四天王の戦いの後、何があったのか。
私が彼の足跡を辿るに当たって、一番の謎はそこだった。どこにも記述が存在せず、誰が見ていたという話もなく、ただすっぱり空白に満ちたその瞬間のカラクリを。
四天王の戦いの後、何があったのか。
私が彼の足跡を辿るに当たって、一番の謎はそこだった。どこにも記述が存在せず、誰が見ていたという話もなく、ただすっぱり空白に満ちたその瞬間のカラクリを。
簡単な話よ
東の賢者Evaは語る。真実を。
魔王が生き返らせたのよ、最悪の魔法を使ってね
どうにもこうにもそういった奇妙な魔法が掛かっていたのは、間違いない。
何故そんなものがかけられていたのか、何故魔王がそんな魔法を掛けたのか、私には分からないし分かりたくもない。
出来事をあるままに語ることしか出来ないのだから、考えることはするけれどこればかりはしたくもない。
私が勇者くんに会ったのは魔王との直接対決前ね
その時に気がついたの、死ねない魔法が掛かってるって
勿論本人に伝えたが、勇者はまさかそんな存在があるとは知らなかったのだろう。私があった中では一番人らしい表情を見せていた、人らしい、そういえばあの時点で彼は人ではなかったか。
彼は魔法を解いてくれと言ったわ、私も解こうとしたわよ
でも解けなかった
魔王の魂と直結した最悪の呪い。解除する方法は唯一一つとして、直結した魂を屠ること。
簡単な話、魔王を殺さねば不死の呪いは解けない。それだけの話だがこれは異常だった。
おかしいでしょ?
まるで殺しにくることを待ってるみたい
──……。
勇者くんも気がついたようだったわ
そしたらあの子、無言で出て行ったのよ
まるで死人みたいに
いえもう死んでいたのよ、どこがって? 貴方わかってて聞いてるでしょ?
賢者には一つ厄介で便利な能力が存在する。
人の心がイメージとして観えるのだ、だから何があってもだまされることはないし、絶対中立を守りぬくには大いに役立つ。
だが、それでも。
あの時ばかりはこの能力を恨んだわ
精神も身体も傷だらけだったのよ。ボロ雑巾って話じゃないわあれ、あ、具体的な傷教えたほうがいい? あとで資料あげるわね
でもそれだけじゃなかった
傷は、それだけじゃなかったのよ
傷のない場所などありはしなかった
魔王が女性だったことは知っているかしら
じゃあ、魔王が昔人間だったことは?
歴史として、事実として私は一つの禁忌を知らされていた。
魔王として君臨する存在の正体を、情報の一つとして知っていたのは確かだ。だが、それがどんな悲劇を生み出していたのか。
私はその瞬間に全てを理解してしまった。
傷からね、観えたの
幼い勇者くんと、女性が一緒にいるところを
あの女性はどう見ても、魔王のそれだった
……世界って残酷よね
誰が望んだわけでもなかった。
誰が悲しんだわけでもなかった。
誰も笑ってなどいなかったのか。
誰がこの悲劇を望んだというのか。
勇者くんと魔王は、親子だったのよ
逆巻く余地なく加速していく舞台装置に踊らされ、いくらの時が経過したか。
抗う声を奪われその命すら失うこと許されず、業は業によって焼かれ爛れ、いつしかそれはもう人とは呼べやしなかった。
血のつながりがあったかまでは分からない、母だった魔王に何があったのかも分からない。
でも事実よ
事実だからこそ、この悲劇は起こったのだ。
嘘をついたのは、嘘をつき続けたのは一体誰だったのかなんて考えたところで全て手遅れなのだ。
既に全て終わっていた、引き起こされた報いは当然の怒りと悲しみを湛えて雨となり降り注ぐ。当然の罰だ。
私たちに残されたのは、彼が遺した呪いと自身の償いだけなのだ。
まさか、そんな……
女性は、呆然と言葉をこぼした。
彼女が一体何を思ったのか、私の考える範疇にはない。だが思っていることは案外同じなのかも知れないと、すこし身勝手に考える。
……ブリテンが見えてきましたね
私は、目的地が近いということからこの手帳に記されたページを静かに閉ざした。
ここから先のページの出来事は、今の自分には語る資格がない。
人に語る、資格はない。
雨が降る。
雨が降る。
全てを洗い流すように泪を零して崩れて果実は収穫期を見失う。
誰も、多くを願ってなどいなかった。
願ってなんて、いなかった。
望んでなんて、いなかったんだ。
雨が降る。
雨が降る。
雨が降る。
夜明けの兆しを隠して覆って時刻を見失わせれば自身もまた秒針をどこかに落としてしまった。
雨が降る。
雨が降る。
雨が、止まない。
雨が、止んでくれない。