カップからアッサムの最後の一滴が私の唇を転がり口腔に吸われていく様を、遠隔投影魔術によって、エルミール先生と未だに魔素を練っている愚図な学友達に見せつけてやった。私は余裕の笑みを浮かべ、エルミール先生の反応を待つ。
瞬きをした。それは一瞬の油断だった。たったそれだけの拍子に、誰もいなかったはずの向かいの席で腕にあごを乗せて微笑んでいるエルミール先生と目が合った。映像ではなく物質を転移させる魔術なんて、想像だにしていなかったから、羞恥を圧し殺して言えば、突然のことで驚いた私は、ちょっぴり、下着を濡らした。平静を装っていた仮面が、多少赤味を帯びたのを、先生は見逃さなかっただろうに。

流石キアラの妹ね。優雅なティータイムを過ごす、一輪の可憐な雛罌粟にしか見えなかったわ。合格よ

とんだ皮肉を仰るから、私はちょっと先生が嫌いになった。フランスの国旗の赤は、雛罌粟の赤だ。

メルシー、エルミール先生

このときはまだ、この試験がエルミール先生の親切なお茶目だと、疑いもしなかったんだけれど。


 まだ、私は、コルセットを絞める気はない。

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