ハリ

こんにちは

ミユキ

こんにちは

ハリ

幽霊です

ミユキ

幽霊さんですか

ハリ

幽霊なんです

ミユキ

ははあ、足がない

ハリ

足のない幽霊の創始者は円山応挙だという説がありますが、わたしとしてもイメージが大切かなということで

ミユキ

重力には魂惹かれてるんですね

ハリ

これでもアースノイドですし、変に重力の支配から脱すると、第二宇宙速度で吹っ飛んでいきかねませんから

ミユキ

サイコフレームが共鳴してアクシズを押し返せるかも

ハリ

やりましたね。BEYOND THE TIMEの練習しとかなくちゃ

ミユキ

私はギラ・ドーガに乗るので

ハリ

では、わたしはゴトラタンに

ミユキ

カテジナさんやないかーい

ハリ

あはは

ミユキ

あははは

リサ

ちょっと待て!

 リサが叫んだ。
 今さらながら、現状を確認しておこう。
 昼間である。
 売店部である。
 この幽霊は一見さんであり、ハリと名乗っている。
 北原白秋が詩にも使った『玻璃』から取っているそうな。
 いやいや、そんなことはどうでもいい。
 オカルトに対して結構ビビりなところがあるリサは、今起きていることの異常さにツッコミを禁じ得なかった。

リサ

お化けじゃん!

ミユキ

そうだね

ハリ

そうですね

リサ

怖いじゃん!

ミユキ

朗らかだから、さほどでもない

ハリ

さほどでもありません

リサ

ちょっと前に幽霊じゃないのってのが出た時にビビったくせに!

ミユキ

あんな不気味なのはそりゃ怖いよ。でも、この人は怖くないもん

ハリ

ドーナツが好きです

リサ

どこから出すの!

ミユキ

出すとかヒワイだなあ、リサは

ハリ

全くですね。まだお昼ですよ?

リサ

お昼から出てきてるのはどこのどいつだ!

ハリ

オランダ

ミユキ

おっ、この時が止まった感のあるギャグ

リサ

息が止まりそうになるわ!

 リサの反応に、ミユキとハリはまた笑った。
 そもそも、常識というものを尺度したならば、リサが見せた応接こそが正しいのである。
 彼女は入店のピンポンも鳴らさずに入ってきた。幽霊の印象通りに物理的な装置には引っかからないようである。

ミユキ

最近引っ越して来たんですか?

ハリ

そうですね。都会に疲れちゃって

リサ

まあ、四条清水を選んでくれるのは嬉しいですけど……

ハリ

家を探してるんです。空き部屋ありませんかね?

ミユキ

このへんの家で空き部屋がない家はないよ

リサ

うん、戸建てに勝手に住み着くの前提だね

ハリ

幽霊ですから

ミユキ

幽霊だもんね

リサ

都合のいい時だけ幽霊ぶるな!

ハリ

いやいや、わたしはいつでも幽霊ぶってますよ

ミユキ

幽霊ぶるという謎のワード

ハリ

もっと貞子メソッドを活用した方がいいんでしょうか

ミユキ

それはシリーズを重ねるごとにコメディ色が増したり、始球式に出てきて謎の投球術を披露したりするってこと?

ハリ

チェーンソー二刀流でジャーナリストと戦ったり

リサ

デッドライジングのピエロじゃん!

ハリ

6番レジへどうぞ!

リサ

それ違うボスだから!

ハリ

とまあ、そんな愉快なやり取りができる家に住めたらなって

ミユキ

リサんちでいいじゃん

リサ

断る!

ハリ

あ、わたし、夜に徘徊するのが好きなので、そこはご了承くださいね

リサ

トイレに起きた時にびっくりするからやめて!

ミユキ

リサはお漏らしするからなぁ

リサ

しない!

ミユキ

中学生の時までしてたじゃん……

リサ

あれは寝る前にホラー映画を見せられただけだから!

ハリ

ほらぁ

ミユキ

ハリちゃん、今度リサんちでSIRENやろう

ハリ

やりましょう

リサ

やらん!

