ミューリエが小屋を出ていったあと、
ウェンディさんは穏やかな表情に戻った。
そしてシーラさんへ視線を向ける。
ミューリエが小屋を出ていったあと、
ウェンディさんは穏やかな表情に戻った。
そしてシーラさんへ視線を向ける。
シーラ、勇者様に試練の説明を。
はいっ!
えっと、
勇者様には試練の洞窟に入り、
勇者の証を探していただきます。
えっ? 勇者の証って
ウェンディさん自身じゃ
ないんですか?
ははは、
勇者の証は審判者によって
全て違うのです。
たまたまタックは
自分自身を証としているだけ。
そういうこと~☆
洞窟の中には
宝箱が置いてあります。
中には様々なものが入っていたり、
カラのものもあったりします。
その中から勇者様が
『勇者の証』だと思ったものを
ウェンディ様のところへ
持ってきてください。
分かった。
ただし、宝箱は無数に存在し、
ワナが仕掛けられているものも
あります。
どうかご注意ください。
えっ?
試練には
何度チャレンジしていただいても
構いません。
ハズレだった時は、
もう一度探しに行けば
よいわけです。
念のために聞くけど、
それは僕だけでやるんだよね?
はい。
ただし、サポート役として
私も同行します。
お仲間の皆様は
洞窟の外でお待ちください。
分かってるって~☆
タック、
ミューリエにも
伝えておいてくれる?
あいよ~♪
戦わなければならなかったタックの試練と
比べれば、
僕にとっては助かったかもしれない。
探し物なら筋力や魔法力はいらないから、
僕にだってできそうだ。
……ワナが仕掛けられているものもある
っていうのが、ちょっと不安だけどね。
じゃ、シーラさん。
洞窟へ行こう。
かしこまりました。
洞窟の中はきれいに整備されていて、
どちらかといえば遺跡に近いものだった。
なんとなく神聖な雰囲気も漂っている。
通路は上下左右が比較的広くて、
僕たちの足音が遠くまで反響している感じ。
僕は紙切れにペンで
洞窟のマッピングをしながら
ゆっくりと進んでいく。
タックのいた洞窟で
ミューリエに言われたように、
今回こそこれは僕自身でやらなきゃ!
ねぇ、
ここってモンスターは出るの?
結界が張られているので、
いないはずです。
ですが、勝手に住み着いた動物は
いるかもしれません。
そっかぁ。
――あれ?
前方には早速、宝箱が見えてきた。
さらにその陰にはもう1つ見え――
ちょっ!?
なんとその先のフロアには、
おびただしい数の宝箱が置いてあった。
ざっと見ただけで数十個はある。
ねぇ、あれって全部宝箱だよね?
はい。私にはそう見えますが。
あの中から勇者の証を探すの?
はい。
この洞窟にはこうしたフロアが
たくさんあります。
……え?
つまり宝箱は数百個あるとか?
もっとあるかもしれません。
…………。
思わず唖然としてしまった。
それだけたくさんの中から
どうやって探せというのだろう?
片っ端から開けようにも、
ワナが仕掛けられているものもあるっていうし。
何か手がかりとか
ヒントとかないの?
ありません。
そんなぁ……。
シーラさんの無情な言葉が突き刺さる。
こんなにたくさんあったら、
一生かかっても
見つからないんじゃないだろうか?
とりあえず、
一番手前の宝箱を開けてみるか……。
んしょ……っと。
んんっ!? がはっ!
ゲホッゲホッ!
がぁあああぁっ!
喉の奥が痛い!
目に染みて涙も勝手に出てくる!
それに息苦しいっ!
――な、なんだよ、これっ!?
それは催涙ガスのトラップですね。
そうしたものが
たくさんあるようです。
……え?
こういうのが……ケホッ……
たくさんあるの?
ケホケホッ!
はい。
私も詳しくは知りませんが……。
そんなぁ……。今のガス、結構キツイよ……。
あれ?
シーラさんはどうして
平気そうな顔をしてるんだ?
シーラさんは……ケホ……
平気なの……?
私は防御魔法をかけていますので、
多少のことでは影響を受けません。
あ……そうなんだ……
ケホケホ……。
うう、ズルイや……。
僕にもかけてほしいけど、
それじゃ試練にならないから
ダメなんだろうなぁ……。
それにしても、最初からこんな調子じゃ、
どれだけ酷い目に遭うか分からないよ、これ。
――でも、ここでやめるわけにはいかない!
