リア充が爆発することを
勇者は望んだ
第4話「勇者と共に」(後編)
あっはっはっは!
やってやったぞ!
城から離れ、城下町を抜けたところで、俺は歓声を上げた。
作戦、完璧でしたね。
怖ろしいほどに、問題が起きませんでした
そうだな、リリーがナンパされていた以外は全部想定通りだった
ナンパじゃないですってば……
追跡者はリリーのみ。あのケインが、来賓の安否確認を最優先にしないわけがない。
ましてや追っているのはあの元リリー騎士団の団長だ。リリーを信用しているのなら、応援をよこしたりしないだろう。
リリー、本当にありがとう。
あとは……申し訳ないが、城に戻って犯人を逃したと報告してきてくれ
その間に、コードはこの町から逃げる。
それが作戦でしたね
ああ……まぁ、な
おそらく、町から逃げただけではダメだろう。
きっと俺は……。
それならば、私はその前にお話ししなければなりませんね。そういう約束でしたから
……ああ、そうだな。
てっきりリリーは、俺の作戦を止めたかったんだと思ったが、違ったわけだよな。
いったい話ってなんなんだ?
はい。まず確認したいのですが、コードはこのあと、町を出るのではなく……
この国から出るつもりですよね?
……!! なっ……
やっぱりです。どうしてですか?
作戦は上手くいったと思うのですが
しまった、つい顔に出てしまったか。
作戦が成功して油断していた。
……仕方が無いな。
俺の勘が正しければ、そこまで逃げなきゃいけないはずなんだ
……? わかりません……
城に戻ればすぐにわかるさ。
……で? それが聞きたかったのか?
いいえ、違います。……コード
リリーは意を決した顔で、俺をまっすぐ見つめる。
私もその逃亡に、連れて行ってください
なっ……なにを言ってるんだよ!
そ、そんなのダメに決まってるだろ!
教会はどうするんだよ?
孤児の世話を手伝っているんだろ?
実はシスターには、この作戦のために城に向かうとき、町を出ると話してあります。
だから気にすることはありません
な、なに……?
じゃあ、最初からそのつもりだったのか?
はい。コードは、もう私の仲間です。
仲間の行くところに、私はついていきます。
……そう、決めたんです
仲間の行くところに……。
ミカのせいでしょうか。
私はもう、一人でいることに耐えられそうにありません。
ですから、もう仲間とは別れたくない。
コード、あなたと一緒にいたいのです
リリー……
そうだ、俺だって……。
ケイン、レイナ。
二人の仲間と離れて、でもあの楽しかった日々が忘れられなかった。
一人で旅をしていた頃には、もう戻れない。
仲間と一緒にいることの楽しさを、知ってしまったから。
いつまでも仲間と一緒にいたい。
だけど、それはもう無理だから。
一人に、戻らなきゃいけないから。
だからこそ……気持ちを吹っ切るためにも、俺はこんなことを
でもどうやら……やっぱりもう、一人にはなれないようだ。
……わかったよ、リリー。
一緒に逃げよう
コード……!
どうやら俺たちは、本当に似た者同士みたいだからな
ずっと一人だった。
でも仲間を知った。
そして、別れた。
そんな二人が出会って、仲間になれば……もう、離れることはできない。
よかった……。
私、それでも断られたらどうしようかと
はは、どうするつもりだったんだよ
力ずくで、剣でねじ伏せて、ついていくつもりでした
…………
なんだそれ、ちょっと怖いぞ。
仲間にしてよかった……んだよな?
……じゃ、急ぐとするか。
これから大変だぞ?
はい。覚悟の上です
俺たちはお互い見つめ合い、そして歩き出す。
2人ならんで、一緒に。
……見付けたよ、コード。
そして、騎士リリー
えっ……ケイン王子?!
チッ……思ったより早かったな、ケイン
振り向くと、今出たばかりの町の出口に、ケインが息を切らせて立っていた。
ふぅ……。
どうにも騎士リリーが怪しく見えたんだ。
フードを被った犯人らしき人物を『男』だと言い切っていたからね
あ……ああっ。
ごめんなさい、コード!
いや、リリーのせいじゃない。
はぁ……ほんと、天然のくせに頭は回るんだよな
そもそも純粋なリリーに、演技や駆け引きは期待していなかった。
むしろ彼女はそういうのができなくていい。
問題はケインだ。あの状況でそんな細かいところまで気付けるんだから、やっぱり頭はいいのだ。
ていうかそこまで気が付けるんならもっと空気も読めるようになれと言いたい。
まさか騎士リリーを抱え込んでいたとは思わなかったよ。
そして……爆発事件の犯人が、コード、君だってこともね
あー、一応聞くが、そっちはなんでわかったんだ?
