リア充が爆発することを
勇者は望んだ

第4話「勇者と共に」(後編)



















勇者コード

あっはっはっは!
やってやったぞ!


 城から離れ、城下町を抜けたところで、俺は歓声を上げた。

リリー

作戦、完璧でしたね。
怖ろしいほどに、問題が起きませんでした

勇者コード

そうだな、リリーがナンパされていた以外は全部想定通りだった

リリー

ナンパじゃないですってば……


 追跡者はリリーのみ。あのケインが、来賓の安否確認を最優先にしないわけがない。
 ましてや追っているのはあの元リリー騎士団の団長だ。リリーを信用しているのなら、応援をよこしたりしないだろう。




勇者コード

リリー、本当にありがとう。

あとは……申し訳ないが、城に戻って犯人を逃したと報告してきてくれ

リリー

その間に、コードはこの町から逃げる。
それが作戦でしたね

勇者コード

ああ……まぁ、な


 おそらく、町から逃げただけではダメだろう。
 きっと俺は……。


リリー

それならば、私はその前にお話ししなければなりませんね。そういう約束でしたから

勇者コード

……ああ、そうだな。

てっきりリリーは、俺の作戦を止めたかったんだと思ったが、違ったわけだよな。
いったい話ってなんなんだ?






リリー

はい。まず確認したいのですが、コードはこのあと、町を出るのではなく……

この国から出るつもりですよね?




勇者コード

……!! なっ……

リリー

やっぱりです。どうしてですか?
作戦は上手くいったと思うのですが



 しまった、つい顔に出てしまったか。
 作戦が成功して油断していた。

 ……仕方が無いな。



勇者コード

俺の勘が正しければ、そこまで逃げなきゃいけないはずなんだ

リリー

……? わかりません……

勇者コード

城に戻ればすぐにわかるさ。

……で? それが聞きたかったのか?

リリー

いいえ、違います。……コード


 リリーは意を決した顔で、俺をまっすぐ見つめる。





リリー

私もその逃亡に、連れて行ってください






勇者コード

なっ……なにを言ってるんだよ!
そ、そんなのダメに決まってるだろ!

教会はどうするんだよ?
孤児の世話を手伝っているんだろ?

リリー

実はシスターには、この作戦のために城に向かうとき、町を出ると話してあります。
だから気にすることはありません

勇者コード

な、なに……?
じゃあ、最初からそのつもりだったのか?

リリー

はい。コードは、もう私の仲間です。
仲間の行くところに、私はついていきます。
……そう、決めたんです



 仲間の行くところに……。



リリー

ミカのせいでしょうか。
私はもう、一人でいることに耐えられそうにありません。

ですから、もう仲間とは別れたくない。
コード、あなたと一緒にいたいのです

勇者コード

リリー……




 そうだ、俺だって……。


 ケイン、レイナ。
 二人の仲間と離れて、でもあの楽しかった日々が忘れられなかった。



 一人で旅をしていた頃には、もう戻れない。

 仲間と一緒にいることの楽しさを、知ってしまったから。


 いつまでも仲間と一緒にいたい。
 だけど、それはもう無理だから。

 一人に、戻らなきゃいけないから。



勇者コード

だからこそ……気持ちを吹っ切るためにも、俺はこんなことを




 でもどうやら……やっぱりもう、一人にはなれないようだ。


勇者コード

……わかったよ、リリー。
一緒に逃げよう

リリー

コード……!

勇者コード

どうやら俺たちは、本当に似た者同士みたいだからな



 ずっと一人だった。

 でも仲間を知った。

 そして、別れた。


 そんな二人が出会って、仲間になれば……もう、離れることはできない。


リリー

よかった……。
私、それでも断られたらどうしようかと

勇者コード

はは、どうするつもりだったんだよ




リリー

力ずくで、剣でねじ伏せて、ついていくつもりでした

勇者コード

…………



 なんだそれ、ちょっと怖いぞ。
 仲間にしてよかった……んだよな?



勇者コード

……じゃ、急ぐとするか。
これから大変だぞ?

リリー

はい。覚悟の上です



 俺たちはお互い見つめ合い、そして歩き出す。


 2人ならんで、一緒に。





















ケイン王子

……見付けたよ、コード。
そして、騎士リリー









リリー

えっ……ケイン王子?!

勇者コード

チッ……思ったより早かったな、ケイン





 振り向くと、今出たばかりの町の出口に、ケインが息を切らせて立っていた。



ケイン王子

ふぅ……。
どうにも騎士リリーが怪しく見えたんだ。

フードを被った犯人らしき人物を『男』だと言い切っていたからね




リリー

あ……ああっ。
ごめんなさい、コード!

勇者コード

いや、リリーのせいじゃない。

はぁ……ほんと、天然のくせに頭は回るんだよな



 そもそも純粋なリリーに、演技や駆け引きは期待していなかった。
 むしろ彼女はそういうのができなくていい。


 問題はケインだ。あの状況でそんな細かいところまで気付けるんだから、やっぱり頭はいいのだ。

 ていうかそこまで気が付けるんならもっと空気も読めるようになれと言いたい。



ケイン王子

まさか騎士リリーを抱え込んでいたとは思わなかったよ。

そして……爆発事件の犯人が、コード、君だってこともね

勇者コード

あー、一応聞くが、そっちはなんでわかったんだ?
最初から俺が犯人だとわかってて追いかけてきたよな

ケイン王子

ああ、それは……僕自身は半信半疑だったんだけどね









レイナ

いたー! ししょー!







