リア充が爆発することを
勇者は望んだ

第4話「勇者と共に」(中編)



















 城前広場を見渡せる、城のバルコニー。
 そこへケイン王子と、美しい魔法使いのレイナが姿を見せた。

 広場に集まった国民たちから歓声が上がる。
 2人は手を振ってそれに答えた。


 と、そこに。






















ケイン王子

ん……? あれは?


 最初に気付いたのはケインだった。
 広場の中央上空。
 小さな光の球が、ゆっくりと落ちてくる。

レイナ

うーん? ケイン。
あれって、魔法だぞ

ケイン王子

……なに?







 光の球はちょうど、ケインたちの目の高さまで落ちてきていた。

 そして……。













ケイン王子

なっ……!


 光の球は突然爆発し、下にいた人たちから悲鳴が上がる。

 しかし何もない上空で起きた爆発は、城にも広場にも特別被害はない。
 そのため広場の人たちはなにかの演出だろうと勘違いし、再び歓声を上げ始めた。

ケイン王子

…………


 ケインはそんな国民に手を振って応え、一旦バルコニーから姿を消す。











王様

ケインよ、今のは

ケイン王子

父上。……わかりません。少なくとも演出ではありません

レイナ

今の、普通の爆発魔法だったぞ。
もしあれが広場に落とされていたら、大変なことになっていた

ケイン王子

そうなのか?

……もしかしたら、以前騒がれていた被害の無い爆発事件と同じじゃないかと思ったんだけどね。そうか……

レイナ

そーいえばあれ、結局わからないままだったな。

……ん?



レイナ

ケイン! あれ!















 レイナが会場の中央を指さす。

 大きなシャンデリアのその下に、さっきと同じ小さな光の球が浮かんでいた。

ケイン王子

っ!! 衛兵! 皆を守れ!

レイナ

待ってケイン!
あたしに任せてくれ!



 レイナはそう叫ぶと、光の球に向かって飛び上がり、胸の前で両手を合わせるようにして抑え込もうとする。



ケイン王子

レイナ! 無茶をしちゃダメだ!

レイナ

無茶じゃない!
これくらいの魔法、あたしなら抑えられるから!








 レイナの言う通り、光の球は一度大きく膨らみかけたが、次第に小さくなっていく。

レイナ

もうちょっと……。
確かこう……魔法を内側に……閉じ込めるイメージ!




 そしてついに、光りの球はパンッと小さな音を立てて消えてしまった。




レイナ

やった……! 消せたよ、魔法!


 レイナが宙に浮いたまま嬉しそうにそう言うと、ケイン向かってぶんぶんと手を振る。





ケイン王子

レイナ……。
はぁ、冷や冷やしたよ

王様

……ケインよ

ケイン王子

あ、父上。
すみません、すぐに犯人を探させます

王様

魔法使いレイナ。

……どうやら、お前の言う通りのようだ

ケイン王子

父上……?

王様

皆を守ろうとする姿を見て、確信できた。

あの子は魔王ではない。一人の人間だ。

……すまないな、なかなか信じてやれなくて

ケイン王子

父上……!
はい。とっても頼りになるんですよ、レイナは!




 会場にいた来賓たちも状況を察したのだろう、レイナに向かって拍手が贈られる。
 それは会場全体に広がり、大喝采になると、レイナは少しだけ恥ずかしそうにお辞儀をし、ケインの元へゆっくり降り立とうとする。



ケイン王子

レイナ!
ご苦労様、レイナ。
本当、素晴らしいよ、君は

レイナ

ふぅ……。ちょっと焦ったけどな。
魔法の打ち消し方、ししょーに教わっておいてよかった













勇者コード

……そうだな。100点満点だ。
俺の期待にしっかり応えてくれた






 俺は誰にも聞こえないように呟いて、2人に向かってそっと手を翳す。






ケイン王子


 ケイン。

 お前は頭は良いけど天然で、ぐさりとくるような一言を何気なく放り投げてくるし、その上ちゃっかりレイナといい仲になっていた。
 ていうかほんと、いつの間にそこまでの仲になっていたんだよ。
 旅の間、まったく気付かなかったぞ?


