ミンは一瞬考えたあと、まさか、と漏らす。
ミンは一瞬考えたあと、まさか、と漏らす。
こいつに、こいつに……?
置いていかれていた俺も、一歩遅れて、ぎょっとする。
わたくしは、女王様の幸せのためなら、なんだっていたしますの
結婚をいやがる女王様が俺に会いたいって、つまりは。
もちろん、結婚のお手伝いもいたしますことよ
いや……え……?
いったいセイさんはなにを吹き込んでくださったんだ?
結婚をいやがっている女王様が、俺と会いたいって、つまりはそういうことだ。
でも、セイさんがからんでくることだ、まず行って間違いはないように思えるが……しかし。
あと三日……いや、二日か。待ってくれませんか
アキ……
ミンがため息をつくように小さな声をもらしたあと、俺の目をじっと見つめた。
その赤い視線に、俺はこくりと頷く。
まず、あなたのことをよく知らなくてごめんなさい……俺は、本当に世間知らずなんだ。
でも、約束は守ります。
あと二日は、とりあえず、ここから出ることができません。
俺は、この吹雪が終わるまではここにいるって約束したんです。それが終わってから……そのことを、考えてはいけませんか
ルキは虚空を見つめながら、そうですか、とつぶやいた。
女王様に、そのままの言葉をお伝えいたしますわ……すぐにでも会いたいようでしたけれど、約束を守ることは当たり前のことです……
ルキは、俺を見つめて、悲しそうに笑った。
女王様のことが大切ですが、しかし、あなた様のお手伝いをするという約束もまた、大切に思っておりますの……わたくしは、あなたにもよかれと思って、ここまできていますのよ
ルキの傷が治りかけていた。紫色の光が強くなる。
そのことを、どうか、どうか……
光が、彼女を包み込む。
どうか……お忘れなく
光に包み込まれたルキは、ふわりと、まるで最初からいなかったかのように、消えた。
……アキ、ありがとう
ミンが、俺を覗き込んだ。今にも泣きそうな表情をしている。
いいよ……そんな
女王様からの求婚だって、すぐにでもいっちまうって、私、思ったんだよ。
でも……そんなこと、しないんだな。
本当に、アキがいると助かるんだ……お前は村ひとつ救ったよ。本物の勇者だな
……約束は、守るべきなんだよ
そうか、とミンはふっと微笑んだ。
その瞬間に涙がほろりとこぼれ落ちるが、とくに恥ずかしがる様子もなく、ゆっくりとそれをぬぐう。
俺はそんなミンを、ただじっと見つめるだけだ。
女王様のところに、行くのか?
すんと鼻をすすって、ミンはこちらに目をやる。
……行くよ
花の女王は、仕事熱心の独り身主義だって訊くぞ。愛されないかもしれない
会ってみないと、わからないよ
……そうだな、わるい。ごめん
なにがわるいのか、なにがごめんなのか。
問う間もなく、彼女はゆっくりしてくれ、と言って部屋の奥にひっこんでしまった。