ーハジメノがあった場所ー











勇者様は虚無感を拭いきれぬまま


二度目の夜営に入ります。




しかし、予定では


ハジメノの宿に泊まるつもりだったので


準備が十分ではありません。



勇者

気を取り直さないと…。

これが魔王ツヴァイの仕業なら、
魔王を倒せば元通りになるかもしれない。

ポチ

ケフシュワ…













食通





















枯れ草や小枝を集め、焚き火を焚き


寝床の準備はできました。



しかし、食事の準備だけはできていません。





今日一日とてもショックなことがあった勇者様。


昨日の夜から何も口にしていないので


何か食べないと明日の体力が心配です。






見晴らしの良い平原で


周りを見回す勇者様。



勇者

食料となるモンスターどころか
普通のモンスターすらいないな…。



これまでハジメノの衛兵が


にらみを効かしていたのでしょうか?


あるいは別の原因でしょうか?






ハジメノがあった場所の周辺には


モンスターや獣の気配が全くありません。





勇者

んー……。
もちものには非常食用に毒抜きしようと思っていた、ファンガスの切り身(赤)(黃)しかないよなぁ……。

勇者

そういえばお義父さんが
ファンガスの赤い身が
一番美味いって言ってたような……。

















ー2年前…


勇者様とシーラさんが


お城の晩餐会にお呼ばれした時です。



王様

ふぅむ…。


王様はファンガスのソテーの裏を


ナイフでめくりながら


唸っています。





それを見て気になった勇者様。

勇者

どうかされましたか?
お義父様。

何か不都合でもありましたか?

王様

……いや。

ファンガスの赤い部分が無いか
探しておったのだよ。

勇者

ファンガスの赤い部分…ですか?

王様

ああ。
ファンガスの身は
十分成熟した茶色い部分もいいが、
熟成手前の赤い身の方が一番美味い。

ピリッとした辛味のアクセント
と芳醇な香り、さっくりした歯ごたえが
非常によいのだ。

勇者

へぇ…。そうなんですね。
私はまだ食べたことがありません。

今度食べてみようかと思います。

王様

だが、赤いままだと毒が残っておってな…。
付け合せに生の毒消し草を
一緒に食べなきゃいかん。

そこだけ気をつければ
婿殿も立派な食通になろう。

勇者

食通…ですか。

王様

ただ、どんな毒なのかは私は知らん。

毒消し草なしで食べようとすると
いつも大臣に止められるのでな。

シーラ

もう、お父さん!
危ないことしちゃダメって
言ってるじゃない!

それに、勇くんに変なことを教えないで!

王様

わっはっはっは…!













勇者

ファンガスの身(赤)は
毒消し草があれば食べれるんだよなぁ…




手にしたファンガスの切り身(赤)を


まじまじと眺めていると


空腹で冷静さを欠いた勇者様の頭に


良からぬ考えが浮かびます。


勇者

毒って言ったって
しばらく歩いて治したことも
これまであるし…。

このまま焼いて食べちゃおうかな…。

ポチ

ケフ!ケフ!シュワ!



勇者様はファンガスの切り身(赤)を


少し長めの枝に挿し


焚き火で炙りはめました。





これまでに嗅いだことのない程の芳しい香りが


勇者様の食欲をそそります。





勇者

なんて……うまそうなんだ。
いただきま〜す!



程よくキツネ色になった


ファンガスの切り身(赤)を


勇者様は口に運びます。



勇者

はふっ、はふっ…これは…

さっくりした歯ざわりに、
鼻孔をくすぐる芳醇な香り…
噛み切ると一段と香りが立ち上って…。

そしてこのスパイシーな刺激…!

…うまいッ!



勇者様は興奮して


ファンガスの切り身(赤)の素焼きを


飲み込みます。


勇者

あー、うまい。

でもちょっと辛いかな…。
うん、辛い。


…辛い辛い。

勇者

辛い辛いからいカライ!
口がヒリヒリする!

水…水…!





勇者様はたまらず水袋の水を


ゴクゴクと飲み干しました


しかし、口の中はまるで火事のよう。


勇者

もっとみず・・・みず・・・

ゴォォォォ!




なんと、水を求める勇者様の口から


炎が吐かれたではありませんか。





必死に水を求める勇者様。


しかし、周りには水場はありません。


わずかな水を求めて


足下に生えている若草を


口に放り込みます。




勇者

もっと…もっと…




無差別に若草を口に運ぶ勇者様。


少し背の高い草を口に放り込んだ時、


ようやく口の火事は治まりました。


勇者

はぁ…はぁ…
やっと治まった…。

あー、辛かった…。

…ん?




勇者様がむしり散らかした若草をよく見ると


そこには毒消し草と薬草が混ざっていました。


勇者

ラッキー、
ここ、毒消し草が生えてたのか…。
助かったぁ…。



すっかり疲れ果てた勇者様は


その場に崩れ落ち


そのまま眠ってしまいました。

勇者

すー…すぅー…

勇者

ゴォォォォ…




勇者様は寝息とともに


たまに炎を吐きながら熟睡しました。







* * *





フレアトキシン。


ファンガスの身の赤いところに


含まれる毒素です。





一口目にはヒリヒリするような辛味を感じますが


触れた場所は次第に熱を帯び


発火するまでの温度に達します。





ドラゴンが吐く炎は一説によると


このフレアトキシンの作用に依るもの、


とも言われております。


ライル

ふぅ、間に合った。




かろうじて勇者様の姿が確認できる場所で


投擲を終えたスリングを


懐に仕舞うライルさん。

ライル

まさか、あまりの空腹に
毒を食らっていようとは
さすがの私も想像しておりませんでした。

ライル

結果として薬草と毒消し草を
バレずに渡せましたが…。

ライル

…しかし…




ライルさんは辺りを見回します。

ライル

ここはハジメノではないのか…?
なぜ、ただの平原しか無いんだ?



ライルさんの言葉に


広大な野原は答えてはくれませんでした。


















勇者様が旅立たれて2回目の夜。

家のキッチンでふてくされたように

テーブルに突っ伏して

つぶやくシーラさん。

シーラ

勇くん、おなかこわしてないといいな…。



それぞれの孤独な夜は更けていきます。















つづく





【現在の装備】
レベル  :4
めいせい :100
ぶき   :新品の短剣
よろい  :いつもの服
かぶと  :いつもの額当て
たて   :なし
どうぐ  :ファンガスの切り身(黄)
      野ばらのペンダント
なかま  :スライム
とくぎ  :ファイアブレス

pagetop