彼が勇者に任命されてからの先の物語は、誰もが知っているだろう。
在り来たりとも言えば在り来たりの英雄譚、四天王との戦い、そして魔王との戦い。
血露戦争はその在り様を原初へと先祖帰りを果たし、複雑化した思考の絡み合いは水面下へと移行する。
伝承派の長が病に倒れてからが、この戦争は本番ともいえよう。
魔物と人間の戦いは勇者を舞台の中央にまで押し上げていく、戦の理由でさえ彼を中心軸にずれていく。
それと共に、私の興味もまた、彼に焦点を絞る。
彼が勇者に任命されてからの先の物語は、誰もが知っているだろう。
在り来たりとも言えば在り来たりの英雄譚、四天王との戦い、そして魔王との戦い。
血露戦争はその在り様を原初へと先祖帰りを果たし、複雑化した思考の絡み合いは水面下へと移行する。
伝承派の長が病に倒れてからが、この戦争は本番ともいえよう。
魔物と人間の戦いは勇者を舞台の中央にまで押し上げていく、戦の理由でさえ彼を中心軸にずれていく。
それと共に、私の興味もまた、彼に焦点を絞る。
酷なことをしたとは思っているよ
伝承派尖兵、暗殺者Michaelは語る。
思えば、魔王との戦いの前が一番荒れていたね
なぜだと思う?
根も葉もない噂が流れていたのさ
曰く、あの勇者は偽物だとか。
曰く、魔族に加担してるとか。
曰く、人を殺めたとか。
随分と悪意のある噂だと思わないかい?
何者かが勇者を陥れようとしていたのは確かだろう。
何のためにだとかそういう話は知りはしない、暗殺者は与えられた仕事を全うするだけだ。
まぁ、何。人間ってほんと薄情だよね
ボクはね、そんな薄情な人間に雇われて勇者を殺しに行ったのさ
最終的に成功したともいえない、お粗末で小細工染みたごく普通の任務だった。
相手が誰であれ殺す気でいたからこそ、暗殺者としてはいつもよりかは楽しみがある任務だと感じていた。
久々に本気の戦いが出来る。そんな期待さえしていたのだが。
別段強い印象は持たなかったよ
ていうか戦ってないんだよねぇ
そう、事実暗殺者は勇者と戦っていない。
なぜか? その理由は今から話そう。
ボクが勇者を襲撃したのは、勇者が四天王を倒したその夜のことさ
魔領の辺鄙な宿にあいつは宿泊していた。
正体や名前は伏せていたらしく宿帳に名前はなく、らしくないローブを纏っていたことをよく覚えている。
ボクは真夜中に乗り込んだのさ。まあ相手も歴戦の戦士だし? 当然気づかれたんだけど
あれは別に抵抗しようともしなかったのさ、むしろ
逃げようと応戦しようともせず、むしろ安堵したような微笑をみせていた。
状況が状況だ、違和感が拗れて悲鳴を上げていたさ。
困惑している僕が見えているんだが見えていないんだか、彼は掠れた声で言ったよ。
死なせてくれ
当然何でって聞いたよ、当然さ。自殺志願者なんて聞いてなかったんだよ。
だがあいつは答えなかった。聞こえていなかったんだろうか、聞いていなかったのかもしれないね。
目が濁っていたよ、何だろうね、恐怖? 憎悪? 絶望? よく分からない
あいつはただぼーっと天井を見てぐったりとしていた
怖かったさ
怖いというだけでこれでも暗殺者の端くれ、逃げ帰るわけにも行かなかった。
とりあえずどうしようもないし、勇者がそんなんじゃ殺しがいがないって言ってやったんだ。
そしたらあれは笑い始めた
勇者か、はは、よく言うよ
カラカラに乾ききった笑い声には狂気が滲んでいた。薬やただの拗れで発生するぐずどもの逃避願望が作り出す狂気ではない、本物の切望と渇望から来る最悪の狂気。そんなものを真正面から叩きつけられて思わず僕は得物を下げてしまったよ。
いや、僕が言ってるだけじゃ分からないだろうけどさ。本気で怖かったんだよ?
なんなんだろうな
あの人が魔王だって?
勇者といえば、どうやら四天王を倒したあとに魔王に会っていたらしかった。
魔王ってあれでしょ、悪の根源みたいなもの。だけど勇者の様子はやっぱりおかしいのさ。
聞いてみたよ、会ったの? って。
会ったよ、あぁ、あったさ。クソッタレ!!
そんなに嫌なやつなのか。とかそういう話じゃないらしくて、出会ってしまったことを後悔しているっていう風だったね。
勇者なのにおかしい反応だね、いやこいつ最初から相当ぶっとんでたからそういう話は論外なんだけれど。
最悪だ。
最低だ
あれが魔王? ははは、あれが? 馬鹿じゃないのか? その目は節穴か人間は
あはは、はは、は……
うん、タガが外れたってああいうことをいうんだろうね。
何だったんだろうね、怖いとかそういうレベルの話じゃなかったよ。
あいつの心は、随分とがったがたさ。
下手するとボク以上に壊れていた
ぐちゃぐちゃのドロドロ、もう心臓も爛れていた
散々笑った後そいつはいきなり真顔にもどって、また言ったよ
死なせてくれ
なぁ、死なせてくれ
どうしたかって?
殺したよ、そういう任務だったし
嬲り殺すのは実にスマートじゃあないし、なんだか可哀想な気がしてね。一撃で殺してやったよ、幸い抵抗してないし簡単だった。
勿論証拠品として右目も奪って、あ、ちゃんと息を引き取ってから抉ったよ。そういう問題じゃない? お兄さん案外そういうの得意じゃないんだね。
でも、あいつは何故か生きていた
分かんないさ
生きていて、魔王を倒して、処刑された
もうさっぱり!
処刑当日? 当然見に行ったよ、あいついたよ、もうびっくりさ!
確かにあれはボクが殺した勇者だった
でも何か、おかしい気がするんだよ
ていうか色々おかしい
なんであいつ、死ぬこと分かってて王国に帰ったんだろうね?