リア充が爆発することを
勇者は望んだ

第3話「勇者の試練」(後編)



















リリー

そ、そうなんですか?
ケイン王子が……魔法使いと……

勇者コード

まだ公にはなっていないが、本当だ



 町で一番賑わっている酒場の片隅で、俺はリリーと向き合って食事をしていた。
 片隅と言っても料理の数がもの凄いためテーブルを3つ占拠しているが。

 そして、魔王を倒した勇者一行の間になにがあったのか、一部レイナの出生を除いて全部話してやったのだ。


リリー

魔法使いのレイナさん……そんな思わせぶりな態度をしておいて、酷いですね

勇者コード

ま、まぁ……勘違いした俺も悪いんだが

リリー

ケイン王子も、酷いです。
レイナさんと勇者コードのこと、見ていたはずなのに

勇者コード

あいつは天然だからな。
頭良いくせに鈍いんだ。

……俺のこと、勇者とか付けなくていいぞ。
コードで構わない

リリー

そうですか?
わかりました、コード


 リリーはそう言うと、好物なんですと言って注文した赤サソリの激辛チャーハンを丁寧なスプーン捌きで素早く口にかっ込んでいく。

勇者コード

なぁそれ、そんな一気に食って辛くないのか?

リリー

はい。これくらいなら大丈夫です。余裕です。

……そういえば、勇者コードはお酒が飲めないという噂を聞いていましたが、本当なのですね

勇者コード

そんな噂が流れているのか?

……旅の間に飲まされたら酷いことになったからな。もう二度と飲まない。
酒を飲むくらいなら飯を食う

リリー

あ、それは私も同感です。
私もお酒苦手なんですよ


 テーブルを3つ占拠している料理の内、10人前は俺の頼んだもので、残りの5人前はリリーが頼んだ料理だ。
 酒場なのに酒を飲まず大量の料理を頼むおかしな2人組になっていた。

勇者コード

しかしこれで、強いヤツは食うと実証されたな






リリー

それより、今はコードの話です。

あなたが世のリア充を呪って爆発させると考えるようになったその気持ち、わかる気がします。
私も同じ立場なら同じ事を考えたと思いますから

勇者コード

そ、そうか。
思ったより過激なんだな


 もう洗いざらい話してしまった方が、見逃してもらえるだろうと考えたんだが……。
 なんだか思った以上に共感されてしまったようだ。


 ……いいや、違うな。
 共感してもらえると思ったから、話したんだ。

 きっとそれは、さっきのリリーと同じで。

リリー

……でもそう思うのは、私がミカに似たようなことをされたからなんですね。
やっぱり、私たちは似ているようです

勇者コード

ああ、俺もそう思う


 リリーは食べる手を止めて、少しだけ俯く。

リリー

私、この町に来るまでずっと一人でした。
騎士になるため一人で修行をし、魔物と戦い腕を磨き、一人で野宿をすることだってありました。
それが普通でした。でも……



リリー

この町に流れ着いて、ミカと出会って、仲間が出来ました。
一緒に戦ってくれる、騎士団の仲間です。

……ですが、私はまた一人になってしまいました。
おかしいですよね、元に戻っただけなのに、私は今……





リリー

とても、寂しいんです






 顔を上げたリリーの表情は、とても切なくて、今にも泣き出しそうだった。



勇者コード

そう……なんだよな




リリー

え……?

勇者コード

なんでもない。

ところでリリー。
一人だと言ったが、リリーは恋人とかいないのか?

リリー

い、いませんよ!
いるわけないです!

勇者コード

そうなのか?
リリー騎士団の団長ともなれば、引く手数多だと思ったんだが

リリー

そんなことはありませんっ。

それを言ったら、魔王を倒した勇者だって引く手数多のはずです

勇者コード

うっ……


 痛いところを突かれた。

 言われてみればそうなんだよな……そのはずなんだよな……。
 なんで俺一人旅なんてしてるんだろ……。



リリー

そ、それに私、男の人と話ができないんです。
とても緊張してしまって。

実は騎士団が女性のみだったのは、私が我が儘を言ったからなのです

勇者コード

そうなのか?

って……ん?

リリー

おかしいですよね? いいんです、よく笑われますから。

でも、男の人と並んで歩いたり、食事をしたりとか……もう想像しただけでダメなんです。
頭に血が上っちゃって……。
手を握るなんてとてもじゃないですができません。

こんな私に、恋人なんてできるわけがないじゃないですか

勇者コード

…………

リリー

…………

勇者コード

……なぁ、今、俺と食事してるよな?


 ついでに言えばここに来る時、並んで歩いていたんだが。

リリー

はい、そうですが……?






リリー

………………………………!!

きゃっ


 リリーはボンッと一瞬で顔を真っ赤にし、慌てて立ち上がろうとしてテーブルに膝をぶつけ、バランスを崩して盛大にひっくり返った。



リリー

いたた……

勇者コード

お、おい! 大丈夫か?


 俺はテーブルを回り、倒れたリリーに手を差し伸べる。

リリー

うぅ……すみません。
ありがとうございます


 リリーは俺の手を取って立ち上がると、椅子を直して周りの客にぺこぺこと頭を下げている。
 俺はため息をついて席に戻るが……。

勇者コード

……今、手も握ってしまったな


 言うとまたぶっ倒れそうだから黙っておこう。





リリー

……お騒がせしました

勇者コード

いや……まぁ。

それよりも、若干ショックだったが

リリー

え? どういうことですか?



勇者コード

どうやら俺は男として見られていないみたいだからな

リリー

……あ! い、いえ!
そそそそ、そういうわけではないんです!


