突然現れたモンスターを僕は目で牽制しつつ、
シーラには物理攻撃に対する防御魔法を
かけてもらう。
さすがにまともに攻撃を食らったら、
ひとたまりもなさそうだし。
突然現れたモンスターを僕は目で牽制しつつ、
シーラには物理攻撃に対する防御魔法を
かけてもらう。
さすがにまともに攻撃を食らったら、
ひとたまりもなさそうだし。
では、防御魔法をかけますっ!
うん、お願いっ!
…………。
シーラは空中に指で印を描き、何かを呟いた。
すると僕の身体に温かな光が降り注ぎ、
全身に力が漲ってくる。
アレス様、防御魔法をかけました。
どうかご武運を。
うんっ!
僕は剣を鞘に収め、
一歩前に出てモンスターと対峙した。
まずはいつものように深呼吸。
それから穏やかな気持ちで彼を見つめる。
グォオオオォン!
僕はキミと戦うつもりはないんだ。
そんなに警戒しないで。
落ち着いてよ。
お願いだよ、戦うのをやめて。
友達になろう。
ほら、
僕に敵意がないのは分かるでしょ?
ぐるるるる……。
彼は全身の毛を逆立てたまま、
じわじわと歩み寄ってくる。
それに対して僕は満面に笑みを浮かべ、
無防備に腕を広げて身体を晒す。
アレス様っ! 危険ですっ!
シーラ、大丈夫だよ。
顔を曇らせているシーラに、
僕は微笑みかけながら
手振りでその場から動かないように諭す。
彼女は不安げな瞳で何か言いたそうな
感じだったけど、
僕に考えがあるのだと感じ取って
すぐにそのまま素直に従ってくれた。
これでモンスターと心を通わせることに
集中できる。
おいで……。
不思議と恐怖はあまりない。
直感的に確実な手応えみたいなものを
感じ取っているからだろうか?
それに彼はきっと戸惑いと怯えで
他者を攻撃しようとしているだけなんだと
思うし。
今の僕にはなぜかそれが分かる。
ガァッ!
うぐぁああああああっ!
アレス様ぁっ!!
右腕に激痛が走った。
焼けるような痛みと、腕を締め付ける圧力。
さらに熱く湿り気のある呼吸を
肌に感じるとともに、
血が皮膚の上を伝う感触。
鼻には獣の臭いが猛烈に広がる。
彼は急に僕に突進してきて、
咄嗟に身体を庇った僕の右腕全体に
噛みついたのだ。
それでも僕は必死に意識を保ち、
彼の頭を空いている左手で撫でる。
……ほ、ほら……
何も怖くないだろ?
うくっ!
はぁっはぁっ……僕……
何もしな……いよ……
えへへ……。
……っ……
直後、彼は動きが止まり、
程なく僕の腕に噛みつくのをやめた。
そしてペロペロと傷口を舐め始める。
あり……がと……心配し……
てく……れるんだね……。
やっぱ……やさしいな……
キミ……。
僕が震える左手でさらに撫でてやると、
彼はゴロゴロと喉を鳴らし、
顔をなすりつけてくる。
よかった……完全に懐いてく――
あ……。
僕は全身から力が抜け、
踏ん張ることもできずに
うつ伏せに倒れ込んでしまった。
あぁ……目の前が……暗くなっていく……。
ちょっと……ヤバイ……かも……。
アレス様っ!
シーラが慌てて駆け寄ってきて、
僕の頭の横で両膝をついて何かを呟いていた。
すると温かな光が彼女の腕に宿り、
それが僕の全身を包み込んでいく。
あぁ……気持ちいい……。
痛みがどんどん消えていって、
体力も戻ってくる。
どうやら回復魔法をかけてくれているみたいだ。
気がついた時には、
腕の傷がきれいに消えていた。
意識もハッキリしているし、活力も漲っている。
僕は地面に手をつきつつ、
おもむろに身体を起こす。
するとシーラは間髪をいれず、
抱きついてきたのだった。
その手には強く力が入り、
体は小刻みに震えている。
アレス様っ、
あまり無茶はしないでくださいっ!
私、私ッ!
心臓が止まりそうに……
ひくっ……う……。
ゴメンね……。
でもシーラのおかげで助かったよ。
バカッ!
命が危ない状況だったんですよっ?
治癒魔法(リカバリィ)じゃ
対応できそうになかったから、
復活魔法(リザレクション)を
使いましたしっ!
もし私が復活魔法を使えなかったら
死んでたかもしれないんですから!
うあぁああああああぁーんっ!
シーラはそのまま号泣してしまった。
心配をかけ過ぎちゃったかなぁ。
僕はシーラを優しく抱きしめ返し、
慰めるように頭を撫でる。
心配をかけて……ゴメン……
ひくっ……ひっく……
そうか、僕の戦い方は怪我を負うリスクが高いのが
デメリットなんだ。
シーラが事前に
防御魔法をかけていてくれなかったら、
一撃を食らった時点で腕がもげただろうし、
あるいは肩の辺りからえぐれて、
死んでただろうなぁ。
これからもこの方法を続けていくには、
日頃から体力や防御力を上げる鍛錬を
しておかなければならないかもしれない……。
ホントにゴメンね……。
これからは
なるべく無茶をしないようにするから。
当たり前ですぅ!
おかげで私、
ほぼ全魔法力を
使っちゃったんですからぁ!
……でも……助かって……
本当に良かった……。
くすん……良かった……
すんっ……。
ありがとう。
おかげで助かったし、
危機も脱したよ。
彼ももう僕の友達だし。
モンスターは僕のそばに伏せて、
大人しくしている。
彼が一緒にいれば、
別のモンスターが出たとしても
守ってくれるだろう。
――今や心強い友達だ!
一度、小屋へ戻ろう。
ウェンディさんに事情を
話しておいた方が
いいかもしれない。
そうですね……。
モンスターが出た理由も
分からないことですし。
キミも僕たちと一緒においで。
ぐぉおおん♪
声をかけると、
モンスターは立ち上がって僕の隣に付いた。
でも僕たちが歩き出してすぐ、
彼は前に出て足を止め、
前方に向かって唸り出す。
どうしたの、キミ?
そう僕がモンスターに問いかけた時だった。
これは驚いた。
『人食い』の異名を持つ
マンティコアが
こうも簡単に人間に懐くとはな。
私の魔力を持ってしても
従わせるのに苦労したというのに。
誰かがそう話しながら近付いてくる。
暗い通路の先にいるようで、まだ姿は見えない。
ただ、
この声はどこかで聞いたことがあるような……。
――っ!
ま、まさかこの声って!
否が応でも緊張感が高まっていく!
っ!?
お、お前はっ!
しかもマンティコアに対する
私の支配力を退けた上で、
従わせてしまうとは……。
どうやったのかは知らんが、
さすが勇者の血筋と
いったところか。
僕たちの目の前に現れたのは、
レビー村の村長に化けていた魔族だった。
――最悪の再会。不安が的中してしまった。
僕たちは手負いの状態で、
しかもミューリエとタックはいない。
このピンチ、
どう乗り越えればいいんだろう……。
次回へ続く!