宿の部屋に着いた僕は、買ってきた材料を
分量通りに調合していった。
僕の故郷の村では散々作っていたから、
作り方は完全に頭の中にある。
宿の部屋に着いた僕は、買ってきた材料を
分量通りに調合していった。
僕の故郷の村では散々作っていたから、
作り方は完全に頭の中にある。
んしょ……んしょ……。
そうやって何種類かの固体や液体の素材を作り、
最後に全ての材料を順番通りに混ぜていく。
一番難しいのがこの作業。
混ぜる順番や量を少しでも間違えると失敗だし、
うまく混ぜ合わせるコツみたいなものもある。
何度も失敗して、
村長様にゲンコツを食らいながら
作ったっけ……。
おかげで今では
村で一番の腕前になれたんだけど。
よし。ここまではうまくいった。
最後の仕上げは
僕の故郷の村人だけに伝承されている、
特殊な魔法をかけてやること。
これは慣れてしまえばそんなに難しくない。
…………。
僕が呪文を唱えると、
混ぜ合わせた液体が淡い金色に輝いた。
光が収まると、それを小瓶に分けていく。
うん、完成だ!
なぁ、アレス。
これ、なんだ?
えへへ、これは体力と魔法力を
同時に回復させる魔法薬だよ。
僕の故郷の村の特産品でね、
高値で取り引きされてるんだ。
へぇ、そうなのか~。
辺境であまり食べ物は
収穫できない村だったけど、
これのおかげで
村人はおカネを稼げたんだ。
それで食べ物や道具なんかと
交換して
生きてこられたんだよ。
アレスが
こんな技術を持ってたとはね~♪
生きていくために身につけた
技術だよ。
そうだ、
これはさっき約束したタックの分。
僕は小瓶の1つをタックに手渡した。
タックはそれを物珍しそうに眺める。
ありがと~♪
大事に使うよっ!
僕の分とミューリエの分を
少し残して、
残りは魔法道具を扱う店へ
売りに行こう。
分かった。手伝うぜ~!
道具屋では薬を全て買い取ってもらえた。
しかも最近は魔王の手下や
モンスターとの戦いが
各地で頻発していることもあって、
需要が高い品だとのこと。
おかげでいつもより高値で売れたのは
ラッキーだった。
全部で10万ルバー。
これだけあれば、
しばらくおカネに困らないはずだ。
なぁなぁ、アレス。
夕食は少し豪華にしようよ~☆
あはは、そうだね。
体力をつけなくっちゃね。
あのっ! すみませんっ!
その時、僕たちは背後から呼び止められた。
足を止めて振り返ってみると、
そこにいたのは大人しそうな女の子。
年齢は僕と同じくらいだろうか?
…………。
オイラたちに何か用か?
さっき、
魔法薬を持って道具屋さんへ
入っていきましたよね?
私に1つ、
売っていただけませんか?
それは構わないけど……。
あの店で買えば
いいんじゃないのか~?
実は私……
そんなにお金を持ってなくて……
でもどうしても
その薬が欲しくて……。
誰かが冒険にでも行くの?
いえ、私がお世話をしている御方が
病気でして……。
その魔法薬が体力を回復させるのに
効果的だということは
知っているんです。
でもなかなか手の出ない
値段なので……。
そっか……。
お店で売られる値段って
結構高いもんね。
お店で売る時には
商人さんの儲けが上乗せされるから
どうしても価格は上がってしまう。
特に僕の村から離れれば離れるほど、
運搬のための費用やリスクの分も加わる。
村長様の話だと、遠く離れた国では
元値の何倍にもつり上がることがあるそうだ。
あのっ、
それを1つ譲ってください。
でも出せるのは……
100ルバーで……その……。
はぁっ?
あのなぁ、さっきの道具屋では
小瓶1つ5000ルバーで
買い取ってくれたんだぞ?
無理を承知で言っているのは……
分かっています……。
でもこれ以上は出せなくて……。
なんとかお願いしますっ!
…………。
女の子は深々と頭を下げた。
そしてそのままの姿勢で
ジッと返事を待っている。
よっぽどあの薬が欲しいんだろうな……。
そこまでしてでも助けたい相手が
いるってことだろう。
転売して儲けようとか僕らを騙そうとか、
そういう感じは一切しない。
……それになんだろ、この子からは
すごく無垢で強い想いみたいなものが
伝わってくる。
いや、そういうのとは根本的に違う、
何か不思議な力を感じる。
そうだ、
ミューリエと出会った時と同じような感覚だ。
タック、
さっきあげた小瓶を持ってるよね?
宿に戻ったら
代わりのをあげるから、
それをもらえないかな?
それは別にいいけどさぁ……。
僕はタックから魔法薬の小瓶を受け取ると、
それを女の子に渡した。
えっ!?
どうぞ。100ルバーだよ。
い、いいんですかっ!?
うんっ!
アレス、
そういうのはあまり感心しないぞ?
もし何百人もが同じようなことを
言ってきたらどうするつもりだよ?
全員に同じことをしなきゃ
ならなくなるぞ?
うん、だから今回だけ。
彼女から強い想いを感じたんだ。
助けなきゃいけないって
気がするんだよ。
……まぁ、
アレスがそういうのなら。
でも今回だけにしておけよ~?
ありがとうございますっ!
私、シーラと申します。
このご恩は一生忘れません。
シーラさんは僕に100ルバーを払って
小瓶を受け取ると、
満面に笑みを浮かべながら去っていった。
何度も僕の方を振り返り、
ペコペコと頭を下げながら。
なるほどね~。
アレスはああいう子が
好みなのかっ♪
そ、そんなんじゃないよ。
だけど、
なんとなく運命的な何かを感じる。
そんな気がするんだ。
ふーん、
オイラにはよく分かんないや。
――その晩、
僕たちは酒場で
いつもより少しだけ贅沢な食事をした。
そして明日からの冒険に備えることにする。
いよいよ第2の試練の洞窟へ向けて出発だ!
次回へ続く!