 リリーはそう言うとまた顔を赤くして、ぶんぶんと手を振る。

リリー

でも……そう、ですよね。不思議です。
おかしな出会い方をしたからでしょうか?
それとも勇者として見ていたからでしょうか?
緊張せずに話ができています

勇者コード

……たぶん前者じゃないか?


 爆発事件の犯人として接していたからだろう。

リリー

かもしれませんね。もしくは両方です。

……でもその後は、コードを信用できたからだと思います

勇者コード

あ、ああ……





勇者コード

そんなこと、しれっと言わないでくれよ……



 どうやらリリーは、レイナと違った意味で世間知らずのようだ。
 純粋で、他人に共感できる感性を持っている。



勇者コード

リリーはどうして、騎士になろうと思ったんだ?

リリー

えっ?! と、唐突ですね……


 彼女のような人間が、どうして前線で戦うことになる騎士になろうと思ったのか、気になったのだ。

リリー

そうですね……ちょっと、話しにくいのですが……

勇者コード

うっ、そうか。

話したくないことは、誰にでもある。
無理に話さなくてもいいぞ?

リリー

あ、違うんです。
その、勇者にお話するのは躊躇ってしまう内容でして

勇者コード

……勇者に?

リリー

はい。

……実は私が騎士になろうと……強くなろうと思ったのは


 そこでリリーは、キッと表情を引き締める。



リリー

魔王を、倒そうと思っていたからです




勇者コード

なっ……ま、魔王を?

リリー

はい。剣の腕を磨いていたのは、魔王を倒すためでした




勇者コード

……あー、それは


 ……その目標の魔王を倒してしまった身としては、少々気まずい。
 確かに勇者の俺には話しにくい理由だった。

リリー

……いいんです。
私が強くなるのが遅かった。
この町を守るので精一杯で、魔王討伐に出ることができなかった

勇者コード

…………

リリー

魔王は、勇者コードに倒されてしまった。

……でも、それならそれでいいんです。
世界は平和になりましたから。

ふふっ、目標を果たせなかったのは、少し悔しいですけどね


 少しだけ力なく笑うリリーを見て、今度は俺が表情を引き締める番だった。


勇者コード

リリー。魔王がいたころ、俺たちはこの町を訪れたことがなかった。
それは何故だと思う?

リリー

え? 確かに、勇者一行が来たという話は聞きませんでしたね。
……どうしてでしょう?



勇者コード

この町が安全だったからだ。
リリー騎士団に守られていたからな

リリー

えっ……

勇者コード

そのおかげで俺たちは、この町を、後ろを気にせずに魔王に挑むことができたんだ。
だから……


 俺はリリーの顔をじっと見つめる。




勇者コード

騎士リリー。
あんたも魔王を倒した仲間の一人だよ





リリー

……っ!
コード……



 きっと、ケインやレイナも同じことを言うはずだ。

 リリーは目をぎゅっと瞑り、ぶんぶんと首を振る。
 光り輝くなにかが飛び散ったように見えた。


 ……もう、迷う必要はないな。

勇者コード

そんな、仲間のリリーに、お願いがあるんだ

リリー

えっ、こ、今度はなんですか?


 リリーの声が少しだけ上擦っているが、気付いてないフリをして話を進める。


勇者コード

リリー。
俺の計画に、協力してくれないか?

リリー

け、計画、ですか?

あっ、爆発の……?

勇者コード

そうだ。
俺の目的はただ一つ

リリー

リア充を爆発させる……。
で、でもそれは

勇者コード

厳密には違うぞ。

……そうだな、もう町の人を爆発させたりしないと約束しよう


 もう調整は完璧だ。練習の必要も無いだろう。

勇者コード

俺の望みは、ケインとレイナ。
あの2人を爆発させることだからな

リリー

……!

そ、そうでしたか……いえ、よく考えれば当然の話でしたね


 別に世のすべてのリア充を狙っているわけではない。
 ……本当だぞ?

勇者コード

さっきの俺の話に共感してくれたのなら……是非、協力して欲しい。

……いや。騎士リリー。





勇者コード

俺と一緒に戦って欲しいんだ




 一緒に戦う。

 魔王を倒そうとしていた騎士を誘う言葉は、こうでなくてはいけない。

リリー

コード……


 リリーが俺のことを見つめ、そして……ふっと、笑顔になる。





リリー

わかりました。勇者コード。
私はあなたと共に戦いましょう






 リリーも意図に気付いてくれたのか、そんな風に答えてくれる。

 俺は思わず笑みを浮かべた。

勇者コード

ありがとう。
助かるよ、リリー

リリー

いいんです。さっきも言った通り、気持ちわかりますから。

それに、あなたの爆発魔法は誰も傷つかないんですよね?

勇者コード

もちろんだ。あとで説明するが、保護魔法と組み合わせていてな。
調整は完璧だから、そこは安心してくれていい

リリー

はい、信じています。

……ですが、どうやってあのお二人を?



 ケインとレイナ。
 普段は城にいるであろう、あの2人をピンポイントで狙うのは難しい。

 実はさっきが一番のチャンスだったが、俺が冷静になることができなかった。


勇者コード

あの状況で計画を実行するのはリスクが大きかったからな。だが……


 代わりに、有益な情報を得ることができた。



勇者コード

実は城に入り込む方法が、一つあるんだ

リリー

城に……。

そんなことができるんですか?


 少し待たなければいけないが、それでも確実な方法がある。




勇者コード

ケインとレイナ。
近いうちに開かれる、二人の結婚式を狙うぞ





…続く

第3話「勇者の試練」(後編)

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