八百万の神々はオモヒカネに頼まれたものを持って、ぞろぞろと天岩屋戸の前へ集合した。


するとそこにはかがり火が焚かれ、中心に大きなオケをひっくり返した即席ライブステージが用意されていた。その後ろには演奏の得意な神々が座り込み、楽器のチューニングをおこなっている。


八百万の神々は、そのライブステージの周りに集まると、おもむろに宴会の準備をはじめた。


隣には常世の長鳴鳥(とこよのながなきどり) ・ ・ ・ つまりは、超うるさく泣き叫ぶニワトリが柵の中に大量に入っている。普段はうるさすぎて、迷惑な害鳥扱いされている常世の長鳴鳥だが、今日はみんなから期待の視線を送られ、なんだかいつもより偉そうだ。


その奥では力自慢のタヂカラオが、岩戸の影に隠れた。

タヂカラオ

スタンバイOKだ!

岩戸のナナメ前には、フトダマは飾り付けされたサカキの木を持って立つ。

フトダマ

この角度で大丈夫だよね??

岩戸の前では、コヤネが座り祝詞のスタンバイをした。

コヤネ

ゴホンッ

そして、最後にウズメがライブステージの上に登った。その姿を見て、周りで待機していた神々がざわつく。


ウズメはカヅラの葉を衣装に飾り、頭にはその花を挿している。かわらしい衣装だが、なんだか、角度を変えたらイロイロ見えちゃいそうで、かなりキワドイ。

ウズメ

ウズメ、いつでも踊れまぁす♪♪

と、オモヒカネに合図を送ると、そのキワドイ衣装の腰紐を、さらにグイッとギリギリまで下げ、手に持った笹の小枝をサラサラと揺らし誘うような音を立てた。


八百万の神々からは『おぉー』とマジ声が上がった。


これで、全ての準備が整った。


オモヒカネは小高くなった岩の上で全体を見渡し最終チェックをすると、神々に作戦開始の合図を送った。

オモヒカネ

みなさん、お待たせしました。
これから、『アマテラスを岩戸から出そう大作戦』を実行します!!

どうやら、ネーミングセンスは無いらしい。

オモヒカネ

チャンスは一度だけ。これに失敗すれば我々に未来はないでしょう。それぞれ事前にお伝えした通りに、よろしくお願いします。

・・・では、 常世の長鳴鳥から行きますよっ!!

オモヒカネ

うりゃっっ!!
騒いでくださいっっ!!!

常世の長鳴鳥はここぞとばかりに鳴き叫んだ。
続いてコヤネが祝詞を唱える。

コヤネ

・ ・ ・ かしこみ~かしこみ~
もまもお~す~~

祝詞を唱え終えると、ダンスミュージックが始まった。ウズメが曲に合わせて踊りを舞う。八百万の神々はそれを合図に乾杯し、ウズメのダンスを見ながらどんちゃん騒ぎ、大いに盛り上がった。


祝詞を唱え終えたコヤネは、ライブを近くで見たい気持ちをぐっとこらえ、1人でサカキの木を担いでいるフトダマの手伝いに向かった。

きゃーきゃー!!

ウズメたーん!!!可愛いー!!

大音量で演奏される音楽に合わせ、ウズメはステージの桶を足で鳴らしながら激しく舞った。ウズメの服が乱れ、乳房がチラつく度に、神々は歓声を上げる。

ちょ!見えた!今、見えたんですけど!!!

え、うそまじで?

一方、アマテラスは突然鳴り出した大音量の音楽と歓声に混乱していた。

アマテラス

・ ・ ・ ちょっ!えっ!?なに???みんな何で騒いでるの??このニワトリの声は?

外は真っ暗のはずなのに・・・私がいなくても朝が来たってこと?

大きな歓声が岩戸の中まで鳴り響く。

アマテラス

な ・ ・ ・ なんなのよ ・ ・ ・ 外で何が起こってるの???

・ ・ ・ ・ ちょっとだけ覗いてみようかな ・ ・ ・

アマテラス

いやでも待て ・ ・ ・ ・ あわてるな ・ ・ ・ これはオモヒカネの罠だ ・ ・ ・ ・ ・ ・

そう思いながらも誘惑に勝てなかったアマテラスはピシャリと閉めていた岩戸をゆっくりと静かに開いた。しかし、まだ警戒心を解いた訳ではない。声がやっと通るくらいの隙間にとどめた。


それを見たオモヒカネは岩戸の裏に隠れているタヂカラオに、まだ待つよう合図を送った。

アマテラス

ね、ねぇ ・ ・ ・ ちょっと、誰か??なんで、みんなこんなに騒いでるのよ?

ウズメはダンスを踊りながらアマテラスに理由を伝えた。

ウズメ

あのね、アマテラスちゃんよりもスッゴーイ神様が現れたから、嬉しくって、楽しくって、みんなでお祝いしてるんだよぉ♪♪

アマテラス

えっ ・ ・ ・ そうなの??

