リパトの町を出て山道を2日ほど歩いた先に
第2の試練の洞窟はあった。
洞窟の入口の横には古びた小屋が建っている。
リパトの町を出て山道を2日ほど歩いた先に
第2の試練の洞窟はあった。
洞窟の入口の横には古びた小屋が建っている。
タック、
ここが試練の洞窟なんだね?
あぁ、そうさ。
あの小屋には誰が住んでるの?
さぁ? オイラも小屋については
心当たりがないんだよなぁ~。
オイラもここへ来るのは
数十年ぶりだから。
尋ねてみようか?
その方がいいだろう。
関係のない者がこんな場所に
住んでいるとも思えんからな。
ドアをノックしても返事はない。
そこで僕たちは静かにドアを開けて
中へ入ってみることにした。
こんにちは。
部屋の中は簡素だけど、
暖炉やテーブルの上に置かれた皿など
生活感はある。
そしてベッドには
誰かが横になっているようだった。
そこへ近付いていこうとした時――
誰ですかっ?
背後から怒鳴り声が聞こえてきた。
慌てて振り返ってみると、
そこには見覚えのある女の子が立っていた。
あれ? キミは……。
あなた方は確か、
リパトの町でお会いした……。
あの時の子かぁ~☆
シーラさんは目を丸くしていたが、
すぐに険しい顔をして、
近くに置いてあったマキの1本を握りしめる。
勝手に家に入らないでください!
何をしに来たのですかっ?
泥棒ですかっ?
とげとげしい口調だった。
ただ、本心では怯えているのか、
瞳は潤み、手や唇はぷるぷると震えている。
――そうだよね、それも無理はない。
彼女は1人だけ。
それに対して見知らぬ人間が大人数で
押しかけちゃったんだもんね……。
ゴメン。ノックをしたんだけど、
返事がないから
ドアを開けて入っちゃったんだ。
そうしたら、
キミが戻ってきて……。
…………。
本当だよ。信じてっ!
僕はアレス。
こっちにいるのは
タックとミューリエ。
怪しい者じゃない。
僕は真っ直ぐにシーラさんを見つめて言った。
わずかな沈黙のあと、彼女はフッと頬を緩める。
……はい、あなたを信じます。
悪い人じゃないってことは
知っていますから。
……なんだね、騒がしい。
その時、
ベッドで横になっていた人が細い声を発した。
近寄って見てみると、
どうやらおばあさんのようだ。
顔色は良くなくて、かなり痩せている。
何かの病気なのかもしれない。
――っ!?
もしかしたら、
彼女が僕の魔法薬を欲しがったのは、
このおばあさんのため……?
あっ、ウェンディのばっちゃん!
おばあさんの顔を見るなり、
タックは笑顔で枕元へ駆け寄った。
おばあさんもタックの顔を見て
目を大きく見開く。
タックかっ!?
どうしてお前がここに?
まさか勇者様が……。
あぁ、そうさっ!
紹介するよ、勇者アレスだ!
僕はタックに促され、一歩前へ出る。
はじめまして、アレスです。
ウェンディさんは上半身を起こそうとした。
するとシーラさんがすかさず駆け寄り、
背中を支えながらゆっくりと起き上がらせる。
そして僕の顔を見るなり息を呑み、
瞳を潤ませながら柔らかく微笑んだ。
おぉ、
なんとなく勇者様の面影がある。
そうか、試練を受けに……。
ゴホッゴホッ!
ウェンディ様っ!
シーラさんは
ウェンディさんの背中を優しくさすった。
しばらくして咳は収まり、
コップの水を一口啜る。
ばっちゃん、病気なのか?
なぁに、
寿命の尽きる日が
近付いているのさ。
私もすでに800歳。
いつお迎えが来ても
おかしくはない。
――800歳っ!?
ということは、人間以外の種族なんだ。
見た感じでは判別できないけど。
あのっ!
先ほどは失礼いたしましたっ!
まさか勇者様とは知らず、
ご無礼の数々をお許しください!
私はウェンディ様に
お仕えしている、
巫女のシーラと申します。
シーラはこの山の上にある
集落の生まれでね、
試練の洞窟の審判者に
代々仕えている家系なのさ。
シーラさんの種族は人間ですか?
あ、その、ウェンディさんは
人間以外みたいですので……。
私は人間で、14歳です。
ウェンディ様は竜人族といって、
竜の力を宿した
長命な種族なのです。
そうなんですか!
じゃ、
シーラさんと僕は同い年ですね!
えっ?
勇者様も14歳ですかっ?
そうでしたか……。
あの、勇者様。
試練については私がウェンディ様の
代行をつとめさせていただきます。
うん、分かった。
でもその前に……。
っ?
僕は持っていた魔法薬5本をシーラさんに手渡した。
シーラさんはキョトンとしている。
これ、
僕が持っている魔法薬の全て。
ウェンディさんに使ってあげて。
少しは楽になると思う。
勇者様……。
なんとお優しい。
こんな婆のために……。
なっ?
アレスはいいヤツだろっ?
その時、
シーラさんはミューリエに視線を向けた。
ミューリエは未だ入口の横に立ったまま、
話にも加わってこない。
それを不審に思ったのだろう。
そうだ、
ミューリエはなぜこちらに来ないのだろうか?
心なしか瞳も寂しげなような気がする。
えっと、そちらの方は?
……ミューリエだ。
アレスとともに旅をしている。
っ!?
ウェンディさんはミューリエを
視界に捉えた瞬間、
大きく目を見開いた。
そして笑みは消え、
苦々しそうな顔をして項垂れる。
……すまんが、
お前は小屋を出てくれないか?
身体に障るのでな。
……分かった。
ミューリエはポツリと呟くと、
おとなしく小屋から出ていこうとする。
ちょっと待って!?
なんなの、この雰囲気はっ?
ウェンディさん、
どうしてミューリエを
遠ざけるんです?
ミューリエもどうして
あっさり頷くの?
……色々あるのだ。
私は外で待っている。
ミューリエは僕に向かって微笑むと、
静かに小屋を出ていった。
その場には重苦しい空気と沈黙が漂う。
…………。
勇者様、私はあの者に
敵意を持っているわけでは
ありません。
ただ、どうしても好きになれない。
ただそれだけなのです。
どうして?
タックも同じようなことを
言ってたような……。
僕の心の中には疑念が残った。
タックもウェンディさんも、
審判者の2人はなぜかミューリエを
快く思っていない。
ミューリエもそれが分かっているかのようだ。
彼らの間には何かがあるような気がする。
でも今は考えても分からないし、
話してもくれないだろう。
それを知るのは、いつになるのだろうか……。
次回へ続く!