ー勇者の家ー








シーラ

…んー…
明日は何を試してみようかな…。


腕組みをしながら


考え事をするシーラさん


今宵もテーブルの上に小さな紙を


たくさん並べています。





しばらくしたのち


意を決したように


一枚の紙を手に取りました。


シーラ

うん。
これにしましょう。




手にした紙には


こう書いてありました。





『勇者代行カンパニー』












勇者は席を外しております





















次の日の朝


シーラさんは食事を済ませると


さっそく書棚の分厚い本を取り出します。


シーラ

遙かなる東方の神の使いよ
知恵と知識の探求者よ

シーラ

その力、我にも貸し給へ

シーラ

いでよ、ワイズ・フォックス!



































……

私をお呼びになられたのは
貴方様でございましょうか?

シーラ

はじめまして、イナリ。
私の名前はシーラ。
あなたの力を貸して下さい。

イナリ

…イナリ…
名縛法か…

これをされると従うしかない。

イナリ

かしこまりました、シーラ様。
此度は如何なるご用件でしょうか?

シーラ

勇者のお仕事のうち
私達でできる物を引き受ける…。

そう。
『勇者代行カンパニー』
というお仕事を始めるの。

イナリ

私達…
シーラ様と私2人ででしょうか?

シーラ

安心して。
力を貸してくれる仲間はたくさんるわ。

あなたにはやってもらうのは
その仲間を適材適所へ配置する事と
このお仕事を、この国の民へ広める事を
お願いします。

イナリ

では、手はじめに
クラフターとなる仲間を
4人程預りたく思います。

シーラ

クラフターね。

シーラ

繰り返せ繰り返せ繰り返せ
かくも単調な作業よ
繰り返して組み上げよ
いでよ、クラフター×4!




クラフターAが現れた!
クラフターBが現れた!
クラフターCが現れた!
クラフターDが現れた!

イナリ

それと、宣伝役にスピーカーを
2人ほど…

シーラ

尽きぬ話題に
賑わう井戸端
その燃料補給を担う主
いでよ、スピーカー×2!








スピーカーAが現れた!
スピーカーBが現れた!









イナリさんは


クラフターさん達に命令をして


家には取り外し可能な


『勇者代行カンパニー』の看板を、


街中には立看板を


作っては設置するように命令しました。







また、スピーカーさん達には


街中でうわさ話をして回るように


命令しました。


勇者様の家で困ったことを


解決するお仕事を始めました、と。






そして、イナリさんは


シーラさんにこう言いました。




イナリ

依頼主からの依頼の受付は
我々のような異形の者が行うより
シーラ様がお受けになるのが
最も宜しいかと。

シーラ様の寛容な雰囲気と美貌は
依頼主の心を必ずや開くことでしょう。

シーラ

イナリ……。
褒めても何もでませんよ?

イナリ

ふふふ……。
私は真実をお伝えしただけですよ。




お昼を伝える鐘の音が


お城から聞こえる頃、


全ての仕事を終えたクラフターさん達と


スピーカーさん達が戻って来ました。




シーラ

クラフターA、クラフターB、クラフターC、クラフターD、スピーカーA、スピーカーB、ご苦労様。
また宜しくね。

シーラ

さて、『勇者代行カンパニー』の
営業開始ね。

イナリ

シーラ様、開業
おめでとうございます。

シーラ

ふふふ、ありがとうイナリ。
でも、何もでませんよ?

女戦士

勇ゥー!いるかぁー!?

シーラ

さっそくお客様のようね。

イナリ

頑張ってください、シーラ様。



玄関のドアへ走るシーラさん。


初めてのお客さんはどんな方でしょう?


初仕事の前に少しウキウキしております。


シーラ

いらっしゃいませ。

勇者代行カンパニーです。

女戦士

お・・あれ?
勇は?

シーラ

申し訳ございません。

勇者勇はただ今席を外しております。

女戦士

なぁんだ、いないのか…。

シーラ

急ぎの用でしたら
私がお伺いいたします。

女戦士

奥さんに話すには酷な内容だかんな!

また、今度来るよ!



そう言うと


女戦士はさっさと帰っていきました


シーラ

どういうこと…

シーラ

あの人…勇くんとどんな関係なのかしら…



シーラさんの胸に


拭いきれない不安が残ります。


女戦士

奥さんに話すには酷な内容だかんな!

また、今度来るよ!

シーラ

……



足取り重くリビングへ戻る


シーラさん。




と、その時。




再びドアを叩く音が聞こえました。

シーラ

今度こそお客さんですね!



気を取り直して


玄関のドアへと向かうシーラさん。


女魔導師

あのー…

シーラ

いらっしゃいませ。

勇者代行カンパニーです。

女魔導師

あ…えっと…
イサムちゃんはいらっしゃいますか?

シーラ

い…イサムちゃん…?

シーラ

申し訳ございません。

勇者勇はただ今席を外しております。

女魔導師

あ……いないのですね……。

シーラ

急ぎの用でしたら
私がお伺いいたします。

女魔導師

だ…だ…だ…大丈夫です。

……また来ます!!



そう言うと、女魔導師はそそくさと


勇者の家をあとにしました。


シーラ

また…!

シーラ

うー…。




シーラさんはリビングへ戻ると


窓際のテーブルへ不機嫌そうに座り


頬杖をついて外を眺めてていました。


イナリ

どうしました?シーラ様。

お客様ではなかったのですか?

シーラ

………


『勇者代行カンパニー』の


営業初日は波乱含みの前途多難な


スタートとなりました。







はたして勇者代行は


シーラ様の思惑通り


勇者様を助けることになるのでしょうか?





















つづく




【現在の装備】
レベル  :4
めいせい :100
ぶき   :新品の短剣
よろい  :いつもの服
かぶと  :いつもの額当て
たて   :なし
どうぐ  :ファンガスの切り身(黄)
      野ばらのペンダント
なかま  :スライム
とくぎ  :ファイアブレス

第10話 勇者は席を外しております

facebook twitter
pagetop