悟君!

ん……?

三宮悟君……だよね

……誰だお前

ええっ私のこと知らないの!?

知るか

私だよ、私。玉川怜奈

……知らない

ひっどい。弓月芸術大学演劇部の看板女優、玉川怜奈です

……興味ない

……芸術大学であるこの大学で一番力が入れられている舞台関係の部活に興味がないなんて……

やっぱり悟君って変わってるね

……そうか

もう、さっきから何その対応!

……興味がない

さっきからそればっかり

興味がないことに時間を割きたくない。俺はお前を知らない。それだけだろう

それとも何か用でもあるのか?

あーりーまーす。あるから声をかけているんでしょ?

……そうか

ちょっと、なんでそこでどっか行っちゃおうとするの!?

まあ、悟君らしいといえば悟君らしいかなあ

お前は俺を知っているのか?

うん。一年のころ芸術制作基礎Ⅰの授業で班が一緒だったでしょ?

……覚えていない

うん、さっきからの反応を見ればそうだよね……

で、んーっと……玉川怜奈

いきなり呼び捨て!?

結局何が言いたいのか簡潔に言え

人形を作ってほしい

……ごめん、やっぱり順を追って行ってくれ

はーい

あの授業でさ、私たちの班は舞台装置を制作したよね

ああ……そんなこともあったような

ちなみに課題のお題は『妖精』

……ああ

背景を花柄にしたり小物で花を用意したり、照明の光の加減で木陰をイメージさせたり、いろいろやってみたけど、どうも妖精感が出なかった

そうだな。あれは単なる森だった

思い出してくれた!?

何となくな

それでね、その時悟君が私たちの班を救ってくれたんだよ!

……

本当は覚えているんでしょ?

悟君は切り株の上や宙に浮かせる形で沢山の妖精を作ってくれたよね

人形の妖精を!

私はね、あれに感動したの

……必要に駆られたから作っただけだ

悟君は落ちこぼれなんて言われているけど、私は違うって知ってる

悟君は手先が器用っていう長所がある

人形作りのセンスもある!

……偶々だ

ジャーンっ

……それは

悟君が一年のころに作った人形でーす

……持っていたのか

捨てるのがもったいなくてね

で、本題

演劇部で今度劇をやるの

それが?

その時に人形が沢山必要なんだよ

は?

人形がね、人間の姿になって動き出すお話なんだけど……人間になる前の人形が必要で……

しかも、役者そっくりにする必要がある

……

そんな人形なんてなかなか売っていないし、作る事も難しい。でも、そこでそこで救世主!

……断る

なんで!?

……なんか、面倒そうだ

悟君の才能が生かせるいいチャンスだよ!?

……

お願い! 無料で演劇が見れるチケットあげるから!

いらない

こ、ここまで頼み込んでも聞いてくれないなんて……酷いです……

な、急に泣くな!

あー、いたいた悟……って演劇部の看板女優の玉川怜奈さん!?

悟、君はどうして玉川さんを泣かせているの!?

ち、ちが……

う……うう、違うんです。私が悪いんです……

泣くな!

うう……

悟……?

ちょ、ちょっとこっち来い!

わわっ

お前、一体どういうつもりだ

ははは、こうでもしないと言うこと聞いてくれないかなって

……演技か

もっちろん

私の力は偉大だよ? 私の演技力ならどんな噂だってみんな信じちゃう

……

だから、了承するなら今のうち

……

ほらほら、また大声で泣いちゃうよ?

分かった

おおっ

ただし……条件がある

続く

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