言葉も選んでいないまま、それでも沈黙に耐えられず、口を開きかけたそのとき。

 ドアが勢いよく開き、ミンが部屋に入ってきた。

お前の言ってた魔法使いって、オルキデア様だったのか?

え……?

ばかやろう! 世間知らずも大概にしろよ! 

あのオルキデア様だったのか! 

紫色の髪の毛の、黒い服で全身を覆った!

そう、だけど

花の王国の第一魔法使いじゃねえかよ! 

とにかく……来い! ばかやろう!

 ぐいと手を引っ張られ、つれていかれたのはリビングだ。

勇者のお兄ちゃん!

 アイリスが目を真っ赤にしながら叫んだ。

あのね、さっきね、ここで本を読んでいたらね、このお姉ちゃんがね……!

 言いながら、わんわんと泣き出してしまう。

アイリス……びっくりしたよな

 俺だって、びっくりしているのだ。

 リビングのソファに、全身傷だらけのオルキデアが横たわっている。

 彼女を包み込むように、紫色の光がふわふわと浮かんでは消えていた。

ルキ……!

 俺は駆け寄る。こいつほんとうにみさかいがない、とミンが呟いていたが、気にしない。

ああ……アキ様。申し訳ございません……すべて、お聞きになりましたでしょう?

 ルキは力なく微笑むと、手をゆっくりとさしのべてきた。俺はその手をとり、膝をつく。

しゃべらないで……どうしたの、こんな傷で……

傷はすぐに治りますわ……ふふ、少しあばれてしまいましたの。

先ほどお会いした……あのふたりと、意見が食い違いましてね……バトルバトルですことよ……わたくし、もう少しで勝てましたところを……女王様に止められてしまいまして……

 ルキがふう、ふう、とちいさく息を整える。

大丈夫じゃないじゃないか

いえ……いえ、伝えなければなりませんの……女王様が、あなたにお会いしたいと

俺に?

ええ……銀の髪の方から聞いた、と言えばわかるそうでございますね……

銀の……!

 
 セイさんのことだ!

 右にいるサンザシに、思わず視線をやる。サンザシも驚いた表情でこちらをみつめていた。

 あの人が、こんなところで関係してくるなんて。

 ゲームマスターは相変わらずやりたいほうだいなのかもしれない。

女王様は、この傷のままわたくしをここへ……とばしましたの、こちらのほうが……同情をひけるだろうって。

酷い方です……ふふ、豪気でいらっしゃる……でも、素敵な方ですのよ。

アキ様、どうぞ、花の国へ……行きませんこと

勝手すぎるだろうが

 ミンがどなるように言って、ずいと俺の左隣に座る。

あなたが行方不明になっていたのは知っていた。

噂話だが、名誉ある第一魔法使い殿が、婚期の近い女王様を守るためにストライキだそうじゃないか。

結婚をいやがる女王様を守るために、名誉もなにもかも投げ出すその忠誠心、感服の思いだ。

しかし、女王様の命令だったら、何でも聞く、人の都合もお構いなしに。

それは勝手でしょう、魔法使い殿

 言ってやったぞとばかりに、ミンはふんと鼻を鳴らした。ふ、とルキはちいさく笑って目を閉じる。

確かに……言いたい放題であることは百も承知ですわ……でも、決めるのは

 きん、とやいばを向けるように、ルキはミンを睨み付ける。

決めるのは、アキ様です。

お分かりではありませんこと。


女王様がお会いしたいとおっしゃる意味が

3 あなたに捧げるその花の意味は(15)

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