どうも待たせたな!

ああよかった…無事に森を出られて

魔獣の子が神殿を後にしてしばらく、
少女と将校たちが待つ広間に、一人の男が乗り込んできた

その後ろから先ほどの魔獣の子が遅れて顔を出してきたので、連れてくると言った仲間はこの男で間違いないだろうと、将校は男を睨む

待たせるも何も、いきなり現れたんだろうが
怪しい二人組め…一体何しにここに来た

冒険者が<ブックマーク>をしに神殿に訪れるのはよくあることだろう

だが俺は<ブックマーク>をするために来たわけじゃない…
ここのブックマーカーに用があって来た

けど、話を聞けばブックマーカーを手にかけようとしている奴がいるそうだがな

……

男は、将校のそばで座り込む少女の姿を見つける
将校に剣を突きつけられながらも、微動だにしない少女もまた、男の姿をじっと見つめていた

しかし、将校は男と少女の間に割り入って、男に対峙する

ブックマーカーに用があるのは我々、王国兵士も同じだ
お前より先にここに来たんだ
冒険者ごときが早くに立ち去るがいい

あなた方の用に、私が相手するとでも?

なに…⁉

冒険者さん
私に用とは、一体どんなことなのか教えてくれますか?

少女は突きつけられた剣を避け
初めてその場に立ち上がると、将校の横から歩み出てきた

無論、俺はブックマーカーである君に<ブックマーク>を依頼しに来た
俺と一緒に魔王を倒しについて来て、俺の代わりに<ブックマーク>をして欲しい

な、なんだと⁉
何故お前がブックマーカーに依頼など…

……やっぱり

あなたは、<ブックマーク>の消滅の呪いを受けているんですね

そうだ、俺は自分で<ブックマーク>が出来ないでいる

<ブックマーク>を消滅させる呪い…!
まさかお前…⁉魔王に…!

はいはーい!
そのことについてはボクから説明します!

何もかも見抜いた様子の少女に
狼狽える将校

そこに魔獣の子が飛び出してきて、説明をしだした

この人は各地を冒険しては、その土地で困っている人々を助けてきた勇者です
ボクは付き人として、いままで一緒に冒険をしてきました

そしていま、眠っていたはずの魔王が再びこの世界で目覚め、この国のあちこちで瘴気が満ちてしまっています

勇者はもちろん、人々のために魔王に立ち向かうことを決めました

しかしこの人、意気込みはいいのにすごくドジで、本当は戦いには不向きなのに魔王に挑んだものだから、返り討ちにあってしまったのです…

そして目が覚めたら俺は<ブックマーク>の力を失い、この近くの森まで飛ばされていたんだ…

俺の呪いを解くためには魔王にもう一度会い、そして倒さなければならない

でもさっきも言った通り、この人すぐに死んじゃう上に<ブックマーク>が使えないから、全然先に進めなくて…
どうかブックマーカーに力を貸してもらえないかと頼みに来たんです!

ふざけるな!
ブックマーカーを連れ出したいのは我々も同じだ
誰がお前みたいなドジに渡すものか!

その私をいま殺そうとしたのにですか?

少女が言ったのに、将校はぐっと言葉が引っ込んで何も言えなくなる
そして、今度は持っていた剣を男へ構えた

大体、己の呪いを解くために魔王を倒すなんて理由…!
我々は王国を救うために魔王を倒すのだぞ!

何をいう
俺の呪いが解ければ俺はまた自由に各地を、安心して冒険できるんだぞ

そうすれば、俺がまた各地で困っている人々を救ってやれるんだ

お前らの代わりに魔王を倒して王国を救ってやるどころか、後に世界だって救うことになるんだ
俺の呪いを解くほうが、お前ら兵士よりよっぽどいい仕事すると思うけどな

言わせておけば…!

もう黙っておれん!
その癪に障る態度と減らず口、まとめてこの剣で斬ってくれる!!

激情した将校は剣を振り上げると、男に向かって斬りかかって来た
兵士たちに周りを囲まれ逃げ場のない男は、自分の剣を引き抜くと応戦する

――ガキィイイン!!