 リサは頭痛を覚えた。
 まさかここに来て、自分をいじる存在が増えると思わなかったのだ。
 それも幽霊である。

ハリ

じゃあ、ちょっと買い物させてもらいますね

ミユキ

どうぞどうぞ

リサ

ひとつ思ったんだけど、お金持ってるの?

ハリ

持ってますよ。円とドルとユーロ

リサ

なぜワールドワイドなのか

ハリ

生きてる時は海外旅行なんてできませんでしたから、死んでから堂々と旅人になってるんです

ミユキ

じゃあ、四条清水からも旅立つ日が?

ハリ

うーん、今のところはとても居心地がいいですから、ここを拠点に旅に出たり出なかったり……ですね

ミユキ

うれしいなぁ

リサ

そんな国際派がカップ味噌汁を買うかカップ豚汁を買うかで悩んでいる姿がね

ハリ

悩むというのは楽しいものです。というか、悩み多きゆえに幽霊やってるんですし

ミユキ

哲学的だなあ

ハリ

スイーツはどうしようかなぁ

リサ

ちょっと買いすぎじゃない? 食べられるの?

ハリ

ああ、これはおふたりへのプレゼントです

ミユキ

なんと!

ハリ

お近づきの印に

リサ

ありがとう……

ハリ

これから長い付き合いになることを願っています。早くいっしょに海外旅行しましょうね

リサ

それ、はよ死んで幽霊の仲間入りしようねってことじゃないよね

ハリ

手助けならできますよ?

リサ

やめい!

ハリ

冗談です。幽霊が生きている人間に敵うわけないじゃないですか

ミユキ

そうなの?

ハリ

幽霊に力があったなら、今ごろ生きている人間は絶滅していますよ。もちろん名の有る怨霊ともなれば、また別ではあるんですが

ミユキ

敬称をつけないとヤバイ系の方々だね

リサ

貴方は恨みつらみとかないの?

ハリ

ありますよ。祟ってやりたいと思うこと

ミユキ

どんなの?

ハリ

電車で二人分の席を占有してるおじさんに対して……

リサ

公共交通機関を使うんかい!

ハリ

都会ではロングコートを着て正体を隠してたので

ミユキ

不気味な女で都市伝説になる系だ

ハリ

タクシーの後部座席で水になったこともありました

ミユキ

よく考えたら、あれって無賃乗車だよね

ハリ

しかも、車内を汚してますし

ミユキ

エチケット袋を使わないと

ハリ

みんな力がないから、嫌がらせに全力を挙げたりするんですよ

 あっ、とハリが声を上げた。

ハリ

忘れてました。これもください

リサ

リゲイン?

ハリ

勇気のしるしです

リサ

幽霊が二十四時間戦うのかぁ

ハリ

有給休暇に希望も乗せます

リサ

無職でしょ

ハリ

毎日が有給休暇です

リサ

いや、無給休暇でしょ

ハリ

お金はもらってますよ

ミユキ

そうなの?

ハリ

はい、問題です。わたしの職業は何でしょうか

リサ

ヒントも何もなく……

ハリ

答えはゴーストライターでした

ミユキ

まさかのゴーストつながり!

ハリ

不正解だったので、これらの商品はもらっていきます

ミユキ

待てい

ハリ

あ、ダメですか

ミユキ

料金を払わないと掃除機で吸い取ることになる

リサ

ゴーストバスターズ!

ハリ

ビジネスにちゃんとしたところ、ますます気に入りました。うちに来てリサさんに添い寝していっていいですよ

ミユキ

そんなん昔からしてるし

リサ

最近はしてない!

 結局のところ……。
 ハリは閉店まで居座り、本当にリサの家にやってきて、そのまま住み着くことになった。
 居座ったおかげで、四条清水の主な面々への面通しも済んだ形となる。
 またひとり、売店部を通じて四条清水へ受け入れられたと言えるだろう。
 そういう意味では誇らしいものを感じつつも、なんだか生活がどんどん変わっていくなあと複雑な表情を浮かべるリサなのであった。

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