私は、彼らを裏切った。私は自分を殺すために、ゲームマスターの味方となり、若干ながら自分に有利な役職を貰えることになった。
この時点で客を騙す、所謂ヤラセの部分が入るが、客はそれも承知の上だという。
余りにもひどいとアレらしいが。
私はあくまで盛り上げるのが仕事。
ヤラセありでも上等。存分に働くつもりだ。
どうやらこれから私達がやる人狼ゲームは特殊なモノらしい。
通常のものよりも役職が多く、しかも数はいっぺんに20人で行い、勝利条件も通常とは異なるという。
私は、彼らを裏切った。私は自分を殺すために、ゲームマスターの味方となり、若干ながら自分に有利な役職を貰えることになった。
この時点で客を騙す、所謂ヤラセの部分が入るが、客はそれも承知の上だという。
余りにもひどいとアレらしいが。
私はあくまで盛り上げるのが仕事。
ヤラセありでも上等。存分に働くつもりだ。
どうやらこれから私達がやる人狼ゲームは特殊なモノらしい。
通常のものよりも役職が多く、しかも数はいっぺんに20人で行い、勝利条件も通常とは異なるという。
まあ……どんなものであれ、ここが私の死地となるのは変わらない……最悪、全滅させてあげる
ゲームマスターに私が言われたこと。
生きる気がないことを悟られるな。
死ぬタイミングは自分で見計らい、それでもダメなら連絡を寄越せ。
殺すときは迷わず殺せ。
そしてなるべく盛り上げろ。
その方法はルールに反しない限り全てを許す。
それだけだ。後は好き勝手やれという。
……
私以外の面々は徐々に目を覚まし、周囲を見て困惑したように見回し、先に目を覚ましていた私に何事かを問う。
私は目を閉じて、腕を組みソファーに座って俯く。何も、言わない。
決して、私は口を開かない。
ここから先の仕事はあくまでゲームマスターの出番。
私がでしゃばるところじゃない。
俯きダンマリを続ける私に痺れを切らして、怒鳴りつけてくる男子も出てきた。
掴み掛ってくるのも時間の問題だろう。
私は頃合を見て、大きく息を吸い込んで、吐き出した。
――うっさい、全員黙れッ!!
私の全力の一喝で、室内の騒々しさは一変、静寂に包まれた。
私はしてやったりと内心で笑いつつ、顔を上げて眉を釣り上げ怒鳴る。
ぎゃあぎゃあギャーギャー、さっきから喧しいッ!!
こっちが必死に考え巡らせてるとこ邪魔してくれてさぁッ!!
騒ぐしか能がないの!?
ちったあ落ち着いて状況ぐらい自分で確かめろッ!
私だって知るわけねえでしょうが!!
私だって同じ状態だっての!!
何で先に意識回復しただけで全部知ってるみたいに私に問い詰めてくるわけ!?
ふっざけんじゃないわよッ!!
私がここがどこか知りたいくらいよッ!
正論をぶちまけ黙らせる。
私は先に目覚めていても精々数分ということにして、思考停止してるけど必死に考えているアピールをしておけば逆ギレしても問題はあるまい。
どうせもう、ゲームは始まっており、この様子は観客にモニタリングされている。
そのうちゲームマスターが現れて、説明を開始するはずだ。
私と同じで冷静な奴は室内を探索をはじめて、閉じ込められている事を確認している。
私に食いかかってきたのは、自分じゃ何もしないバカが殆どだ。
昂った感情に冷水をぶっかけられた彼らは怒る私の剣幕に押されて、押し黙る。
止めに舌打ちして、険悪なムードを出しておけば完璧だろう。
うっせーのよボケ共が……
自分らで調べること調べてから文句言え
わりと言いたい放題言うと、私を睨みつけてくる男子も女子もいた。
私は怯まず真っ向から睨み返す。
ピリピリした空気が私たちの間を包む。
その時だった。
やめろよ、こんなところで争うのは!
俺たちは立場が同じなんだ!
不安なのも、怖いのも、みんな一緒なのにどうして一人だけ責めるような真似をする!
予想通り、空気に耐えかね仲裁してくる奴が出てきた。
青い服の男子だ。
私たちの間に割ってはいり、双方を宥める。
そこの青い彼に同感ね
この状況……あたし達はかなり面倒なことに巻き込まれたと見ていいわ
そこに賛同する、長い黒髪の涼し気な表情の少女。
そ、そんなぁ……
うえぇ……
めんどくさ、帰りたいなぁ……
こうして状況に絶望しだす奴もいれば、
テメェが言うほど、絶望的でもなさそうだがな?
これだけの人数……揃えば中々のこともできそうだぜ?
なぁ、そこの紅い姉ちゃん
そうだよ!
みんなで頑張れば、きっとなんとかなるよ!
……甘っちょろいことを言っている奴もいる。
そんなんでなんとかなる訳がない。
ここにいるのは私含め、日常を謳歌してきたただの子供なのだ。
そうでしょうか?
