いつものことだよ。珍しいことじゃない。

まさか魔法で脱出されるとは思っても見なかったけど、あと少し長引いてたら、私がなだめにいってたさ

いつものことなのか……

 バラの女王様に幸おおからんことを願うばかりだ。

怖いところはあるけど、いい子だよね、あの子

そう思うなら結婚してくれ

断る

誰か結婚してくれたら、私も楽になるんだけどな

 ミンが天井を仰ぎ見て、ふう、とため息をつく。

それか、誰かにもらってもらうか

 ため息の続きでもらしたかのように、ちいさくそう言って、ミンはちらりとこちらを見た。

いたずらっこのこどものように微笑む。

なんてな。

寝起きに長々と悪かった、なんかあったらいつでも呼んでくれ

 ミンが立ち上がり、じゃあなともう一度微笑む。その微笑みは、少し妖しげなそれで、俺はぎくりとしてしまう。




 小さな嵐が部屋から出ていくと、もう、とサンザシがベッドから立ち上がった。

なんですか、なんですか、なんですかあ!

なんですかはこっちのせりふだ、サンザシ!

だって彼女だって、彼女だって、崇様に短い名前を教えて、でも、あのお嬢様と結婚しろって言って、でも結婚してくれたらなとか、はっきりしなくて、もう、わたしは隣でやきもきしていましたよ!

 サンザシさんがいつになくハイテンションだ。

 若干なにを言いたいのかよく分からないので、整理整頓をする。

えっと、ミンも恋愛対象の自己紹介をしているのに、ロサとの結婚を示唆して、でも、俺に結婚……してくれたらな、とは言ってなくないか? 

誰かもらってくれたらなってだけで……

 俺の言葉に、サンザシは眉をつり上げ、口をぱくぱくさせている。

鈍感……そしてたらし……女の敵……私は崇様の新しい一面を見ました……いえ、考えてみれば新しくもない……

まてまてサンザシ、まてまて、いやいや、いや

ジャスミンさんは崇様に好意を抱いているようでした!

 頬を真っ赤にして発狂するサンザシ。もう、落ち着かないなあ。

もしこれも筋道通りなら、こんなラブコメみたいな童話、あったかな?

 あくまでも本意を忘れていないですよアピールをしてみるが、サンザシはつんとむこうを向いてしまう。

わかりません、しりませーん!

 なんだこの焼きもちやき。

ロサとのお見合いのときは楽しんでたくせに!

だってあの人は崇様の好みじゃなさそうだから!

俺の好みを知ってるのか!

 売り言葉に買い言葉のようなやりとりだったが、そこでふたりともはっと息を飲む。

あ……

 サンザシが唇を噛み締める。

 俺のことを、知っているのか。


 俺のことを、きっと彼女は知っているのだろう。それこそ、俺の好みの女性が分かるぐらいには。


 問い詰めるか? 迷ったが、俺はなにも言えなかった。

 俺が思い出したのは、先ほどの泣き顔だ。

 彼女に、涙は似合わない。俺が苦しくなるほどに、似合わないのだ。



 でも、次の言葉が出てこない。
 どうする、どうする。

3 あなたに捧げるその花の意味は(14)

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