リア充が爆発することを
勇者は望んだ

第4話「勇者と共に」(前編)



















ケイン王子

ようやくだね、レイナ。
魔王を倒してから随分時間がかかっちゃったけど

レイナ

別に急ぐことじゃないし、ケインは頑張ってくれてたじゃないか。
王様だって、わかってくれた

ケイン王子

ああ……。少し不安だけどね。
父上、まだレイナのこと完全に信用してくれたわけじゃなさそうだから

レイナ

そういうこと、本人に言うなって、ししょーなら言うと思うぞ

ケイン王子

うっ……。
はは、それもそうだね





リリー

ケイン様、レイナ様。
警備の配置図が出来ました。
ご覧頂けますか?

ケイン王子

ありがとう、騎士リリー。

……うん、完璧だ。
さすがはリリー騎士団団長だ

リリー

も、元団長です。
すでに解散していますから

ケイン王子

そうだったね。
だけど、あの守護神リリーに警備を申し出て貰えるなんて、とてもありがたいよ

リリー

え?! そ、そんな呼び方やめてください

レイナ

どうして?
守護神リリー! かっこいいと思うぞ

リリー

こ、光栄です。
ですが、私はそんな大層なことをしたわけではありません!

レイナ

リリーは相変わらず堅いな。
もっと楽に話してくれていいのに

リリー

は、はい……

ケイン王子

レイナ、困らせちゃいけないよ

レイナ

あたしは困らせていないぞ?

ただ、リリーとは仲良くしたいと思ったんだ。
リリー騎士団と言えば、ししょーも認めていたからな

リリー

師匠というのは……勇者コード様、ですよね

レイナ

そうだ!

ああ、あとはコードが来てくれたらなぁ。
ケイン、まだ連絡は入らないのか?

ケイン王子

残念ながらね……。
結婚式の日程は国中にお触れを出したから、知らせを聞いていないことはないと思うんだけど

リリー

…………

レイナ

来て欲しいな……ししょー……

ケイン王子

そうだね……


















リリー

そう言ってケイン王子はレイナさんの肩を抱いていました

勇者コード

なぁその報告必要か?




 結婚式のお触れが出てすぐに、リリーには警備を申し出てもらった。
 元リリー騎士団の団長という肩書きのおかげで、それはあっさり受け入れられた。

リリー

これが警備配置図の写しです

勇者コード

お、さすがだな。騎士団長


 俺は受け取った警備配置図を確認する。
 もちろん、本来なら門外不出、いくらリリーでも持ち出せないはずだが、リリー自身が作成しているのだから写しを作るのは容易い。

リリー

警備に穴はありませんが……この客間を進入路にしてもらえば、私が一人で警備する場所を通って会場に潜り込めます

勇者コード

なるほど、完璧だな。
助かるよ、リリー


 これで余計な魔法を使わずに侵入ができる。
 あとはその後の作戦を詰めるだけだ。
 リリーの潜入のおかげで作戦の幅がだいぶ広がった。

 これで、俺が心配していたあの件も、なんとかできるかもしれない。

リリー

それにしても……お二人とも、すごく良い方ですね

勇者コード

まぁ……な

リリー

そして……本当に、どこでも、その……周りが見えない状態になるのですね




勇者コード

ハッキリと、イチャイチャするって言っていいんだぞ

リリー

……改めてコードの気持ちがわかった気がします



 あいつらがカミングアウトしたのは、魔王を倒し城に戻る途中のことだった。

 俺が唖然としているのを他所に、2人はイチャイチャし始めやがった。
 そのため帰りのことはあんまり覚えていない。覚えていたくなかった。



勇者コード

そういえば、警備長になったんだよな。
さすがにリリー騎士団のように女性ばっかりにはできなかったと思うんだが、大丈夫なのか?

リリー

殆どが男の方ですね。
緊張しますが、昔ほどではありません。
指示を出すくらいのことはできています。

……鎧を着込んでいるからでしょうか?

勇者コード

いや鎧は関係ないと思うが……。

男性の苦手意識が無くなってきたってことだろ?
だったら理由は別にいいんじゃないか?

リリー

うーん……。
それもそうなのですが


 リリーはたまに、頭が固い時があるな。
 理由もなく突然ふっと克服できてしまうこともあるだろうに。



勇者コード

さあ、それより作戦を詰めるぞ。
3日後の本番まで顔を合わせられないからな

リリー

はい。

……あの、コード。
一つ聞いておきたいんですが

勇者コード

ん? なんだ?
質問は一つと言わずいくらでもしておいてくれ。
本番で迷いは禁物だからな




リリー

…………。
いえ、作戦外のことですし、やはりいいです。
作戦を詰めましょう

勇者コード

ん……? そうか?
じゃあ潜り込んだ後の確認からいくぞ


 リリーの態度は少し気になったが、話をできる時間は限られている。

 結局リリーが城に戻るギリギリの時間まで、作戦のことしか話ができなかった。

















 ケイン王子、そして仲間の魔法使い、レイナ。
 2人の結婚式はそれはもう盛大に行われた。

 まず馬車に乗って城下町をぐるっと回るわけだが、当然町はお祭り騒ぎ。
 ここで爆発を起こしてもよかったが、パニックによる二次災害を考慮して却下だ。
 さすがに保護魔法で守りきれない。
 町の人が怪我をするのは本意ではない。