……楽観視していて、足元をすくわれるのは僕は願い下げですがね……
何か、みるからに根暗そうな男子がぶつぶつとそんなことも言っている。
三者三様の光景だった。
周りの意思統一を目指す者、悲観的になって相手や現状を否定する者、楽観的になってバカを抜かす者、冷静に状況を分析している者。
私はそこのメガネの彼に賛成
……楽観視していて殺される可能性だって十二分にあるわよ
どう見ても、この状況……異常だからね
ほう、女子と気が合うなんて珍しい……
ちょっと、表情が怖いよ
なにニタニタしてんの
今はそんな時じゃないでしょ
ああ、いけないいけない……
ご忠告ありがとう、白い人
ニタニタキモい笑みを浮かべている変態チックなメガネは、まだそう言いながら私を見て笑っている。何というか、イヤらしい笑みだ。
完全に目がイってる。
根暗とか被害妄想逞しい奴にありがちな、澱んだ瞳。
病院にたまにいたわね、ああいう目の奴……
下手に追い詰めるとヒス起こして暴れだすようなタイプの目
通院中に何度か見たことのある、ああいう目をした大人や子供。
連中は決まって、不利になると形振り構わず暴れ出して、キレる。
まるで理性を失ったケダモノのように。
なんとかなるよっ!
ううん、なんとかするの!
みんなで!
そうだな、俺達全員でそこをドアをぶつかれば、施錠されてても何とかなるかもしれねえ
ちょっと、男子は力を貸してくれ!
この二人は能天気。
人の善意を信じすぎて死ぬタイプ。
あと周りの意見を聞かないで独走する。
そして周囲を巻き込んで爆発する面倒な人種と見た。
部屋の中は窓には鉄格子、ドアにはゲームマスターによると、とんでもなく重たくて頑丈な鍵、そして私達の手首についているブレスレットがある。
これには、何でも超高性能爆薬が仕込まれており、意にそぐわない奴がいた場合ゲームマスターのボタン一つで爆発して、人体など軽く吹き飛ばせる火力があるらしい。
ここで止めないと、ゲーム始まって早々全滅しかねない。
ここは止めるべきだろう。
迂闊な行動は周りを死なせるよ
馬鹿なこと言ってないで大人しくしてて
そもそも、何もわかってないこの状況で何仕出かす気?
脱走とかしたら犯人に殺されるかもしれないのに
白い人の言うとおり、全くです
あなたがたは僕たちまで危険に晒すおつもりですか?
それで死んだ人間の責任をどうやってとるんですか?
その通りよ
勝手な行動は慎みなさい
今此処で死人を出したいの?
あの黒髪少女も味方して、理屈で動く人間の意見は統一された。
ほか数名も私達に賛同する。
待てよ!
ならテメェらはこの状況でただ待つっていうのか!?
待っていれば、おとなしくしていればそれでみんな助かるの!?
待ってるだけで! そんなことない!
自分で動かない限り、現状は変わらないよ!
で、あの二人含めて数名は感情論者。
感情の赴くままに、衝動的に動く人間。
私とは真逆の存在。
みんながやらないなら、わたしがやるっ!
俺も紅い姉ちゃんに協力するぜ
ダメだ、こいつらは言って言うことを聞くタイプじゃない。
……仕方ない。ちょっと殴ろう。
明確なルールはまだ説明されていないから、ゲームマスターも大目に見てくれるだろう。
私とあいつは共犯者だ。
片方がちょっと羽目をハズしても、盛り上がりさえすれば目を瞑ってくれる。多分。
チッ……
私は立ち上がると、ドアノブをガチャガチャいじっている紅い制服の女の背後に移動する。
ちょっとあなた……何を
人の話と周りの意見を聞けッ!
私は黒髪少女の声を無視して、まだやっている彼女のケツを思いっきり蹴飛ばした。
にゃっ!?
猫科の珍獣よろしくな声を出して素っコケる女。
オイッ!
案の定、味方していた連中が私に剥き出しの敵意を向ける。
あぁっ!?
話聞かないで勝手してるそっちがいけないんでしょ!?
私とやろうっての!?
上等じゃない、かかってきなさいよ!
観客は分裂する私たちを見たいはずだ。
そっちの方が確実に面白いから。
だから私はあえて危険なことも言う。
襲われたら確実に負ける、そして死ぬ。
私に詰め寄ろうとして、成り行きを見ていた中立も動く。
だから!
揃いも揃って何で喧嘩しかしないんだよ!
いい加減にしろよどっちも!
どうしても喧嘩するなら俺が相手してやる、と妙に様になった構えをする青い彼。
……やばい。アレは、素人でも見てれば分かる。
何かの格闘術を学んでいる経験者の構えだ。
チンピラの喧嘩とは明らかに違う、有段者のような……。
……チッ……
この偽善者が……
忌々しく吐き捨てて、私は引っ込んだ。
まあこれだけやれば上等だろう。
内部分裂は確実に起きた。
均衡を壊して私が起こした。
ナイスですよ、白い人……
正直目障りだったのでスッキリしました……
あ、そう……
奴らがうざいのは同じだよ
メガネがねちっこい声で小さく笑う。
……キモい……。
そんな騒動あった頃。
私達の腕から、あの声が聞こえ出す。
ハロハロー!
こんにちはみなすゎーん!
ご機嫌如何ですかァ!?
あの神経を逆なでする口調。ゲームマスターのおでましだ。
私は次の舞台を明け渡す。これで、第一のお仕事完了。
あとは、適当に始まるのだ。
この、死をまき散らすゲームが。