 でもなんだかんだで、その天然なところが一緒にいて楽しませてもらったし、なにより俺みたいなヤツについてきたいと言ってくれたこと、仲間になってくれたこと、共に剣を競い合い、コンビネーションの練習をして、背中を任せて戦ったあの日々は、本当に忘れられない、大切な時間だった。








レイナ


 レイナ。

 とても美しい魔法使い。
 単純な性格のくせに、魔王の娘としてずっと悩んでいて、何度も相談に乗ってやった。
 俺をししょーししょーと呼んで慕ってくれてたってのに……なんでケインとくっついてんの? なんで今正に結婚しようとしてんの? おかしくない? 俺よりケインといっぱい話してたの? いつの間にだよ?

 魔力は俺なんかよりケタ違いに高くて、とてもじゃないが俺が師匠だなんて言えない。
 それでも、師匠と呼んで慕ってくれたこと、俺は嬉しかったんだ。
 魔法が器用に使えるってだけの、中途半端な才能しかなかった俺のことを、慕ってくれることが嬉しかった。

 少しずつ魔力のコントロールを覚えていくのを見るのが、本当はすごく楽しかった。爆発魔法を押さえ込むなんて、昔のお前にはできなかったよな。それ以上の魔法をぶつけてかき消すくらいしかできなかったはずだ。
 本当に、成長したよ。






 二人とも、共に旅をした、最高の仲間だった。





勇者コード

でも、もう三人で一緒になんて、いられないんだよ







 レイナのことは今でもまだ好きだ。
 そんなにすぐに気持ちを切り替えることなんてできない。

 ケインのことだって、ムカツクが、嫌いなわけじゃない。
 あいつにならって、思うことができる。





勇者コード

それでもだ……。
お前ら……リア充は……






 降り立つレイナに、ケインが手を差し伸べる。

 二人の手が重なり合う。








勇者コード

……やっぱり爆発しろ!













 二人の手を中心に、大爆発が起こった。






ケイン王子

なっ、ぐっ! レイナ!

レイナ

わわわわ! なんだこれ、また爆発か?!






 二人はそれぞれ反対の壁まで吹っ飛ばされる。
 が、気絶はしていない。咄嗟に防がれたか。
 ……まぁ、想定内だ。

 ちなみに今の爆発は、いつもの被害の出ない爆発だ。二人以外は誰も吹っ飛んでいないし、テーブルもその上の豪華な料理も全部無事だ。

勇者コード

よし、次だ


 俺はぐるっと辺りに手をかざす。

 するとあちこちで、ぼんぼんぼんと、さっきよりも小規模な爆発が起きて、来賓の何人かが転倒する。

勇者コード

あんまり派手に吹き飛ばすと二次災害が起きるからな


 来賓が悲鳴を上げる中、俺は出口を目指す。
 あとは……。











リリー

ケイン王子! ご無事ですか!

ケイン王子

騎士リリー……。ああ、僕は大丈夫だ。
……怪我はまったく無いな。

これは……まさか、やはり以前の爆発事件の?

リリー

そ、そうかもしれません……あ!
今、出口の辺りにマントにフードを被った男がいました!

リリー

王子、衛兵に安否確認の指示をお願いします。おそらく怪我はないと思いますが……。

私は彼を追いかけます




ケイン王子

……そうだな。

なにかあっては大変だ。こっちは僕が対処しよう。

騎士リリー、追跡を頼むよ

リリー

わかりました、男を追跡します


 そう言ってリリーは、出口に向かって駆け出した。






ケイン王子

…………

レイナ

ケイン、大丈夫か?

ケイン王子

……あ、ああ。
レイナこそ無事かい?

レイナ

あたしはなんともないが……。

なぁケイン、今の魔法って……








…後編に続く

第4話「勇者と共に」(中編)

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