魔素が満ちた。肌の表面が不規則にピリピリと疼く。一番に魔素が身体に満ちるのは、この教室では決まっていつも私。けれど姉様には到底敵わない。一瞬で魔素を全身に満たせるなんて、姉様はきっと地獄で生まれたんだって、実は思っている。ずるい。ずるい。ずるい。

早いわね、コリーヌ。貴女はそのままテラスまで行って、紅茶を飲んでいらっしゃい。ポットの湯を全て飲み切るまで、カップもポットも壊せないでいられたら、貴女は今年度、この授業を出席不要とします。出来るかしら

ああ、なんて言うこと。朝にエリナの紅茶を飲むべきじゃなかった。おのれ、朝の私。エリナの今日のブレンド、香りが好みだったから、ポット二杯も飲んじゃった。お腹がはち切れそう。今日に限って張り切って紅茶を淹れたエリナをも恨む。

あら、ということは、あと八ヶ月もの間、この授業ではお会い出来なくなるのですね、エルミール先生。寂しいわ

私の減らず口は、今日もよく回る。

魔素が身体を満たしているときは、全身の神経が研ぎ澄まされる。身体は軽くなるし、思考能力も運動能力も上がるから、軽い全能感を覚える。周りの子は、なんだか制御が難しいとかで悩んでいるみたいだけれど、私には造作もない。実際、今の私なら、魔術師も雇えない弱小男爵領くらい、きっと単騎で制圧出来るんだろうな。ただ、肌の表面は絶えず痛いし、長時間継続すれば、あとで頭痛がしてくる。痛いっていうことは、きっとお肌が荒れる原因にもなるわ。そう思うと恐ろしいから、常に魔素を練って体内を満たし続けることは出来ないけれど、それでも私は魔素を身体に受け容れるのが好き。
魔術は、このままいくと、私のレゾンデートルの一部になりえる。

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