二人の剣が打ちあう音が神殿内に幾重にも響き渡る

接近した二人は睨みあい、男がニヤリと口角を上げ直後、将校の剣が力で押されて弾かれた

なにっ⁉

瞬時に飛び退き、将校は男から距離をとる
目の前には剣を構え続ける男がいる

どうやら、魔王に立ち向かおうとしただけの腕はあるようだな

だが!

――⁉

男は背後から忍び寄って来た兵士に襲い掛かられ、一瞬にして地面へと追いやられた

地面に伏した男を取り囲む兵士の中から将校が出てきて、押さえ付けられ惨めに動くこともできない男に剣を向ける

どうやら、相当な間抜けというのも本当らしい
随分と注意力が欠けるうえに警戒心がない
魔王に返り討ちに遭わされるのも納得だ

…そういえばお前、
死んだら森まで引き戻されるんだったな

ここから消えて
もう一度最初からやり直してくるがいい!!

勇者!!

わあーん!勇者ー!

将校の剣に斬られ、男の姿はその場から消滅した

魔獣の子が、男が消えた石床にへばりついて、わんわんと泣き声を上げていた――そのときだった

いてててて……あれ?

……え?

後ろにある広間の入り口から、ひょっこりと姿を顔を出したのは、将校に斬られたはずの男だった

何が…起こったんだ
死んだら森に戻るはずじゃ…っ

私です

全員が呆気にとられる中、少女が静かに口を開いた

私が、あの方の<ブックマーク>をしました

なんだと…!?

将校さん、私はやっぱりあなた方については行きません
私は外に行くなら、あの冒険者さんについていきたい

魔王を倒すのは、きっとあの方だろうと私は思います
だから、私はあの方たちの助けになりたい

王に伝えるといいのです、自分たちが弱かったのだと
そしてこの神殿から立ち去るのです!

こ…のっ!

少女の言葉に気圧されて、将校は黙っていられない様子だったが、
振り上げかけた剣を静かに引き下げると、踵を返し出口へと向かい始めた

部下である兵士たちは、急な立ち退きに狼狽えているようだったが、将校の命令に従い、ぞろぞろと引き上げていく

…好きにするがいい
…だが、この借りは覚えていろ
絶対にだ!

言い捨てて、将校たちは神殿から去っていった――

あとに残された三人は広間で立ち尽くす
少女がペタリと冷たい石の上にへたり込んだ

――ふう

お、おい大丈夫か?

はい
すみません私こそ…あんな勝手なことを

ああ、いや…
そういや、さっきは助けられたんだっけな

ありがとうな
おかげで森まで戻らずにすんだよ

いえ、私のほうこそ…

冒険者さんが、いままで色んな人々を助けてきたというのは本当なんでしょうね

あのとき来てくれなければ、私は殺されていたでしょうから

ありがとうございます

二人が笑いあって礼を言っていると
ドドドドド――と、
そばから駆けてくる音がして、

わあーん!
よかったです、よかったですよー!

どわっ!

ありがとうございます!
ありがとうございますうう!
おかげで勇者もボクも助かりました!

魔獣の子は男を突き飛ばした勢いで泣きながら少女に駆け寄り、何度も頭を下げた

本当に…本当に勇者ついて来てくれるんですか?

は…はい

もちろんです
私、ブックマーカーは、きっとあなたたちの役に立ってみせるでしょう

やったー!やりましたよ勇者!
ほらちゃんとお礼言って……勇者?

いてててて……

入り口から出直してきた…
また死んでたんだ…

…っぷ、くすくす

私…本当に冒険者さんたちが来てくれてよかったと思います

だって、この神殿に一人きりでいるのも飽きちゃって
本当は誰かいい人が連れ出してくれないかなって、思っていたんですから

――こうして男は自分の代わりに<ブックマーク>を行ってくれるブックマーカーを仲間にし、

男と少女と魔獣の子は、魔王を倒すための冒険に旅立つのだった。

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