―ソーリヨイの街―
―ソーリヨイの街―
ソーリヨイの街は、国軍が駐屯していないものの、タニリタ国の領土ではそれなりに栄えている。
だから、万人に愛される酒場は一つではなかった。
客が酒場を利用する目的は主に二つある。
一つは、道中の冒険譚や魔物相手の武勇伝をつまみに仲間と酒を飲む場として。
一つは、その仲間を集める場として、だ。
ソートクは酒場に来て当然のように人材派遣側のカウンターに寄った。
いらっしゃいニャ!
人材派遣兼酒場『一匹狼』へようこそ!!
どんな仲間をお探しかニャ?
あ、お前で構わん。そこな美少女な受付嬢よ
ニャ?
人と人との繋がりを担う店の名前が『一匹狼』というのはこの際目を瞑る
俺が求める者は、腕に自信のある者ではなく、顔に自信がある美少女だ
我が眼は閉じこそすれ腐ることは無い。お前は合格だ。
それが例えネコ型の獣人であろうとな!
獣人の受付嬢。俺とともに来い!!
お断りだニャ!!
何故か!?
断られる理由が分かっていないからニャ!!
本来であれば『何故か!?』っていう疑問も生まれない筈だニャ……
俺は勇者だ。この権力を笠に着るつもりはないが、一考の価値はあろう
無いニャ!! 一考の価値も余地も!!
一言目に顔を要求するとは……
娼婦店に来た男みたいな注文をする勇者は初めてだニャ!
少なくとも、私は御免だニャ
仕方あるまい。去る者は追わず。諦めよう
だが、心変わりがあればすぐにでも駆けつける
心変わらニャい!!
ならば、顔に自信がある美少女を探しているんだが、この店の名簿にはいるか?
ホントに探すニャ?
ちょっと待つニャ……
俺は思うのだ。人種および種族差別問題に、美は責を負わんと
美しい者は美しい。それでよいではないか。
やれ人と違う耳を持っている、やれ瞳のカタチが奇抜だなどと人は言うが――
髪や髭の長さとどこが違うというのか
えーっと、名簿はどこだったかニャ?
気さくに冗談を交える仲であって誰が困ると言うのか。
新しい価値観、新しい文化
それを受け入れて、御する気概が無ければ進化の発展は望めたものではない。
そうは思わんか!?
おー。
そーだニャー
その猫耳には届かないか……
おい! 店番!! いつまで時間かけてるんだ!!
て、店主さん……。すみませんニャ!!
語尾!!
す、すみません……
ったく、ネコの癖にトロくせぇなぁ……
これだから獣人てのはよぉ……
獣臭くなるから厨房に入れてないんだ!
接客ぐらいまともにやったらどうだ!!
は、はい……
獣人てのは本当に醜いもんだぜ
……
……
人が、その随意に任せて、獣人たちを振り回す――
何が卑劣で何が高潔か分かったものではないな
……
これが獣人たちの眺めか……
一片しか見ていない俺が店主を責めることは出来ないがな
当人以外は、口を挟まない方がいい
お、お待たせしたニャ
どうだ? 美少女はいたか!?
俺は美少女であれば才の有無は問わない!!
筋骨隆々の男だけニャ
邪魔をした
切り替え早っ!?
あまりの早さにフレーメン現象が起きるところだったニャ……
男しかいないのであれば無縁だ
この俺が好色に見えるのならば、お前の目は相当に機能していない
少なくとも真人間には見えないニャ
おい!
無駄口叩いてんのか!?
い、いえっ!!
……
と、言うわけニャ。
ウチには該当者が見当たらないニャ
みたいだな。
他をあたるとしよう
っと、最後に受付嬢よ
ニャ? まだなにかあるニャ?
接客の際はカウンターに肘を付かない方がいい
!?
よ、余計なお世話ニャ
て、店主に聞こえたらどうするニャ!?
店主? なんのことだ?
ニャ?
接客態度が気に入らないんじゃ……?
違う。俺は金を払ってない以上客じゃない
客でない男が苦情を言えるか
……
じゃ、じゃあどうしてそんなこと言うニャ!?
その木製のカウンター、使い古されているだろう?
ニャ? このカウンターが?
あちこちに木の皮が毛羽立っている。
木の皮とはいえ、ささくれが刺さると肌が痛むぞ?
鍛えている戦士や騎士なら問題なかろうがな。お前は違うだろう?
……
俺は美少女の腕を棘ごときが損なうことを良しとしていない
自愛せよ、お前は美しいんだからな
……ニャ、ニャア
猫背を正せば、肘付くこともあるまい
生態故か知らんが、直せるなら直したほうがいい
姿勢一つで店主の見方も変わると思うがな
それでも駄目なら、そこで元気一杯わめけばいい。小耳にはさむくらいはするぞ?
そこに俺がいればな
……
それだけだ。邪魔したな
……
……
……♪
ま、待つニャ!
?
美少女探してるんならいい情報があるニャ!?
酒場『仔羊の額』に行くと良いニャ!
変わり者の女達が毎日入り浸ってるって噂だニャ!
行く価値はあると思うニャ!!
……
……
感謝する
ソートクは、中々笑みを見せない男である。
だが、酒場を出る時の表情は少しだけ綻んでいた。
――……