最初から俺が犯人だとわかってて追いかけてきたよな
ああ、それは……僕自身は半信半疑だったんだけどね
いたー! ししょー!
ケインの後ろから、美しいドレスに身を包んだレイナが駆けてきた。
おいレイナ、そんなドレスで走ったら転ぶぞ
うるさい! ししょー、よくもやってくれたな!
実際にくらってみてやっとわかった!
あんな手の込んだ魔法使えるの、ししょーしかいない!
……やっぱりお前にバレたか
俺は自然と、口元に笑みを浮かべていた。
なんでそこでそんなに嬉しそうなんですかっ
リリーの言う通りだ。バレたというのに、何故だか嬉しい。
とはいえ、これは想定通りだ。
きっと、俺が犯人だとバレる。
だからこそ、町ではなく、国を出る必要があるんだ。
はっはっは! レイナ、お前も成長したよな!
よくあの爆発を抑え込んだ!
あっ! そうかあっちもししょーの魔法か!
あれ本当に爆発するヤツだったぞ!
怪我したらどうしてたんだよ!
それはないだろ?
俺はお前が抑え込むって信じていたよ。
それに大喝采だったじゃないか。
王様やみんなに褒めて貰えて嬉しかっただろ?
えっ……?
コード、まさか君は、そのために?
っと……さあな。
勝手に考えてろ、天才王子
テンションが上がり、つい口が滑ってしまった。
あーもー! 意味わからない話をするな!
あたしは怒ってるんだぞ、ししょー!
……レイナ?
むっ……このパターンは
俺はそっと、リリーの側に寄る。
せっかくの結婚式だったのに!
もう無茶苦茶だ!
えっと、レイナ、戻ればすぐに式は再開できるよ?
できない!
ししょーも、リリーもいない結婚式じゃないか!
レイナ……
あたしの、いっちばんめでたい日になるはずだったのに!
もー……ししょーなんか、だいっきらいだー!
レイナが両手をあげると、そこに急激に魔力が集まっていく。
あ……やば、今結構傷ついた
い、言ってる場合ですか!
コード、あれって魔法ですよね?
あー……そうだな。
とびっきりの爆発魔法だな
どうするんですか!
どうもこうも……こうするしか助かる道はないぞ
俺はリリーの肩を抱いた。
えっ……?!
二人とも吹っ飛んじゃえー!!
ま、待つんだレイナ!
たぶんコードは僕らのために!
ケインの制止など聞かず、レイナは魔法をぶっ放した。
リリー、しっかり掴まってろ!
!! は、はい!
リリーが俺にしがみつく。爆発魔法がぶつかる直前に周囲に保護魔法をかけるが……。
っきゃあああああぁぁ!!
ぐっ……相変わらずなんつー威力っ
爆発によるダメージはガードできたが、俺たちはそのまま吹っ飛ばされ、ケインとレイナの姿があっと言う間に見えなくなる。
わ、わ、これ大丈夫なんですか?!
ギリ……かな。
着地の衝撃を抑えるくらいの魔力は残ってると思う
作戦でかなりの魔法を使ったから、あまり魔力が残っていない。
着地の瞬間に一瞬だけ保護魔法を使うのが精一杯だ。
タイミングを誤れば……死にはしないが結構ヤバイ。
……信じています。コード
リリーはすぐ近くで、笑顔を見せる。
……本当に、すぐに人を信用し過ぎだ、リリーは。
俺はそんなリリーを強く抱きしめる。
任せろ。
魔法の制御なら、俺は世界一だって誇れるからな
なんたって、これで魔王を倒し、勇者と呼ばれるまでになったんだ。
こんなところで失敗してたまるか。
だから……これからも、よろしくな。
リリー
はい。
こちらこそ、よろしくお願いします。
……どこまでも、コードと共に
爆発で吹っ飛ばされた俺たちは、そのまま落ちていく。
もう、一人になることはないだろう。
その後、二人がどうなったのかはわからない。
ただ、いくつもの国に、魔法剣士と騎士の2人組の話が残されていた。
ある国では、王位争いによる内紛を収め、英雄として。
ある国では、国を占拠していた謎の魔物たちを一掃し、救世主として。
ある国では、暴走した古代遺跡の魔法道具を封印し、冒険者として。
国によって伝え方は違うが、どれも英雄譚として語られていた。
しかし、一つだけ。
ある国では、英雄とは呼べない話が残されている。
それは……。
数多くの英雄譚を残した2人だが、実は愛の逃避行を計った逃亡者であり、リア充であった。
2人は最後に、特大の魔法で爆発したという。
リア充が爆発することを
勇者は望んだ
完