強く抱かれているようで、コルセットを絞めるのは嫌いじゃないわ

姉様は笑顔で仰るけれど、私にはその眉根が微かに顰められていると分かっていた。

きっと、姉様は気付いていないんだわ

何を、という問いは背中で受け止めて、私は寝室を出ていく。
そのときの私は、痛みを孕む愛を知らなかったから。

歌いながら舞う鳥が、二羽。番となって木々の隙間を飛び交う。
それはあまりにも無垢な愛を示していて、まるで昔聞いた物語の一場面のようで、あぁ、そんなことを思うだなんて、私はまだ大人になり切れないのね、と侘しい思いをした。

コルセットもつけられないんだもの

当然だわ。
紅茶が飲みたくなったから、庭にエリナを呼んだ。

コリーヌお嬢様、今日のお紅茶は、ばあや特製ブレンドですの。どの茶葉を混ぜたか、お分かりになりまして

私はエリナが嫌いだ。子どもに興味を示さない実母の代わりに、私が幼い頃から母役をしているエリナは、お砂糖を十個も入れたキーマンのように、甘ったるい愛情を注いでくる。一人称は『ばあや』で、なんだか私を子ども扱いしている感じがするし、猫なで声が耳に障り、頭痛がする。

アッサムをベースに、少量のルフナとオータムナルを入れたのね

それでもエリナに紅茶を淹れさせるのは、そう。

今日も最高の香りよ、エリナ。いつもありがとう

それが私の習慣だから。

Coeur 第一幕 序

facebook twitter
pagetop