―ソーリヨイの街―

ソーリヨイの街は、国軍が駐屯していないものの、タニリタ国の領土ではそれなりに栄えている。

だから、万人に愛される酒場は一つではなかった。

客が酒場を利用する目的は主に二つある。

一つは、道中の冒険譚や魔物相手の武勇伝をつまみに仲間と酒を飲む場として。

一つは、その仲間を集める場として、だ。

ソートクは酒場に来て当然のように人材派遣側のカウンターに寄った。

受付獣人嬢

いらっしゃいニャ!
人材派遣兼酒場『一匹狼』へようこそ!!

受付獣人嬢

どんな仲間をお探しかニャ?

ソートク

あ、お前で構わん。そこな美少女な受付嬢よ

受付獣人嬢

ニャ?

ソートク

人と人との繋がりを担う店の名前が『一匹狼』というのはこの際目を瞑る

ソートク

俺が求める者は、腕に自信のある者ではなく、顔に自信がある美少女だ

ソートク

我が眼は閉じこそすれ腐ることは無い。お前は合格だ。

ソートク

それが例えネコ型の獣人であろうとな!

ソートク

獣人の受付嬢。俺とともに来い!!

受付獣人嬢

お断りだニャ!!

ソートク

何故か!?

受付獣人嬢

断られる理由が分かっていないからニャ!!

受付獣人嬢

本来であれば『何故か!?』っていう疑問も生まれない筈だニャ……

ソートク

俺は勇者だ。この権力を笠に着るつもりはないが、一考の価値はあろう

受付獣人嬢

無いニャ!! 一考の価値も余地も!!

受付獣人嬢

一言目に顔を要求するとは……

受付獣人嬢

娼婦店に来た男みたいな注文をする勇者は初めてだニャ!

受付獣人嬢

少なくとも、私は御免だニャ

ソートク

仕方あるまい。去る者は追わず。諦めよう

ソートク

だが、心変わりがあればすぐにでも駆けつける

受付獣人嬢

心変わらニャい!!

ソートク

ならば、顔に自信がある美少女を探しているんだが、この店の名簿にはいるか?

受付獣人嬢

ホントに探すニャ?

受付獣人嬢

ちょっと待つニャ……

ソートク

俺は思うのだ。人種および種族差別問題に、美は責を負わんと

ソートク

美しい者は美しい。それでよいではないか。

ソートク

やれ人と違う耳を持っている、やれ瞳のカタチが奇抜だなどと人は言うが――

ソートク

髪や髭の長さとどこが違うというのか

受付獣人嬢

えーっと、名簿はどこだったかニャ?

ソートク

気さくに冗談を交える仲であって誰が困ると言うのか。

ソートク

新しい価値観、新しい文化

ソートク

それを受け入れて、御する気概が無ければ進化の発展は望めたものではない。

ソートク

そうは思わんか!?

受付獣人嬢

おー。
そーだニャー

ソートク

その猫耳には届かないか……

店主

おい! 店番!! いつまで時間かけてるんだ!!

受付獣人嬢

て、店主さん……。すみませんニャ!!

店主

語尾!!

受付獣人嬢

す、すみません……

店主

ったく、ネコの癖にトロくせぇなぁ……

店主

これだから獣人てのはよぉ……

店主

獣臭くなるから厨房に入れてないんだ!
接客ぐらいまともにやったらどうだ!!

受付獣人嬢

は、はい……

店主

獣人てのは本当に醜いもんだぜ

受付獣人嬢

……

ソートク

……

ソートク

人が、その随意に任せて、獣人たちを振り回す――

ソートク

何が卑劣で何が高潔か分かったものではないな

受付獣人嬢

……

ソートク

これが獣人たちの眺めか……

ソートク

一片しか見ていない俺が店主を責めることは出来ないがな

ソートク

当人以外は、口を挟まない方がいい

受付獣人嬢

お、お待たせしたニャ

ソートク

どうだ? 美少女はいたか!?

ソートク

俺は美少女であれば才の有無は問わない!!

受付獣人嬢

筋骨隆々の男だけニャ

ソートク

邪魔をした

受付獣人嬢

切り替え早っ!?

受付獣人嬢

あまりの早さにフレーメン現象が起きるところだったニャ……

ソートク

男しかいないのであれば無縁だ

ソートク

この俺が好色に見えるのならば、お前の目は相当に機能していない

受付獣人嬢

少なくとも真人間には見えないニャ

店主

おい!
無駄口叩いてんのか!?

受付獣人嬢

い、いえっ!!

ソートク

……

受付獣人嬢

と、言うわけニャ。
ウチには該当者が見当たらないニャ

ソートク

みたいだな。
他をあたるとしよう

ソートク

っと、最後に受付嬢よ

受付獣人嬢

ニャ? まだなにかあるニャ?

ソートク

接客の際はカウンターに肘を付かない方がいい

受付獣人嬢

!?

受付獣人嬢

よ、余計なお世話ニャ

受付獣人嬢

て、店主に聞こえたらどうするニャ!?

ソートク

店主? なんのことだ?

受付獣人嬢

ニャ?

受付獣人嬢

接客態度が気に入らないんじゃ……?

ソートク

違う。俺は金を払ってない以上客じゃない

ソートク

客でない男が苦情を言えるか

受付獣人嬢

……

受付獣人嬢

じゃ、じゃあどうしてそんなこと言うニャ!?

ソートク

その木製のカウンター、使い古されているだろう?

受付獣人嬢

ニャ? このカウンターが?

ソートク

あちこちに木の皮が毛羽立っている。
木の皮とはいえ、ささくれが刺さると肌が痛むぞ?

ソートク

鍛えている戦士や騎士なら問題なかろうがな。お前は違うだろう?

受付獣人嬢

……

ソートク

俺は美少女の腕を棘ごときが損なうことを良しとしていない

ソートク

自愛せよ、お前は美しいんだからな

受付獣人嬢

……ニャ、ニャア

ソートク

猫背を正せば、肘付くこともあるまい

ソートク

生態故か知らんが、直せるなら直したほうがいい

ソートク

姿勢一つで店主の見方も変わると思うがな

ソートク

それでも駄目なら、そこで元気一杯わめけばいい。小耳にはさむくらいはするぞ?

ソートク

そこに俺がいればな

受付獣人嬢

……

ソートク

それだけだ。邪魔したな

受付獣人嬢

……

受付獣人嬢

……

受付獣人嬢

……♪

受付獣人嬢

ま、待つニャ!

ソートク

受付獣人嬢

美少女探してるんならいい情報があるニャ!?

受付獣人嬢

酒場『仔羊の額』に行くと良いニャ!
変わり者の女達が毎日入り浸ってるって噂だニャ!

受付獣人嬢

行く価値はあると思うニャ!!

ソートク

……

ソートク

……

ソートク

感謝する

ソートクは、中々笑みを見せない男である。

だが、酒場を出る時の表情は少しだけ綻んでいた。

――……

4、 受付嬢 変態を見直す

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