 馬車は再び城に戻り、中に入っていく。
 国内の町の町長や名士を城に招き入れ、披露宴が行われる。
 町の人たちは城の前の広場に集まり、バルコニーで愛を誓う2人を見ることができる。

勇者コード

もっとも、その前にすべて終わらせるつもりだけどな


 作戦通り、俺は客間の窓から城に侵入する。
 鍵は予めリリーが開けておいてくれたため、難なく入ることができた。

 俺は素早くドアに駆け寄り、そっと開いて廊下を確認する。
 時間的に、すでに来賓は会場に移動している。この辺りには誰もいない。
 ここと会場を結ぶ廊下に、警備のリリーがいるだけのはずだ。

勇者コード

よし。
……リア充爆発作戦、開始だ


 俺は廊下に滑り出て、音を立てずに走り出した。












 披露宴会場へと続く扉の前でリリーの姿を発見し……俺は慌てて柱の影に隠れた。



リリー

――――

衛兵

――――




勇者コード

なんだ? 誰と話しているんだ?


 一人のはずのリリーが、鎧を着た衛兵の男と話をしている。

 状況がよくわからないが、リリーは手を振ってなにかを断っているように見えた。

勇者コード

なにかしら想定外のことは起きるだろうと思っていたが、会場に入る前とはな


 男はこっちに背を向けていたため、俺はリリーに向かってそっと手を振る。
 リリーはすぐに気付き、とても困った顔を見せた。

リリー

…………







勇者コード

この状況……まさかあの衛兵

勇者コード

……ナンパか!


 リリー騎士団の団長だ、憧れていた衛兵がいてもおかしくはない。

 けど、なにもこんな時にするなよ!


勇者コード

兵の指導がなってないぞ、ケイン!



 俺はスッとナイフを構え、柱から飛び出す。

 こっちを見ていたリリーからも見えないように身を屈め、素早く衛兵の背後に迫る。

勇者コード

くそっ……リリーをナンパするなんて100年早いんだよ!


ガツン!

衛兵

ぐっ……


 ナイフの柄で当て身。

 気絶して倒れる衛兵を魔法で支え、音が出ないようにゆっくりと横たわらせる。




勇者コード

ふう……

リリー

コードっ。
大丈夫なのですか、ここで衛兵を気絶させてしまって

勇者コード

仕方ないだろう、このままじゃ間に合わなくなる。
ったく、しつこいナンパだったな




リリー

え? ナンパ、ですか?

勇者コード

……違うのか?
ナンパされて困っているように見えたんだが

リリー

この方は、ここと会場の中の警備を代わるように言われて来たのです。
どうやらケイン王子とレイナさんの計らいのようです

勇者コード

……え? あ、ああ、そういう……

リリー

困っていたのは確かですけどね



勇者コード

まぁ、そうだな……。

そうか、ケインのヤツ余計なことを


 折角の式をリリーにも見てもらいたかったてことか?
 まったくもって紛らわしい……。

勇者コード

とにかく気絶させてしまったものは仕方がない。
こいつは柱に隠して、リリー、会場に急ぐぞ

リリー

そうですね、わかりました。

……ち、ちなみに、準備期間中に何人かにナンパをされましたが、すべてお断りしました

勇者コード

……そうか

リリー

男性は……その、やっぱり苦手ですから

勇者コード

……そうだったな

リリー

でも……コードは、別です。
おそらく、コードのおかげで、少し慣れたんだと思います。
緊張せずに、きちんとお断りすることができましたから

勇者コード

それは……その、なによりだな

リリー

は、はい……





 ……なんだ、この空気。

 俺は妙な空気を変えるためにも、黙って衛兵を引き摺って柱の陰に隠す。

 そして会場に足を向けようとして……



リリー

あの、コード。

やはり……実行するのですよね?





 リリーの言葉に、その足を止める。

勇者コード

……なんだよ、あの2人の近くにいて、情が移ったのか?

リリー

いえ、そういうわけではないんです。
ただ……

勇者コード

ただ?

リリー

…………


 先を促しても、リリーは黙ったまま、答えようとしない。




勇者コード

……はぁ。わかったよ。

リリー、ここから先は俺一人でやる。
リリーは会場にいるだけでいい

リリー

え……そんな、どうして

勇者コード

作戦に不確定要素を入れるわけにはいかない。
俺の動きも変えなければいけないが、仕方が無い。

ここまで協力してくれただけでも、ありがたく思わなきゃな

リリー

待って下さい!
私はそんなつもり言ったのではありません。
ただ……

勇者コード

ただ……なんだ?
その先を言ってくれないなら、俺は一人でやる。
どうする? もう時間がない、早く決めてくれ





リリー

……わかりました。
でも、続きはすべてが終わってから話します。
もちろん、作戦はきちんとこなします。

……騎士として。
勇者の仲間として、誓います


 すべてが終わってから?
 作戦を止めたいわけじゃないのか?

 リリーの目は真っ直ぐだ。
 そもそも彼女は、そんな嘘がつけるような性格ではない。

勇者コード

……わかったよ。
一体なにを言うつもりかわからないけど、作戦に協力してくれるっていうその誓い、信じるよ


 俺たちはそれ以上なにも言わず、共に会場へ向かった。




…中編に続く

第4話「勇者と共に」(前編)

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