連合軍に役立てるのだ。これほど名誉なことはないだろう

シュー

参りましたねぇ……
話す気ゼロなんですがぁ……

シュー

それにぃ、随分と偉そうな態度ですね〜。
見たところ末端なのに〜……

痛いよ……熱いよ……

魔法使いさん……
指、火傷しちゃった……

シュー

あららぁ……。
今治しますね〜

国王軍・兵士

坊主!!
その程度の火傷くらい我慢しろ

連合軍・兵士

すまないな少年、おじさんたちの方が急いでいるんだ

で、でも……

連合軍・兵士

おじさんたちは、大事なお話をしているんだ。その程度の火傷は、後回しにしてほしい

シュー

あらあら……

シュー

医者でもなければぁ、魔法使いでもない〜。
怪我の度合いでぇ、順序をつけるほど、いつから軍は偉くなったんですかぁ

国王軍・兵士

何?

連合軍・兵士

どういうことですかな?

シュー

あなた達にぃ、国や街を守られているとはぁ、由々しき問題だと言ったのですぅ

シューの守護精霊

主……ドウスル……コロスカ?

シュー

「半」でお願いしますぅ

国王軍・兵士

なんだと!!

連合軍・兵士

魔法を使うとなれば……
こちらも応戦せざるを得なくなるが?

シュー

大丈夫ですよぉ。
瞬きの間で終わりますからぁ

ま、魔法使いさん……?

待たれよ!!

連合軍・兵士

た、隊長……

国王軍・兵士

連合軍の部隊長か……?

騒がしいぞお前たち。
被災の地だということを忘れたか?

タニリタ国軍の方もどうされたのです?

連合軍・兵士

私が説明します。
実は……

シュー

あららぁ、また一人増えちゃいましたねぇ……

……

連合軍・兵士

――と、いうことでございます

国王軍・兵士

部隊長さんからも説得してくださいよ

……

シュー

……

……

はぁ……

すまなかったな、坊や

え、僕?

シュー

あらあらぁ?

私たちはこの街を守れなかったことで、気が立っていたんだ。
許してくれないか

そこの魔法使い殿も部下が粗相を働いたようだ

どうか許してほしい……

連合軍・兵士

ぶ、部隊長……

連合軍・兵士

その魔法使いは、我々の要請を断っている不届きな――

だまれ!!

お前が連合軍に入ったのは、弱者をないがしろにするためか?

連合軍・兵士

い、いえ……

であれば、瓦礫の撤去を手伝いに行け!!

連合軍・兵士

は、ははっ!!

国王軍・兵士

えっと……

タニリタ国軍が、他国から厚く信頼される所以は、民を第一にという考えを持っているからと聞いております

南街区の救援物資が遅れているらしいのですが……

タニリタ国の考えに相反することだと思いませんか。何か 手違いが起きているのでは?

国王軍・兵士

へ?

国王軍・兵士

あ、そ、そうだ!
しかたねぇ、俺が手伝ってやるか

さて……

重ねて謝罪する。
本当に申し訳ないことをした……

頼める立場ではないが、この坊やの手当てを急いでやってもらえるか?

シュー

もちろんですよぉ

シューの守護精霊

ボウズ……シミルガ……ナクナヨ

いてっ!

……

な、治ってる!!

ありがとう!
魔法使いさんに、兵士さん!!

