佐上頼子

……できた……!

佐上頼子

……これでいいの、かな?

出てきた文字は、全部で7文字だ。

佐上頼子

佐上頼子

佐上頼子

佐上頼子

佐上頼子

佐上頼子

佐上頼子

ノ……?

佐上頼子

なんだろう、これ?

1から順番に並べてみたが、意味が分からない。
少なくとも頼子の知っている限りではなんの意味も無い文字列だ。

佐上頼子

意味わかんないな

一刻も早くこの部屋から出なきゃいけないのに、
こんなことで時間を無駄に使ってしまったと
はやくも後悔し始める。

佐上頼子

もしかして!!

佐上頼子

これを入れ替える、のかな?

メモの裏側を使い、
あれこれと文字を入れ替えてみると……

佐上頼子

これ……!

ホンダナ ノ ウラ

ベッドから飛び起きると、急いで本棚の裏を見る。
壁とぴったりくっついて置かれている本棚を動かそうとしたがびくともしない。

佐上頼子

ダメだ、動かない
中の本を出さなきゃ……!

先ほど調べたばかりの本を取り出して
今度はどんどん床に置いていく。

半分くらい出したところでもう一度本棚を動かしてみると、今度はゆっくりだが、少しずつずれ始めた。

佐上頼子

動いた!!


右手が入るくらいの隙間を空けると、急いで本棚の裏側を手で探る。

佐上頼子

…………!!


右手に何かが当たった感触がした。
急いでそれを掴むと、どうやら本棚の後ろに貼り付けられているらしい。
固定されたものを引きちぎるように取り出して、
頼子は手元を見た。

佐上頼子

封、筒……?

取り出したのは、少しだけ厚みのある封筒だった。
封はされておらず、
四隅をテープで留めて本棚の裏に貼り付けておいたらしい。

佐上頼子

なんだろう、これ……

とにかく中を見てみよう。
そう思い、頼子は封筒の中身をのぞいた。

そこに入っていたのは、薄い本と

……鍵だった。

佐上頼子

……カギがっ!!!

急いで立ち上がり、扉の前に行く。
ドアノブにある鍵穴に鍵を通すと、鍵は吸い込まれるようにぴったりと合わさった。
鍵を回すと、扉からカチャリ、という音が聞こえる。

佐上頼子

……っ!

頼子は震える手を押さえつけながら、ドアノブを回した。

佐上頼子

開いた!!

期待していたことが現実となり、
思わず叫ぶ。

これで帰ることができるかもしれない。
そう思って意気揚々と扉を大きく開けて身を乗り出すように
扉の先の世界に目を向けた。

しかし、そこで頼子が見たのは
想像していたものとは
まったく違う光景だった。

佐上頼子

え……?

部屋の扉を開けると、そこは長く続く廊下だった。
薄暗い廊下の天井には
点々と蛍光灯が並び、ぼんやりと青い光を放っている。

そして、今まで頼子がいた部屋と
同じような扉が、間隔をあけていくつか見えた。



佐上頼子

な、なによ……これ……

途端に不安な気持ちが急激に襲ってくる。





---------- この部屋から出られたら、家に帰れる。

そう思ってドアを開けたのに。

佐上頼子

……だれか……いませんか

佐上頼子

誰かいませんか!?

廊下へ向かって大声で叫ぶ。

佐上頼子

誰か……いないの……?

自分の声だけが少しだけ響いて聞こえるだけで
廊下はぼんやりと暗く、しんと静まり返っていた。

一歩踏み出すと、ひんやりした空気が足元からじんわりと感じられた。

佐上頼子

……っ!

佐上頼子

だ……

“だれかいませんか?”

薄暗い廊下に向かって、もう一度叫ぼうとしたが
言葉が出てこない。

どうしても廊下に出る気になれず、
頼子はひとまず部屋に戻り、ベッドに腰かけた。

隣には、さきほどの封筒と本が
ベッドの上に置きっぱなしにしてある。

佐上頼子

そういえばカギにばっかり
気をとられてたけど
この本なんだろう?

ぺらり、とめくってみると
それはクマが主人公の絵本だった。

クマが毎日いろんなことをして遊ぶという
子ども向けの絵本のようだ。

クマ

まいにち あそぶの たのしいな

佐上頼子

このクマの絵本って……

ぺらりとページをめくってみる。

クマ

きょうはなにして あそぼうかな

佐上頼子

なんだか見覚えがある気がする

パラパラと数ページめくってみたが
特に何かメモのようなものが出てくるわけでもないようだ。

佐上頼子

絵本はとりあえず置いといて
今やらなきゃいけないことをやらないと

廊下を出て、
ドアを調べるべきだというのは分かっている。
だが、一歩あの廊下に出て
あのドアが全て閉まっていたら……?

そう思うと、先程は勇気が出なかった。
が、いつまでもこのままでいるわけにはいかない。

佐上頼子

……ちゃんと調べなきゃね

しばらく悩んでいたが
このままこの部屋にいても何の解決にもならないのは分かっている。

頼子は意を決して、
廊下へと足を踏み出すことにした。

佐上頼子

行こう!

再びドアを出て廊下へと踏み出す。
静まり返った廊下はさっきと変わらなかったが、
さっき感じた不安な印象よりは
まだマシに思える。

佐上頼子

……だれか、いませんか?

