それまでじっとだまっていたアイリスが、そっと俺の手を握る。
それまでじっとだまっていたアイリスが、そっと俺の手を握る。
……ありがとう
すんと鼻をすすって、こちらを見上げる。
まるで、姉の真似をしているようで、俺は思わず笑っていた。
いろいろごめんな。びっくりさせて
ううん……お母さん、用事があるって出掛けて……今日のお食事の準備だと思うんだけど、でも、お姉ちゃんがいてよかったし、勇者のお兄ちゃんがいて、もっとよかったよ
それはなによりだよ。
二日後までは、かならずいるから
目をこすりながら、アイリスはいやいやをするように首を横に降る。
もっといればいいのに。お姉ちゃんも、そう言ってたよ
約束しちゃったからな
じゃあ、また戻ってきてよ
アイリスが、俺を見上げて、握っていた手を強く握りなおす。
お姉ちゃん、勇者のお兄ちゃんのこと、すごく好きだよ。
久しぶりに短い名前教えたって言ってたよ、お兄ちゃんは、お姉ちゃんのこと、好きじゃないの。
好きなら……
アイリス
名を呼ぶことで言葉を制止すると、アイリスがくしゃりと顔を歪ませた。
ごめんなさい、お兄ちゃんも、いろいろあるのに、アイリス……
俺こそごめん、はっきりしなくちゃいけないのは、わかってるんだけど
ううん、いいの。
お姉ちゃんに怒られる、アイリスはわがままばっかりだから
子どもはわがまま言っていいんだよ
そうなの?
うん、と頷くと、アイリスはぱっと明るく微笑んで、じゃあそうすると白い歯を見せた。
じゃあ、アイリスびっくりしたから眠る!
わがままでしょ
あはは、そうだね、寝ればいいよ
うん。また今日も、パーティーかなあ!
くるくるとまわりながら、じゃあねとアイリスはリビングから出ていった。
取り残された俺は、今自分がしなければならないことについて考えていた。
部屋に戻ろう、サンザシ。
この物語が何なのか、はっきりしないと……どの選択肢があってるのか、分からない
部屋に戻り、ゆっくりと考察する。
おそらく、この物語のクリア条件は、誰かと結ばれること……婚約者探しって前提があるから、当たり前だよな
サンザシはふんふんと頷くだけだ。
彼女の基本スタンスは、謎解きのときは相づちをうつだけ。
その相づちだけ、という行為が、しかしありがたかった。
誰かに聞いてもらうと、頭のなかすっきりと整理されていく。
出会った人は、魔法使いのオルキデア、剣士のジャスミン、お嬢様のロッサ、ジャスミンの妹のアイリスはきっと除外対象だ……それに、ルキを探していた剣士の一人も、関係が浅いから除外だと仮定する。あとは、女王様、か
仕事に一途な
そうそう。
おそらく俺は、この中の誰かと結ばれなきゃいけない……でも、わからないから、次は時系列整理。出会ったのはさっきの順番で……あとは場所かな。
原っぱ、レンガの町、お屋敷、そしてここの雪山、今後は花の国……今までの物語から考えて、場所はそれほど関係ないと思うけど、一応
うーん、整理整頓したところで、ヒントのひとつも出てこない。いや、ヒントはありすぎるほどなのだ。
今までのものに比べて、たくさん移動して、たくさんの人と出会っている。
しかし、決め手に欠けているのだ。