ー勇者の家ー










日はすっかり暮れ

外では夜の王の鳴き声が響きます。






テーブルいっぱいに

たくさんの紙を広げて

考え事をするシーラさん。



それぞれの紙には

びっしりと文字が書かれています。


シーラ

シャルミラが首尾良くしてくれたおかげで
勇くんの名声はしばらく大丈夫ね。



お城の方から

今日最後の時を告げる

鐘が聞こえてきました。


シーラ

あら、もうこんな時間。
早く寝ないと…。



シーラさんはテーブルを片付けると

1人寝室へ向かいました。




でも、その足取りは

とても寂しそう…


シーラ

勇くんももう寝てるかなぁ…。

シーラ

…寂しいよぉ…勇くん…









最初の街・ハジメノ街


















勇者

ふあぁあぁああー!
もう、朝かぁ。

ポチ

ケフ…

勇者

(キョロキョロ…)

勇者

何かに起こされたような気がしたけど……気のせいか…

勇者

さて…

陽が高く登る前にハジメノ街へ
到着できるようにしよう。





勇者様はハジメノ街を目指して


一心不乱に歩き始めました。




てくてくてくてく……




てくてくてくてく……






そして、太陽が一番高い位置に


来るちょっと前。


勇者様たちは


外壁をレンガで囲まれた街に


到着しました。


勇者

よーし、街に着いたぞー!




入口の前には立札が立っています。

【←アルザレア】

【ハジメノ】

【セ・カンド→】

勇者

まず手始めに、
いろいろな人と話してみよう!



勇者様は出会う人すべてに


声をかけて行きました。

街人A

ここはハジメノ。

普通の街…

街人B

この街では、街の中まで
魔物が入ってこないように
レンガで街を囲っている…

街人C

ぼうぐは買ったか?
ぶきも大事だが ぼうぐがないと
いのちがいくつあっても足りない…

勇者

な…なんだ?
このやっつけ感満載な街人の雰囲気は…。

3年前もこんな感じだったか?

ポチ

ケフ…



会う人すべての会話に


心がこもっておりません。


まるで誰かに言わされているかのよう…。


勇者

あの子はどうだろう…



勇者様は道ばたに腰かけて


空を眺めている少年に


話しかけてみました。

???

どうせなにも変わらないんだ。
無駄なんだ。




少年はボーっと空を眺めたまま


顔色一つ変えずに話しました。


勇者

ボク、なにがあったんだい?

名前は?

???

なまえを言ってもなにも変わらないんだ。
だから、なまえを言うこともない…。

勇者

そんなことないよ!
困ったことがあるなら俺が力になる。

…だから…君の名前を聞かせてくれ。

ドライ

……ドライ

…チョー・ドライ

勇者

ドライって言うんだね。

ドライはなにをそんなに
困っているんだい?

ドライ

おもちゃを……。

僕のおもちゃをお父さんが
捨てちゃったんだ。

勇者

お父さんが……おもちゃを……。

ドライ

僕が悪いんだ。僕が悪いことをしたんだよ。
だからお父さんが怒って……。

それで窓の外に投げ捨てたんだ。
きっと、街の外に飛んでいっちゃったんだ。

勇者

そうか…。

でも、ドライは悪いと思って
反省したんだろ?

ドライ

うん

勇者

それなら、
もうおもちゃが
帰ってきてもいいな。

どんなおもちゃなんだい?
俺が探してくるよ!

ドライ

…お花の形のペンダント。

…男の子なのに変でしょ?

勇者

そんなことないさ!
俺だって、お花やスライムが好きなんだ。

おかしいことなんて何もない!

ドライ

…うん!

勇者

よし、いい返事だ!

ポチ

ケフ!



少年の表情がほんの少し


明るくなったような気がしました。



それを見た勇者様も


ほんの少し気持ちが明るくなりました。

勇者

それじゃ、
見つけたら またここに来る。
約束だ!

ドライ

うん!




勇者様は少年に手を降って


その場を後にしました。


そして、街に来たときの出入口とは


違う出入口に向かいました。


勇者

ここが一番近い出口だな…。

ここから壁伝いにグルっと
街の外側を探索してみよう。

…あれ?



と、勇者様は壁に手をかけた時。


勇者様は壁に触れた手のひらに


違和感を感じました。






勇者

レンガの壁に…
なにか…文字が刻まれてるな…。











『みるものすべてが

なくなった


おとなはみんな

れいこくになった


のにさくばらを

もぎとった


のこらずすべて

ドライ』


勇者

…ドライ…
このいたずら書きは
あの子が書いたのか…?

いったい何があったんだ?







その時です。








勇者

うわっ!


















目の前がはげしく光ったかと思うと


そこにあった街は


跡形もなく消えていました。



勇者

これはどういう事だ……?

ハジメノは……。
ドライは、どこへ行ったんだ?




視界の先には遠巻きに見える


出入口の立札があります。







さっきまでこの場所に


ハジメノがあったのは間違いありません。


勇者

ハジメノが……消えてしまった……。

ポチ

ケフ…シュワ…



勇者様はしばらくその場に


立ち尽くしました。










陽は傾き、空を赤く染め始めた頃、


ふと足下に光るものがあるのを見つけました。


我に返った勇者様が手にとって見ると


それは銀の外枠に


赤い花を模したガラスを


はめ込んだペンダントでした。




勇者

これは…野ばらの形のペンダント…

これがドライの言っていた
おもちゃなのかな…



勇者様は手にしたペンダントを眺めながら


ドライとの会話を思い返していました。

勇者

もう……約束は守れないのかな……





と。





















つづく

【現在の装備】
レベル  :4
めいせい :100
ぶき   :新品の短剣
よろい  :いつもの服
かぶと  :いつもの額当て
たて   :なし
どうぐ  :ファンガスの切り身(黄)
      ファンガスの切り身(赤)
      野ばらのペンダント
なかま  :スライム

第08話 最初の街・ハジメノ

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