廊下の真ん中まで歩いてきた頃、
思い切って少し大きな声でそう声をかけてみた。

佐上頼子

……だれもいないのかな……

廊下を見渡してみると、
頼子が閉じ込められていた部屋を含めて
5つの扉があるようだった。
そのどれが出口に続いているのかは分からない。

ひとつひとつ、なるべく音を立てないように
ドアノブをガチャリとまわしてみる。
……が、思ったとおりどの扉も開くことはなかった。

佐上頼子

…………!

ここから出られない。

結局、これが自分の置かれた状況なのだと
再確認するだけの作業になってしまった。
食べ物もない、トイレもない……ここに閉じ込められたまま、どうすることもできない。

そんな状況で元気良く前向きに
脱出方法を探せるほど頼子は大人ではなかった。

佐上頼子

何なのよ、ここは!!

廊下の真ん中で、思わず大声で叫ぶ。

それをきっかけに、
頼子の口から、堰を切ったように
つぎつぎといろんな言葉が飛び出した。

佐上頼子

だれなのよ!!!
こんなところに閉じ込めたヤツは
いったい何がしたいのよ……!

その途端……頼子の叫びにこたえるかのように
どこからかドン、という音がした。

佐上頼子

!!

佐上頼子

誰か……いる!?

この音は気のせいじゃない。

頼子は廊下の真ん中で耳をそばだてた。




……奥の扉からだ!

佐上頼子

だれかそこにいるんですか!?

???

た…………て……!

だれか、いる……!

佐上頼子

出られないんですか!?
あなたも、閉じ込められてるの……!?

頼子もそう叫びながら、
必死にこちらからも扉を叩き返した。
防音になっているのか、声はほとんど聞こえない。

しかし、この奥に誰かがいる。

そして、その人も閉じ込められてるに違いない、
頼子はそう確信した。

佐上頼子

そこから出れるように助けるから!
絶対だから……!

そう扉の奥に向かって叫ぶと、
急に扉の反応が消えた。

佐上頼子

!?

向こうに何かが起きたのかと、
頼子も止まる。

すると、扉と床の隙間から何か白いものが
出てくるのに気がついた。

佐上頼子

メモだ……!

『たすけて!とじこめられてる』

それはノートの切れ端に殴り書きされたメモ用紙だった。

急いで部屋に戻り、
ベッドに投げっぱなしだったシャープペンを取ってくると
頼子はそのメモ用紙に返事を書き始めた。

『私も閉じ込められてたけどなんとか脱出しました。
あなたが部屋から出られるように助けます!
その部屋に何があるのか、教えて』

そう書いて、
急いで扉の隙間からその紙を奥へ差し入れる。

相手が誰かは分からないが、
コミュニケーションが取れることがこんなにも嬉しいなんて初めて感じたことだ。

佐上頼子

……人がいた……よかった

???

……っ……!

『ありがとう!
この部屋にあるのは
暗証番号付きの箱、机、バッグ、ベッド』

再び出てきたメモを見ると、頼子がいた部屋とは違うものがあるようだ。

『とにかく部屋の中をこまかく調べてみて』

助けると言ったはいいが、
扉と床はかろうじてメモ用紙が1枚入るくらいの隙間しか開いていない。

扉が開かない以上、
結局は何もかも向こう側にいる人が
何もかもやらなくてはいけない。
いま頼子に出来るのは、
ヒントを出してあげることくらいだった。

廊下に体育座りをしながら、
相手からの返事を待つ。

『調べた。でも見つかったのは
机の中にあった変なメモ用紙と
迷路ブックくらい』

再び隙間から出てきたメモを見て、
頼子は首をかしげた。

佐上頼子

変なメモ用紙……?
迷路ブック……?

しかしさっきまで閉じ込められていた部屋の鍵が見つかったのも、
クロスワードパズルがきっかけだった。

もしかして、頼子たちを閉じ込めた犯人は
ゲームを楽しんでいるのだろうか。

佐上頼子

もしかしたらそうなのかも……

『私の部屋のカギも
パズルを解いたら見つかったので
そのパズルをやってみてください』

またメモ用紙にそう書いて、
扉の向こうへ差し入れる。

暗証番号つきの箱、というのが
一番あやしいのだが、
もしかしたらそのヒントが迷路ブックに隠されているかもしれない。

佐上頼子

変なメモっていうのも
関係あるかもしれないけど

変なメモ、の一言だけでは判断がつかない。

『ムリです。
迷路ブックの中に迷路がいくつもあって
どれを解いていいかわからない』

佐上頼子

っ!

『じゃあ、変なメモっていうものに
ヒントになるようなものがないですか?』

そのメモを隙間に入れた後、
扉の向こうからの連絡はしばらく途絶えた。

おそらくメモのヒントに気づいたか、
迷路ブックと格闘しているのだろうと頼子は考えたが
いくら経っても返事のメモが隙間から出て来ない。

佐上頼子

どうしたんだろう

痺れを切らして
扉を叩いてみようと立ち上がった途端、
また隙間から白いメモ用紙が顔を出した。

佐上頼子

きた!

急いでメモを開いて確認する。

……しかし、
メモの内容は今までとはちがうものだった。

『見つけた!多分この迷路だと思うんだけど、
探してる間に
コンタクトを落としたみたい
全然見えないので、
代わりにこれを解いてもらえませんか?』

佐上頼子

わたしが……?

続けてメモ用紙よりも大きな紙が
扉の隙間から出てきた。

佐上頼子

……!

それは、想像していたものよりも
ずっと大きく複雑な迷路だった。

佐上頼子

どうしよう……

しかし、迷っている暇は無かった。

佐上頼子

よし、やろう!

第2話「もうひとり、いる」

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