一歩一歩と歩を進めても
足音ひとつ響かない。
ただ薄もやのような
白いかたまりが
足の輪郭にそって
形を変えているのがわかる。
一歩一歩と歩を進めても
足音ひとつ響かない。
ただ薄もやのような
白いかたまりが
足の輪郭にそって
形を変えているのがわかる。
……僕達はどこへ行くの?
ナヴィは、
少し考え込むような
素振りを見せてから
こう言った。
いいや、どこへも
ナヴィは
ゆっくり、ゆっくりと
移動しながら言葉を続ける。
どこへも行けやしないのさ。
だからこうしてここにいる
僕はその言葉を
つまらない言葉あそびの類だと
思ったけれど、
どうやらナヴィは
大真面目らしい。
だけどね、『巡り会う』ことはできるよ
ナヴィはそう言って、
はるか前方を指さした。
ほら、見えてきた
その先にあったのは、
小さくうずくまったひとつの影。
君の『オトモダチ』さ
ゆたかな赤い髪を
もったそのひとは、
どうやら泣いているようだった。
うっ……うっ……
どうしたの? 気分でも悪い?
僕は
控えめにそう声をかけた。
彼女は
泣き腫らした目で
僕を見上げると、再び
ぽろぽろぽろぽろ涙をこぼす。
ううん、そういうわけじゃないの
ひっくひっくと
しゃくりあげながら、
彼女は涙まじりに訴える。
だって何だか一人ぼっちで寂しいし、
それに悲しいの。
泣きたい、泣かなきゃいけないって思うの。どうしてかしら?
あー、悲しい!
彼女はそう言ったきり、
ついにおいおいと
大きな声をあげ始めた。
僕はすっかり困ってしまって
隣にいるナヴィを見る。
彼女は『コード4G06』。
97分前まで女剣闘士、だった
だった、というナヴィの言葉で
僕は全てを悟った。
――そうか。
彼女は僕と
『同じ』なんだ。
『剣闘士とは、
強くたくましくなくてはならない』。
主はそう判断して、デバッグを行った。
ここにいるのは
『剣闘士らしからぬ剣闘士のかたまり』さ。
弱いこころ。
悲しいこころ。
それを一手にひきうけて、生まれてきたのが彼女ってわけ
ナヴィの言葉に
僕はとても悲しくなった。
彼女は何にも悪くないのに
主の勝手で
『嘆き』や『弱さ』を
押し付けられてしまったのだ。
そして僕と同じように、
これから消えゆく運命にある。
――そんなの、
ひどすぎやしないか。
……君はもう、一人じゃないよ
僕はそう言って、
彼女に手を差し伸べた。
一人じゃないし、悲しくないから、
もう泣かなくてもいいんだ。
ねぇ、よーく考えてみて。
君は本当に、心から、自分の意志で
『泣きたい』と思う?
僕の問いかけに、
彼女はうーんと考え込んだ。
……そう言われてみれば、そうね。
あれっ?
どうして私、今までこんなに泣いていたんだっけ?
いつの間にか、
彼女の涙は止まっていた。
僕は唇の両端を
吊り上げて笑うと、
促すように小首を傾げる。
彼女は笑って、僕の手をとった。
……彼女を、連れて行ってもいいかい?
僕の問いかけに、
ナヴィはこくりと頷いた。
いいとも。
旅は道連れ世は情け、ってね。
僕にはその言葉の意味が
わからなかったけれど、
なんとなくそれは
すごく素敵なもののような
気がした。
じゃあ、行こうか
僕の言葉に、
彼女も微笑みながら頷く。
ええ。行きましょう
――こうして僕には、
初めての
『オトモダチ』ができた。