タキ

落ち着いて聞いてほしいの。
……この世界は、まるごと
存在しないのかもしれない。

ミヤ

……存在、しない……?

タキ

そう。外部から……おそらく
『現実』から、形式と構造を設定されて
結果を算出する仮想実験システム。
私はそれぞれ違った人格を毎度
入れ込まれ、行動を繰り返している……

ミヤ

そ、そんな……それなら私たちは、
誰かが作ったプログラムということ
なの……!?

タキ

うん。大多数の私たちが、
ほとんど何の疑問も持たずに
謎を探し、話し合い、解決に至るまで
協力し合ってきたのはそういうこと。
そういう風に組み込まれているから。

タキ

まあ、人格の設定によっては脱出自体を
諦めたり……殺し合いにまで発展して
しまったりもしたけどね。

タキ

脱出できないので、……むしろ脱出すると
したらこの仮想システムは終わり、私たちは
役目を終了したので存在意義がなくなる。
自我も消えてなくなる。

タキ

だから、ここで終わりなんだと思う。
学校から出られたし、問題なく目覚めた。

タキ

もう……いいでしょう。

ミヤ

ま、ま、待ってよ!あなたはそれで
いいの!?自分がただのプログラムで、
存在しないもので……それでどうして
納得できるの!?

ミヤ

本当にそうだったら私たちは生きてすら
いないのよ!?それでどうして……!

タキ

……

タキ

運命だってそういうものだよ、
ミヤちゃん。

ミヤ

運命……?

タキ

そう。たとえば私たちが生きていたとして、
過去、現在、未来が存在する。

タキ

過去は不変であり、現在に続いていれど
もうどうにも出来ない。現在は常に未来へ
移動し、一分一秒を過去に押しやっていく。
未来は現在により左右され、まだその形は
はっきりしていない。

タキ

私たちは6月10日を繰り返しているけど、
本来生きていたらそういった流れに
乗っていくでしょう?それは、私たちが
前の私たちから託された謎を解きながら
次の昼時間や夜時間に託したりしたのと
同じだと思うの。

タキ

ここは仮想人生。仮想運命。
そして、現実の神様やなんかと
同じように、天上の管理者がいる。
そういうことだよ。

ミヤ

それは……でも、生きているなら
ちゃんと実存しているじゃない。
世界に……

タキ

強制的に目覚めさせられて、訳も
分からず出口に向かってレースするのは
生きていたとしても今と変わらないよ。

ミヤ

……

ミヤ

あなたがわからないわ。タキちゃん……
頭が良すぎる。

タキ

はは。それ、よく言われた。

タキ

さあ……もういいんじゃないかな。
これでもう出揃ったでしょう。

タキ

「私は殺しました。
私は疲れました。
私は堪えられない。
私は持っていた。
私は何もなかった。
私は何も出来ない。
私は私。滝沢 多岐。」

タキ

今の私は殺してない。
今の私は疲れてない。
今の私は堪えられた。
今の私は全部持っている。
今の私は何でもある。
今の私は何でも出来る。
私は私。だけど、
全ての滝沢 多岐。

タキ

Q.E.D.――かく示された。

つづく

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