信じようと、信じまいとー
ある海域で、例年より水揚げ高が少ない時があった。
まるで一帯から魚がいなくなってしまったかのように。
またある時、まったく別の街に無数の魚が降ってきたと
いう。その量は減った水揚げ高の分と同じだった。
信じようと、信じまいとー
ある海域で、例年より水揚げ高が少ない時があった。
まるで一帯から魚がいなくなってしまったかのように。
またある時、まったく別の街に無数の魚が降ってきたと
いう。その量は減った水揚げ高の分と同じだった。
街に起こった異変は、それが最初だった。
空から何匹もの、何種類もの魚が降ってくる。
ファフロツキーズという怪雨現象だそうだ。
原因は竜巻だったり鳥だったり、飛行機の積荷だったり
するらしい。そして、今回は竜巻により遠方のものが
巻き上げられてこっちまで来たのだとか。
テレビは繰り返しそれを報じたし、街も学校も
その話題で持ちきりだった。僕らは湿っていて
生臭い通学路に悩まされた。最悪だった。
魚だけにとどまらず、怪雨はたくさんの
ものを運んできた。蛙だとか、ワニ。こんなの
どこに棲んでるんだよ……っていうくらいの
生き物もバンバン落としてくる。生き物だけ
じゃなくて、屋根瓦や道路標識、お金なんかも。
そいつらは大抵勢いよく地面に叩きつけられる
ので、原型を保っていることは稀だ。でもその
稀の具合も色々あって、降ってくるそいつらに
当たって死んでしまった人もいる。
要するに、結構社会問題になってるってわけだ。
この話にはまだ続きがあって。
ある朝、頭上に細心の注意を払って
登校しようとしていた僕の目の前に、
上から降ってきたものがざっくりと突き刺さった。
それは駅の看板だった。
ピンクとか紫とか黄緑っぽい色のカビと
黒っぽい藻が絡みついて、ボロボロに錆びた
駅の看板だった。
『あやかり』。
ひらがなでそう書いてあった。あとで
調べたけど、そんな名前の駅は日本に
存在しなかった。
あやかり駅。その無人駅にありそうな
立て看板が僕の目の前――ちょうど
街の中心部に突き立った時から、
すべては始まっていたんだ。
信じようと、信じまいとー
『信じようと、信じまいとー』
これはロアと呼ばれる都市伝説のひとつだ。
自分のもとに封筒で送られてくる、何節かの
御伽噺。匿名掲示板が出自で、多くの人を
震え上がらせたという。
『信じようと、信じまいと―
この手紙にあなたの知るロアを一つ加えて、一人の人間
に送れ。そして、この中のロアについては10までしか
人に教えてはならない。 もしこれを破れば、あなたの
名前の載ったこの手紙がそのうち回りだすことになる。 』
これが最初の公開者がアップロードした
『原作のロア』内の一節。これを破って内容を
掲示板に書き込み続けた公開者は、ある日を
さかいにぷっつりと更新をしなくなってしまった。
そして、それを見届けた人、新たに見知った人は
自分で考えたロアを付け足していく。自分がロアを
繋ぐ者としてか、公開者の無事を願ってか。
さながらチェーンメールのような都市伝説だ。
……この話が何にどう関係してるのかというと。
僕のもとにも届いてしまったんだ。
数十節からなる、厳かで巨大な御伽噺が。
信じようと、信じまいとー
ある少年のもとに一通の手紙が届いた。内容は
不気味な御伽噺と、わずかな注意文だけ。
しかし、その日を皮切りに書いてあることが実際に
起こるようになった。街は元に戻るのか、はたして――