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  果ての無い谷底に

  どんどんどんどん

  落ちているような。



  うっかり足を踏み入れた

  眠りの淵から

  やっとのことで抜け出るような。



  そんな不思議な浮遊感で

  目が覚めた。





  一面に広がる、混濁。混濁。

  また混濁。


  僕は両眼をしばたかせて

  辺りを見回す。

æ–‡å—化ã ' ?


  目の前に現れた『それ』は、

  白かった。



  逆に言うと僕はそれを、

  『白い』という言葉でしか

  形容することができない。



  つるんとしたフォルム。

  鋭くとがった先端部。

  辛うじて見て取れる、

  手と足のようなもの。



  さらに驚くべきなのは、

  『それ』が自らの力で

  何らかの音声を

  発したということだ。



  しかし言葉の内容までは、

  ノイズが酷くて

  うまく聞き取ることができない。

――失礼。
言語翻訳機能にエラーが発生していたようだ


  『それ』は、

  まるで優雅な紳士のように

  一礼の後、謝罪した。

ハロー、ご機嫌いかが。コード3E02。
見たところによると、
伝達回路に異常はないようだ


  ご機嫌も何も

  あったもんじゃない。



  何せ僕は

  たった今ここで目を覚まして、

  それより前のことは

  何一つとして

  覚えていないんだから。

あぁ、どうやら
自己認識がうまくいってないようだね。

――手伝ってあげるよ。
ほぅら、いち、にぃ……。









……こ、


  僕の喉から、言葉が生まれた。

  音? 声?

  それとも意味を成さない文字列?



  そんなことどうでもいい。

  そんなことはどうでもよかった。

――ここ、は……?


  僕の問いかけに、

  そいつは答える。

行く宛てのなくなった者の終着地点……。

いや、君にはCドライブの『ごみ箱』の中と言った方が通りがいいかな


  わけのわからない羅列の中で、

  『ごみ箱』という単語だけが

  やけにクリアに聞こえてきた。


  『ごみ』

  『ゴミ』

  『廃棄物』

  『不要品』


  どんなに言い換えても

  その意味は一つしかない。


  ああ、僕は『要らない』のだ。

今の君は消去待ち状態。

主がたったのワンクリック、『ゴミ箱を空にする』を選択すれば、すぐに掃除屋<スイーパー>がここにやってくる。

君はめでたくC言語の拘束から解き放たれるというわけさ

………?


  どうも『彼』とは、

  会話が噛みあって

  いないような気がする。


  僕は彼の口にした

  暗号のような文字列を

  解読することを諦め、

  新たな疑問を口にした。

――じゃあ、僕は、『何』?


  そう尋ねると、

  『彼』は一丁前に

  悩むような素振りをしてから、

  こう答えた。

それはとても難しい質問だ……。

君に与えられた識別番号は、
『コード3E02』。

68日後にリリースされる予定のRPGゲーム、『リターナークエストⅡ』の主人公、だった

――『だった』……?


  『彼』の言葉に

  不吉な予感を覚える。


  案の定『彼』は、

  少し言いづらそうに

  言葉を選んでいるようだった。

93分前に行われたデバッグ作業により、君は生まれた。

君は『勇者』のなりそこない。
『勇者にふさわしくない』と定義され、破棄されたデータの塊ということになる

…………


  どれもこれもが、

  にわかには信じがたい話だった。



  僕はデータの塊で、

  (いわば1と0との集合体で)

  しかもその中でも、

  不要と定義されたもので、

  (『消去待ち』と

  『彼』は言った)



  ――つまるところ

  僕を待ち受けているのは

  『死』

  ということになるのだろうか。

…………


  浮かない顔の僕を

  勇気づけようとでも

  するかのように、

  『彼』はこくりと頷いて見せた。

僕は案内人<ナビゲーター>という名前で定義されている。

嫌でなかったら『ナヴィ』と呼んでくれ。
僕はその呼称が気に入っているんだ


  ナヴィはそう言うと

  くるりと踵を返した。



  振り返りざま僕に向かって、

  (恐らくは)

  手(であろうもの)を

  さしのべる。

僕はこれから<ナビゲーター>の名に恥じないよう、君を『案内』しなくてはならない。

さぁ、立つんだ


  気のせいかもしれないけれど、

  僕の目には、彼が

  『笑って』いるように見えた。

教えてあげる。
君が決して1人ではないってことをね


  僕は、悩みながらも

  彼の手をとる。



  柔らかいような、

  固いような、

  湿っているような、

  ひどく乾燥しているような、


  そんな彼の手は、

  本当に僅かながら

  でも確かに温かくて、

  それだけで僕はほんの少し、

  ほんの少しだけ

  安堵することができたのだった。







#1  ナイス・トゥ・ミート・ユー

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