誰にも言えなかった。

誰かに言えば、僕がロアを持っていることが
たちどころに広まる。そうなったら警察やマスコミに
取り上げられ、『10までしか人に教えてはいけない』
という約束は守れない。

 匿名掲示板の公開者はロアを公表したから
徐々に言動がおかしくなり、現実となにかの境目が
おかしくなって消えてしまったんだと思う。
 きっとそうだろう。

 ……そう。ロアの扱いを間違うと現実が
おかしくなるのだ。僕らの街のように、魚や看板が
降ってきたりなど。

 だから、僕が解決しなきゃいけないんだ。
 この、僕が。

 まず思いついたのは、ロアをひとつ追加して
住所を知っている誰かに送ってしまうこと。

 しかしこれは出来ない。僕が住所を知っている
友達やなんかは僕の字を知っているし、ロアに対して
責任が取れるとは到底思えない。
 架空請求サイトのURLを踏んでしまったら
半泣きで連絡してくるような奴らばっかりだ。

 中にはオカルトに詳しいのもいるかもしれないが、
少なくとも僕には誰がそうなのかはわからない。
 みんな臭いものには極力知らん顔をして生きている。
 べったりと魚が張り付いて腐敗した道路を何事も
なかったように素通りする、誰だってそうだ。

 次に思いついたのは、公開者と同じで
匿名掲示板に書き込んでしまうこと。

 10以上のロアは書き込めない。けど、
ギリギリ10まで内容を晒し、受け取りたい人を
募るという方法なら出来る。

  でもこれも駄目だった。匿名掲示板がゆえに
相手が晒した住所は不特定多数の人に見られる。
 会員制のメッセージが送れるようなソーシャルサイト
に誘導しようとすると怪しまれる。
 そもそもそういうサイトで募った場合、何かあったら
登録情報からこっちの身元が特定されてしまう。

 それに、「都市伝説を渡します」という文句に
釣られてホイホイ住所を教えてくるような見知らぬ
人間が信用できるかもわからない。
 この案も実行する前に考えるのをやめた。

 僕がロアを受け取ってっから十日経っていた。
特に身の回りに異変は無かったし、ちゃんと学校にも
通っていた。友達が減ったり教科書の文字が消える
なんてこともなく、ロア通りの怪異が起こる以外は
本当に普通だった。

 ロアには個人名や特定の場所が書いてある
ことが多く、確かめようのない小さい事件もある。
 足を運んで確認するのは難しくなかった。何故か
僕の周囲、僕の住んでいる街で起こることばかりが
まとめられていた。

 時には路上で動物が変死していたり、人が
発狂していたり、いきなり水道管が爆発したり、
工場が燃えたり……僕が巻き込まれることは
なかったが、街は混乱してやまない。

 ニュースで変な格好をした人が何の予言だとか
真剣に話し込んでいた。
 そんなんじゃないのに。これは僕の手元にある
都市伝説のせいなのに。

 僕はコンビニに行って、ロアのコピーを取った。
そして、元々送られてきた方に一節書き加えて
ポストに投函した。

 宛名は無し。差出人も無し。これなら郵便局に
回収された段階で留まり、誰かが開けてくれる。
そしてそれを見た人が……あるいは人たちが、
僕の代わりに被害をこうむってくれるわけだ。

 名案だと思った。すぐに実行した。
 コピーを取ったコンビニで封筒を買って、ロアの
原本を突っ込む。剥離紙を剥がして両面テープを
くっつけ、切手も貼らずに備え付けのポストに
入れた。店員が変な顔をしていたけど無視した。

 この話にはまだ続きがあって。

 ある朝、学校に行くついでに確認していこうとした
僕の視界に飛び込んできたのは、自室の番号が
書かれた集合ポストの穴に半分入った封筒だった。

 白い、両面テープが備わっているタイプの封筒。
僕が数日前、コンビニのポストに突っ込んだものと
同じだ。

 戻ってきたんだと思った。

 けど、実際はそうじゃなかった。ロアは僕の書いた
ロアまで忠実に再現したのだ。正直言って最悪だった。

 そんなんじゃないのに。
 ただの皮肉のつもりだったのに。

信じようと、信じまいとー

ある少年のもとに一通の手紙が届いた。内容は
不気味な御伽噺と、わずかな注意文だけ。彼はそれを
宛先も差出人も書かずに投函した。数日後、同じ封筒で
返ってきたそれには、不幸の手紙が入っていた――

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