リア充が爆発することを
勇者は望んだ

第3話「勇者の試練」(前編)



















女騎士

では……早速、お話を聞かせてもらえますか、勇者コード


 爆発魔法を使うところを見られてしまった俺は、女騎士を連れて町の外れに移動した。

 この町は外壁でしっかり覆われていて、魔物への備えは万全。
 魔物が闊歩していた頃は、首都に次ぐ防衛力として有名だった。

 その外壁際は、道は広いが人気は少ない。
 夜になれば薄暗くなり、街灯も届かないためますます人は寄りつかなくなる。
 そのため、隠れて話をするには適していた。

勇者コード

その前に、名前を聞いてもいいか?

女騎士

あっ……! 私としたことがっ




女騎士

……大変失礼致しました。

私、騎士のリリィシ・スヒトリデと言います

勇者コード

リリィシ?


 どこかで聞いたことがある気がする。
 やはり名のある騎士なのだろうか。
 騎士のリリィシ……。




勇者コード

……!
もしかして、リリー騎士団の団長か?

女騎士

ご、ご存じでしたか。
はい、私がそのリリーです


 リリー騎士団。
 女性だけで構成された、女騎士団。

 この町の防衛力の高さは、外壁のおかげだけじゃない。
 彼女たちが町を守っていたからこそなのだ。
 特に団長のリリーは一騎当千の活躍で、守護神リリーと呼ばれていたと聞く。

勇者コード

道理で強いわけだ……


 やはり、魔法抜きでは勝てないだろう。逃げようとするのは得策じゃない。

 なによりマズイのは……リリー騎士団に知られてしまったということ。

 彼女たちの防衛力の秘訣は、その連携にあると聞く。
 情報系統がしっかりしているため、騎士団本部に入った情報は瞬く間に広まるはずだ。


リリー

もっとも、騎士団はもう解散していますから、今は私一人ですけどね

勇者コード

……なに? そうなのか?

リリー

はい。魔王が倒され、町を襲う魔物もいなくなりました。
そうなれば、町の守りは強固な外壁と元々の警護団だけで十分なのです

勇者コード

確かに、城ならともかく平時の町に騎士団は必要ないか……

リリー

そういうことなんです


 内心ホッとする。ひとまず、騎士団そのものと対立することはなさそうだ。

勇者コード

では騎士リリー、あんたはこの町の警護団に入ったのか?

リリー

いえ、私は今は一人です


 ふむ、確かにさっきもそう言っていたな。

勇者コード

だが……町の警備をしていたんじゃないのか?


 鎧を着込み剣を携えているリリーの姿は、夜の町を散歩する格好ではない。

リリー

それはその、そうなのですが……。
私が自主的に警備をお手伝いしているんです

勇者コード

自主的に?
それはまた、どうして

リリー

普段は教会で孤児の世話を手伝っているのですが……。

最近、爆発事件が起きていると聞いたものですから


 そう言ってリリーは俺のことをじっと見てくる。
 ……しまった、藪蛇だったか。



勇者コード

そ、そうなのか。
さすが守護神リリーだな

リリー

え?! なんですかそれ、変なこと言わないでください!

勇者コード

変なことって、普通に褒めてるんだが……


 もしかして自分がそう呼ばれていたこと、知らないのか?

勇者コード

ちなみに他の団員はどうしたんだ?
今は一人と言っていたが

リリー

みんな、バラバラです。
この町に流れ着いて騎士団に入った子は、元の町に帰っていきましたし、騎士を辞めて普通の仕事に就いた子もいます。
ただ……


 リリーはそっと視線を地面に落とす。

勇者コード

ただ……?

リリー

私も元々は別の町の出なのですが、この町にやってきて、出会った友人がいるんです

勇者コード

ふむ? そうなのか


 話の流れが読めず、曖昧に頷くことしかできない。

リリー

ミカって子なんですけど、すぐに意気投合して……彼女は面白そうだからと、私を持ち上げて騎士団を作りました

勇者コード

面白そうだから

リリー

はい。面白そうだからと言っていました。

それがリリー騎士団の成り立ちなのです


 よくわからないが、すごい裏話を聞かされているような。



勇者コード

待てよ?
ミカと言えば、リリー騎士団の副団長じゃないか?

リリー

よくご存じで。
ミカは私を団長にし、自分は副団長として自由に動いていました

勇者コード

そ、そうなのか……


 確か副団長は遊撃手として活躍していたと聞く。
 それはそれで適材適所だったんじゃないだろうか。

リリー

ですが、問題はここからです。

魔王が倒され、騎士団をどうするかという話し合いがされました。
その席で、ミカはなんと言ったと思いますか?

勇者コード

さあ……。
いや、流れ的に解散しようと言い出したのもミカなのか?


 立ち上げたのがミカなら、解散させたのもミカ。
 きっとそういう話なのだろう。

リリー

半分正解です。
ミカは……こう言ったのです


 リリーは目を瞑り、少しだけ溜めてからその言葉を口にする。





リリー

隣の町の騎士の人と結婚するから、騎士団は解散しよう、と






勇者コード

…………


 俺の中で、言葉に出来ない感情が湧き上がる。

 そして……。










『実はさ、僕たち、魔王と戦う前に約束をしていたんだ』

『魔王を倒すことができて、城に帰ったら』


『結婚しようって』









リリー

酷い話だと思いませんか?
さんざん私を振り回して、あっさり結婚しちゃったんですよ。
信じられますか?

勇者コード

……信じられないな。
酷い話だ、本当に


 騎士リリー。彼女は……。

勇者コード

なるほどな、それで今は一人というわけだ

リリー

はい。

……あ、すみません!
つい、おかしな話をしてしまいました


 一人になってしまったから。
 きっと、誰かに話してしまいたかったんだろう。

リリー

……わ、私のことはもういいですよね?
そろそろ、爆発についてお話を聞かせてください

勇者コード

そうだな……


 俺がしなくてはいけないことは、リリーを騙し、言いくるめ、見逃してもらいさらには黙っていてもらうこと。

 そのはずなのだが……。

リリー

なにか事情があると、仰いましたよね。

勇者コード、やはり私はあなたを信用したい。
魔王を倒した勇者の行動が、無意味のはずがありません

勇者コード

……あ、ああ

リリー

ですが、それ以上に……。

失礼かも知れませんが、あなたは私と似ているような気がします。
だから、信用したいのかもしれません


 少しだけ、迷っていた。

 だけどその一言で、俺は決断することができた。



勇者コード

奇遇だな。
ちょうど俺もそう思っていたところだ

リリー

え……?

勇者コード

すまない、騎士リリー。
信用してくれるというのなら、もう一度場所を変えさせてもらえないか?

説明をするのに、もっと適した場所があるんだ


 少なくとも、こんなシリアスな雰囲気で話すことではなかった。





…後編に続く

第3話「勇者の試練」(前編)

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