シューの守護精霊

主……金……モラッテナイ

私が払おう。
部下の不始末を拭えるとは思えんが

シュー

いえいえ〜

シュー

国軍はともかくぅ、連合軍にまだあなたのような人がいるって知れただけで十分ですぅ

そんな……。
本来であれば、私のようなものが普通なのだ

だが、今の連合軍には目に余る人間も多いのが事実……

シュー

やっぱりぃ、連合軍も高慢になってますかぁ

部外の者に言うべき内容ではないが――

上層部の方は特に、な……

恥ずべき話だが――

昨日、ここの周辺の連合軍が間に合わなかったのも、情報伝達のミスが原因だったと聞く

私がもう少し早く気づいていれば……

シュー

貴方に責任は無いですよぅ

そう言ってくれるとありがたい

だが、今の連合軍は、驕りが目立つ。

長年、力を持った勇者が現れないのも要因の一つなのかもしれん

王者たる風格を漂わせる、強力な勇者の不在――

シュー

……

増長し始めた連合軍――

「連合軍さえあれば魔物は打ち倒せる」

そんな考えを持っている人間は少なくない

絶対的な勇者が必要なのだ……

シュー

絶対的な勇者、ですかぁ

『深緑の地』で、実のある勇者を探す方が難しいだろうがな

私からしたら、他大陸の勇者もあまり当てにならないというのが現状だ

エルエット大教会を不審に思う国があると言うのも、あながち否定できん

それで、話はかわるが、昨日の魔物を討伐したという話だが――

疫病が流行ったということでよろしかったか?

シュー

そうですよぉ

シュー

疫病で全滅ぅ、ということにしておいてください

承った

それでは私は失礼する。
連合軍に入用の時は私を頼ってほしい。

腐りかけでも連合軍。
必ずや、助けとなろう

さらば!!

シュー

行ってしまいましたぁ。
真面目な騎士さんでしたねぇ

シュー

シューが、どうして昨夜のことを隠しているか理由を聞かないのも、高評価ですぅ

シュー

ですがぁ、連合軍も大変ですねぇ

シュー

絶対的な勇者……ですかぁ

ソートク

ハーレム!!

シュー

シューは、結構いい線いってると思いますけどねぇ

シュー

明日から楽しみですぅ

―ソーリヨイの街・北街区―

神官様……女房が……

くそ……どうして親父が死ななきゃなんねぇんだ!?

神官様……神官様……

大教会神官

皆様の苦しみ、悲しみ……
全て、我らの主に委ねるのです……

大教会神官

エルエット大教会は来るものを拒みません。
その苦しみ、悲しみに押しつぶされそうなとき、我らが救いになります

神官様……

神官様……ありがとうございます。
そのお言葉だけで――

シュー

エルエット大教会ですぅ。

シュー

挨拶でも、と思いましたが邪魔になっちゃいますねぇ

シュー

それにしても凄い人気ですねぇ

シュー

やはりぃ、勇者と密接な関係を築かれているだけありますぅ

シュー

聞いてみたかったんですよねぇ〜

シュー

あの風変わりな方を〜

ソートク

ハーレム!!

シュー

どうして勇者と認定したんでしょ〜?

ソートク
受付獣人嬢
シュー

あららぁ、噂をすればぁ……ですよぉ

ソートク
受付獣人嬢
シュー

一緒にいるのは、可愛い獣人さんですねぇ

シュー

この街での獣人の扱いはそう良くは無い筈ですぅ……

シュー

迫害を受けているとは思いたくありませんがぁ……

シュー

一体何を話されているのでしょう?

ソートク
受付獣人嬢
シュー

……

ソートク
受付獣人嬢
受付獣人嬢
シュー

……

受付獣人嬢
ソートク
受付獣人嬢
受付獣人嬢
受付獣人嬢
シュー

……

シューの守護精霊

主……コエ……拾ウカ?

シュー

いえいえ〜。

シュー

あんなに楽しそうに話す獣人はぁ、初めて見ましたぁ……

シュー

ネコさんの獣人なのに、凄く背筋がしっかりしてますしぃ……

シュー

一体どんな間柄なんでしょうねぇ……?

シューの守護精霊

ドウシタ……主……ナゼ笑ウ?

シュー

いーえ……

シュー

明日から、すご〜く楽しいことが起こるとぉ……

シュー

そう感じるんですよぉ〜

周囲を飛び回る守護精霊に笑みを向けながら、魔法使いは歩く。

夜の空を縄張りとする月。

その幻想的な球体から放たれる淡い月光。

それを受けることは、魔法使いにとってごく当たり前のことであり、毎日欠かすことのできない日課となっていた。

だが、この日の夜だけは――。

早く寝てしまいたいと思うのであった。

――……

12、 魔法使い 軍の現状を知る

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