今度はその隣にある宝箱を開ける。
んぎゃぁああああぁっ!
僕は慌てて宝箱のフタから手を離した。
び、びっくりした……。
開けた途端、
僕の全身がビリビリと痺れるんだもん。
うあ、手がまだピクピクと震えてる。
それに痛いし。
これは電撃のワナか。
もし心臓が悪かったらショック死しちゃうよ。
大丈夫ですか、勇者様?
あ……あはは……
今のところは……。
なんか宝箱を開けるのが怖くなってきた。
次の宝箱はどんなワナが……。
――っ!?
い、いやっ、違うよっ!
次こそは正解だと思わないとっ!
ワナがある前提だなんて考えちゃダメだ!
次は当たり、次は当たり……。
そう念じながら次の宝箱を開ける。
……あれ?
今度は中に何も入っていなかった。
とりあえず、ワナじゃなくてよかったぁ。
――いやいや、空っぽでホッとしちゃうなんて
そんなんじゃダメじゃないか!
もっと悔しがらないと!
シーラさん、何も入っていないのは
ハズレってことなんだよね?
…………。
シーラさんは口を噤んだまま答えてくれない。
つまり自分で考えろってことなんだろうな。
よしっ、次だっ!
えっ?
な……なにこれ……?
スプーン?
まさかこれが勇者の証……のワケがないよね?
くそーっ! 今度はどうだっ!
あちちちちっ!
熱いし痛い……。
髪の毛も少しチリヂリになっちゃったよぉ。
もうやだ、こんなの……。
戦わなくていいから
少しは楽な試練かと思ったけど、
やっぱりそんなに甘くなかった。
勇者様、大丈夫ですかっ?
すぐに治療を……。
えっ?
…………。
シーラさんは僕に手のひらを向け、
何かを呟いた。
するとその手が柔らかく輝き、
温かくて心地いい気分になってくる。
それとともに僕の怪我が治っていった。
……髪の毛はダメだったみたいだけど。
これで大丈夫なはずです。
ありがとう。
今のって回復魔法?
はい。
私、攻撃系の魔法は
使えませんけど、
回復や防御の魔法は
得意なんです。
そうなんだ?
じゃ、
ウェンディさんの病気の治療も?
あ……いえ……。
シーラさんは顔を曇らせ、シュンとしてしまった。
聞いちゃマズイことだったかな……?
ウェンディ様は
寿命が迫っているせいで
弱っておいでなのです。
だから魔法で回復させるにも
限界があって……。
今はお薬や体力のつくものを
採っていただく方が
効果が高いのです。
そっか、それで僕の魔法薬を?
はい。あの薬には大地の生命力が
詰まっています。
身体にも優しくて、
今のウェンディ様には
すごく効果があるんですっ!
シーラさんって、
ウェンディさんが大好きなんだね?
話をしている時、
すごくいい顔してるもん。
あの御方には幼いころから
可愛がってもらいましたし、
集落の守り神的な
存在でもありますし。
そうなんだ。
あっ!?
どうしたの?
そういえば、
もうすぐお薬の時間で……。
そこまで言ったところで、
シーラさんはハッと息を呑んで俯いてしまった。
どうしたんだろう?
それになんだかソワソワして、
落ち着かない様子だ。
いえ、なんでもありません。
お気になさらずに
試練をお続けください。
あっ!
そうか、
ウェンディさんのことが気になってるんだ。
タックが面倒を見てくれているはずだけど、
やっぱり放っておけないんだろうなぁ。
よし、それなら僕の選択は――
さーて、
一旦小屋まで戻ろっかな。
えっ?
いくつもワナにかかって、
なんか疲れちゃった。
お腹も空いたし。
続きは食事でもしてからに
しようっと。
それでいいかな?
……あ。
はいっ!
シーラさんのホッとした表情。
うん、よかった。笑顔に戻ってくれて。
実際、
僕が疲れてきたのもお腹が空いてきたのも
本当のことだしね。
こうして最初の挑戦はひとまず中断し、
僕たちは小屋へと戻ったのだった。
次回へ続く!
シーラ可愛すぎる……