僕たちの目の前に現れたのは、
レビー村の村長に化けていた魔族。

こいつが全ての元凶だったのかっ!
 

デリン

その能力だけは厄介だな。
今のうちに殺しておく方が
得策かもしれん。
もう少し遊ぶつもり
だったんだがな。

シーラ

モンスターをここに連れ込んだのは
あなたですねっ?

デリン

あぁ、その通りさ。

シーラ

どうやって?
ここには
結界が張ってあったはずなのにっ!

デリン

あぁ、それね。
邪魔だから破らせてもらったよ。

シーラ

なっ!? 破ったっ?
あ、あなたは何者ですっ?

デリン

おっと、
そういえば自己紹介を
していなかったね。
私はデリン。
魔王様にお仕えする
四天王の1人さ。

アレス

ま、魔王の四天王っ!?

 
コイツ、そんな大物だったなんてっ!

でもそれなら大量のアンデッドを操る
強大な魔法力や
この落ち着き具合も納得できる。


マズイよ、これ。
ミューリエやタックがいたとしても
勝てるかどうか……。


今の僕の力じゃ通用するかどうか怪しいし、
シーラは魔法力を消費してしまっている。

隣にいるモンスターが守ってくれるとしても、
相手が魔王の四天王じゃ勝ち目なんてない。
 

デリン

はははっ!
そんなに怖がるな。
苦しまないよう、
一瞬で殺してやる。
優しいだろう?

アレス

くっ!

デリン

でもまずは裏切り者の始末だな。
――死ね。

 
 
 

 
 
 

アレス

っ!?

ぐぁああああんっ!

 
次の瞬間、デリンの指先が輝いたと思うと、
そこから発せられた光線が
モンスターの額を打ち抜いていた。

それっきり彼は倒れ込んだまま
動かなくなってしまう。
 

アレス

キ、キミっ!

 
声をかけてみたものの、
傍目にも、
すでに手遅れなのがハッキリと分かる。


――くっ!

せっかく友達になったのにっ!
それに彼がいったい何をしたっていうんだっ?
 

アレス

な、なんてことをっ!
どうしてお前はいつも
そんなに軽々しく命を奪うんだっ?

デリン

はははっ!
獣1匹を始末したくらいで
そんなに怒るな。
それにすぐあの世で会えるではないか。

デリン

次はそっちの娘だ。

シーラ

なっ!?

アレス

いけないっ!

 
デリンの指がシーラに向くのとほぼ同時に、
僕の身体は無意識のうちに動いていた。

彼女に飛びついて、
覆い被さるように突き飛ばす。

そして――
 
 
 

 
 
 

アレス

うぁあああああっ!
がっ、あぁああああっ!

 
左太ももを熱い何かが突き抜けた。

あまりの痛みに意識を失いそうになるが、
奥歯を噛みしめてなんとかそれを阻止する。


でも左足が感覚を失って、動かせないッ!
 

シーラ

アレス様っ!
アレス様ぁっ!!

デリン

おいおい、
もし心臓に当たってしまったら
どうするつもりだったのだ?
そんなに死に急ぐな。

シーラ

今すぐに回復魔法をっ!

デリン

おっと、
それは野暮というものだ。

 
デリンは電光石火のスピードで突進してきて、
その勢いそのままに
シーラの腹へ拳をめり込ませた。

近くにいた僕のところにまで
メキッという音が聞こえてくる。
 

シーラ

――っ!?

シーラ

ごはっ!

アレス

シーラぁああああぁっ!

 
シーラは目を見開きながら吐血し、
うつ伏せに倒れ込んだ。

手足はピクピクと痙攣している。
 

デリン

ふむ、少し力を入れすぎたか。
まぁ、まだ生きているようだから
良しとするか……。

デリン

ククク……。

アレス

っ?
な……にを……
するつもりだ……?

 
僕に向かって薄笑いを浮かべたデリンは、
シーラのクビを右手で乱暴に掴んで
軽々と持ち上げた。

彼女はぐったりとしていて、
抵抗できるような状態じゃない。
 

シーラ

……こ……ぁ……

デリン

キミの目の前で
彼女のクビを
握りつぶしてやろうと思ってね。
素晴らしい思いつきだろう?

アレス

なっ!

アレス

や……やめろ……
もう……やめてくれ……。

デリン

あっははははははっ!
いいねぇっ!
その絶望に満ちた表情っ!
最高だっ!

アレス

僕の命をやるっ!
だから……
だからシーラは助けてくれ……。
お願いだ……。

デリン

ならばもっと泣きわめいて
懇願しろっ!
ほら、
早くしないと
腕に力を入れてしまうぞ?

シーラ

か……ぁ……っ……

アレス

やめろぉっ!
やめてくれぇっ!
うわぁあああああぁんっ!

デリン

はははははっ!
そうそう、それだよっ!
美味なる絶望だ!

デリン

さて、充分に勇者様の絶望を
堪能したことだし、
この娘の息の根を止めてやるか。

アレス

な……っ!?

アレス

約束が違うぞっ!

デリン

はぁっ?
私はキミと
何かの約束をした覚えなど
ないのだが?

アレス

ひ、卑怯者……っ!!

デリン

心配するな。
すぐに後を追わせ――

 
――ザンッ!

 
その時だった。

煌めいた一閃が
シーラを掴んでいたデリンの手首と腕を分かつ。
 

デリン

ぐぁあああああぁっ!

 
デリンは左手で傷口を押さえながら悶えている。

一方、シーラは地面に倒れ込みそうになるが、
既の所で誰かが駆けていってそれを支える。


僕が視線を向けると、
シーラを抱きとめていたのは――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

タック

よっと!

アレス

タックっ!?


――なんとタックだった。
僕に向かって親指を立て、
にこやかに微笑んでいる。



そして剣を構え、
デリンに対峙していたのは……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ミューリエ

――外道がっ!
よくもアレスを
傷付けてくれたなっ!
絶対に許さんっ!

アレス

ミューリエ……っ!

 
その姿を見た瞬間、
僕は嬉しくて涙が止まらなかった。

心の中は希望の光で一杯になる。
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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