自分から閉じこもったものの、予想外の展開に、アマテラスはちょっぴり傷ついた。岩戸がまた少し開く。今度は、アマテラスの光が通るくらいの隙間だ。


このタイミングを待っていたフトダマとコヤネは、サカキの木をアマテラスに向けた。すると、サカキの木に飾った八咫鏡がアマテラスの光を受け、たくさんの八尺瓊勾玉が反射しあい、あたり一面がキラキラとミラーボールのように輝いた。

美しく飛び散る光に八百万の神々は一層盛り上がる。

アマテラス

眩しっ!!!綺麗な光 ・ ・ ・ ・ 私よりずっと素敵な神様なのね。みんなすごいハシャギようだもん。

私がヘコんで引きこもってるってゆうのに ・ ・ ・ ・ ・

アマテラス

・ ・ ・ なんか、ちょっとムカついてきたな。

うぅん ・ ・ ・ ・ ・ どんな奴か、顔だけでも拝んでやろうかしら。

アマテラスの心が揺らぐ。


そんな中、ウズメのダンスはクライマックスに差し掛かっていた。もう上半身には衣が無い。正直なところ八百万の神々は、アマテラスなんかよりもウズメにくぎづけだった。


テンションMAXで神がかりしたウズメは、狂ったように舞い、ついに乱れた衣装は全て落ちてしまった。

ウズメ

ありっ?? ・ ・ ・ 全部見えちゃった。

全裸のウズメを見た八百万の神々は大きな大きな声で笑い、その声は高天原中に響きわたった。
ウズメも笑いながら止まらずに全裸で踊り続けた。


アマテラスはさらに混乱する。

アマテラス

えっ??何?何っ??何が面白いの???
ギャグセンも高い神様なのっ??

突然の笑い声に、アマテラスは、引き寄せられるかのように、前へ前へと進んだ。岩戸の先には人影が見える。

アマテラス

眩しくて良く見えないけど、きっとあれが新しい神様なんだ。

アマテラス

女の人っぽいけど ・ ・ ・ どうせ性格ひん曲がった高飛車な女に決まってる!!

みんなったら何なのよ。みんなってば ・ ・

はぅ ・ ・ ・ いや、泣かないけど ・ ・ ・ ・

アマテラス

でも、もう少しで見えそう ・ ・ ・ ・ ・

アマテラスはついに岩戸からぴょっこり顔を出した。この時を待っていたオモヒカネはタヂカラオに向かって叫んだ。

オモヒカネ

今ですっ!

タヂカラオ

よっしゃっ!!

タヂカラオは、オモヒカネの合図でアマテラスの手を引っ張った。

アマテラス

キャッ ・ ・ ・ タヂカラオ??
何すんのよっっ!?

タヂカラオ

捕まえたぞ、アマテラス!!

タヂカラオがアマテラスを外に引き出すと、フトダマがすかさず岩屋に注連縄を張った。

フトダマ

これで、もう中には戻れないよっ!

アマテラス

えっ?何なにっ??どーゆうことっっ??
新しい神様は??

その新しい神様が立っていたはずの場所には、コヤネが八咫鏡のついたサカキの木を持って立っていた。

コヤネ

やっと出てきたな。

その鏡には自分の姿が映り込んでいる。アマテラスは鏡の中の自分を新しい神だと思い込み必死に目を凝らしていたのだ。


口をポカンと空けて呆然としているアマテラスに、オモヒカネはドッキリを明かした。

オモヒカネ

ハァ ・ ・ ・ 全部嘘ですよ。貴方が引きこもってから、大変だったんですから ・ ・ ・ 。

もうちょっと、ご自分の立場を理解してもらえませんか?

ウズメが横から割り込む。

ウズメ

ふふ~、全部ね、オモヒカネくんの作戦だったんだよぉっ♪♪びっくりしたっ??

オモヒカネ

ちょっっ!!
ウズメさん、早く服着てください!!!

アマテラス

うそ ・ ・ まさか ・ ・ ・
私のために ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ?

やっと状況を飲み込んだアマテラスの目には涙が溢れてきた。

アマテラス

あぁ ・ ・ ・ みんなぁ ・ ・ ・ あぅ~ ・ ・ ・ ごめんなさぃ ・ ・ ・ ・ ごめんなさぁぁぃ ・ ・ ・

ふぇ~~ん ・ ・ ・

アマテラスが出て来たぞーっっ!!!

アマテラスの姿を見た八百万の神々は大喜びし、次々と彼女に声をかけていった。
そして、いつまでもいつまでも歓声が鳴り止まなかったので、神々はアマテラスも入れて宴会を続ける事にした。


こうして高天原と葦原の中つ国に、再び太陽の光が戻った。

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