 ケインの後ろから、美しいドレスに身を包んだレイナが駆けてきた。



勇者コード

おいレイナ、そんなドレスで走ったら転ぶぞ

レイナ

うるさい! ししょー、よくもやってくれたな!

実際にくらってみてやっとわかった!
あんな手の込んだ魔法使えるの、ししょーしかいない!






勇者コード

……やっぱりお前にバレたか


 俺は自然と、口元に笑みを浮かべていた。

リリー

なんでそこでそんなに嬉しそうなんですかっ


 リリーの言う通りだ。バレたというのに、何故だか嬉しい。

 とはいえ、これは想定通りだ。
 きっと、俺が犯人だとバレる。
 だからこそ、町ではなく、国を出る必要があるんだ。




勇者コード

はっはっは! レイナ、お前も成長したよな!
よくあの爆発を抑え込んだ!

レイナ

あっ! そうかあっちもししょーの魔法か!
あれ本当に爆発するヤツだったぞ!
怪我したらどうしてたんだよ!

勇者コード

それはないだろ?
俺はお前が抑え込むって信じていたよ。

それに大喝采だったじゃないか。
王様やみんなに褒めて貰えて嬉しかっただろ?




ケイン王子

えっ……?

コード、まさか君は、そのために?

勇者コード

っと……さあな。
勝手に考えてろ、天才王子


 テンションが上がり、つい口が滑ってしまった。






レイナ

あーもー! 意味わからない話をするな!
あたしは怒ってるんだぞ、ししょー!




ケイン王子

……レイナ?

勇者コード

むっ……このパターンは


 俺はそっと、リリーの側に寄る。



レイナ

せっかくの結婚式だったのに!
もう無茶苦茶だ!



ケイン王子

えっと、レイナ、戻ればすぐに式は再開できるよ?

レイナ

できない!
ししょーも、リリーもいない結婚式じゃないか!

勇者コード

レイナ……





レイナ

あたしの、いっちばんめでたい日になるはずだったのに!

もー……ししょーなんか、だいっきらいだー!





 レイナが両手をあげると、そこに急激に魔力が集まっていく。

勇者コード

あ……やば、今結構傷ついた

リリー

い、言ってる場合ですか!
コード、あれって魔法ですよね?

勇者コード

あー……そうだな。
とびっきりの爆発魔法だな

リリー

どうするんですか!

勇者コード

どうもこうも……こうするしか助かる道はないぞ



 俺はリリーの肩を抱いた。

リリー

えっ……?!









レイナ

二人とも吹っ飛んじゃえー!!




ケイン王子

ま、待つんだレイナ!
たぶんコードは僕らのために!














 ケインの制止など聞かず、レイナは魔法をぶっ放した。




勇者コード

リリー、しっかり掴まってろ!

リリー

!! は、はい!


 リリーが俺にしがみつく。爆発魔法がぶつかる直前に周囲に保護魔法をかけるが……。















リリー

っきゃあああああぁぁ!!

勇者コード

ぐっ……相変わらずなんつー威力っ









 爆発によるダメージはガードできたが、俺たちはそのまま吹っ飛ばされ、ケインとレイナの姿があっと言う間に見えなくなる。


リリー

わ、わ、これ大丈夫なんですか?!

勇者コード

ギリ……かな。
着地の衝撃を抑えるくらいの魔力は残ってると思う


 作戦でかなりの魔法を使ったから、あまり魔力が残っていない。
 着地の瞬間に一瞬だけ保護魔法を使うのが精一杯だ。

 タイミングを誤れば……死にはしないが結構ヤバイ。



リリー

……信じています。コード




 リリーはすぐ近くで、笑顔を見せる。

 ……本当に、すぐに人を信用し過ぎだ、リリーは。

 俺はそんなリリーを強く抱きしめる。



勇者コード

任せろ。
魔法の制御なら、俺は世界一だって誇れるからな



 なんたって、これで魔王を倒し、勇者と呼ばれるまでになったんだ。

 こんなところで失敗してたまるか。




勇者コード

だから……これからも、よろしくな。
リリー

リリー

はい。
こちらこそ、よろしくお願いします。

……どこまでも、コードと共に




 爆発で吹っ飛ばされた俺たちは、そのまま落ちていく。

 もう、一人になることはないだろう。





















 その後、二人がどうなったのかはわからない。



 ただ、いくつもの国に、魔法剣士と騎士の2人組の話が残されていた。



 ある国では、王位争いによる内紛を収め、英雄として。

 ある国では、国を占拠していた謎の魔物たちを一掃し、救世主として。

 ある国では、暴走した古代遺跡の魔法道具を封印し、冒険者として。



 国によって伝え方は違うが、どれも英雄譚として語られていた。




 しかし、一つだけ。
 ある国では、英雄とは呼べない話が残されている。

 それは……。










 数多くの英雄譚を残した2人だが、実は愛の逃避行を計った逃亡者であり、リア充であった。



 2人は最後に、特大の魔法で爆発したという。


















リア充が爆発することを
勇者は望んだ

第4話「勇者と共に」(後編)

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