そんな私も年頃の乙女なので、恋だってしていないわけじゃない。秘かに想いを寄せている相手は、叔父のマテオ。神様も社会も近親の情愛を禁じているけれど、それを口に出さない限り、そして教会に行って懺悔をしている限り、私は許される。もし想いを告げる機会が訪れてしまったら、マテオと二人で逃避行するわ。シチリアの別荘にまで行けば、周りは私たちのことを知らないし、きっと気儘に過ごしていける。あ、もちろんだけれど、マテオが私を拒絶することなんか、ありえない。
あら、そろそろ学校に行く時間。

お支度をしなくちゃ


リベラルアーツなんて、誰が考えたのかしら。習った気もするけれど、忘れちゃった。担任のエルミール先生は厳しいけれど、美人だから好き。私もエルミール先生みたいに、美人で厳しい、薔薇のような女になりたい。そうなったら、マテオも私を女として見てくれるかしら。そうそう、リベラルアーツ。五年前に教皇猊下が魔術をお認め下さったから、地方都市ペルピニャンの、ここサン=ジャン=バティスト女学校のような、ちょっと古くて格好悪い学校にも、リベラルアーツの八科目目として、魔術が導入されている。

1、2、3

教室の皆が、思い思いの声量で、小気味良く魔素を練っている。
つい数年前まで魔術は神に抗う地獄の力だったから、まさかその術を学ぶことがあるだなんて幼い頃の私は思いもしなかった。それにしても教皇猊下は気紛れなお人だ。かつては大々的に魔女狩りを扇動していたその口で、今ではことあるごとに魔術を広めるための演説をしている。それが戦争利権で懐を潤わせるためだなんて、本当は皆知っているのに、文句を言う人はほとんどいない。昨夜、父様にそう申し上げたら、お叱りを受けた。子どもが意見するようなことじゃないんですって。早く大人になりたいけれど、今の大人は自分に都合の良いことばかり言うから嫌。私は考えなしの大人にはならないから、私と関わる私の次世代達は、きっと幸福だわ。

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