これはあなたの元にやってきた、
地獄の使いです。
これより三日以内に、文面を変えずに
三人に同じ手紙を送ってください。
文面を変えたり手紙を止めると、
あなたの元に地獄が届きます。
地獄に触れたくなければ、必ずこの通りにしてください。

　不幸の手紙。

　宛名も差出人も無しにポストへ投函した
僕の封筒を使って何故か自宅へ届いたこれは、
知っている内容とは少し違うものだった。

　僕が知っている都市伝説は、その名の通り
「不幸になります」を前面に押し出しているはずだ。
　地獄の使い、地獄が届く、地獄に触れたくなければ
なんて文は、どの検証サイトでも見たことがない……。

　ファフロツキーズ現象やロアに関わってから
そういうことを調べるようになって、不幸の手紙が
送られてきた時もインターネットで検索した。

　不幸の手紙に有効なのは、やはり
誰にも送らず留めてしまうことらしい。
馬鹿正直に他人へ回すから、被害がやまない。

　送り主が分かればそいつに送り返したり、
呪詛返しなんて危ない方法もあるが……今回は
僕の封筒で来ているからそんなことは出来ない。
堂々巡りになってしまう。

　留める……ロアに対面したときに思いつけば
良かった。それなら不幸の手紙が送られてくることも、
悩むことも無かったのに。

　それから一週間。
　結論から言うと、僕はだいぶ後悔した。

　僕の住んでいるところはマンションの七階で、
一階のオートロックの外に集合ポストがある。
　銀色の窓付き戸を特製の鍵で開けるタイプだ。
窓は指が根元で突っかかるぐらいの細さ。封筒なら
入るけど、固形物なんか入れられない。

　入れられないはずなんだ。でも、ポストを開けた
僕が見たのは……ごろりとした何とも言えない色の、
正二十面体。ソフトボールくらいの、一目見ただけで
そこにあるのがおかしいと分かる……置物だった。

　僕はこれを知っている。正しくは聞いたことがある。
　精巧な動物の形に何度も姿を変えるパズル。一度
触り始めると昼夜問わず熱中し、常に考えているほど
他のことが手につかなくなってしまう玩具。

　……凝縮された極小サイズの地獄。地獄の門。
　その名を、「リンフォン」。

　……また、その通りになってしまった。

これはあなたの元にやってきた、
地獄の使いです。
これより三日以内に、文面を変えずに
三人に同じ手紙を送ってください。
文面を変えたり手紙を止めると、
あなたの元に地獄が届きます。
地獄に触れたくなければ、必ずこの通りにしてください。